百二話 文武両道張文遠

「奉先よ、当時十八路諸侯を震撼したお前の気魄は何処へ消えた!?三手合いで三将を斬り伏せた武勇は何処へ消えた!?今日の戦いで敵将三名に対して四十の手合いも持たずに帰って来て、我が軍を危険な目に会わせかねなかったぞ!全く失望した!」

袁術は龍椅に座り、手摺に寄りかかって、呂布へ見向きもし無かった。


「当時のお前は董卓の元で天下の武将を草木のように薙ぎ倒したのに朕の元ではあっさりと負けて!朕は董卓以下とでも言うのか!?」


袁術の中では呂布は天下無敵で無ければならない。

呂布が天下無敵であれば軍中に大きい御旗が常に立っているも同然、その御旗により求心力が絶大なものになる。


なのに初戦の敗退により淮南軍の士気は下がった。

この打撃は強過ぎた。


呂布「お怒りを収めてください…」

悪い事をした子供みたいになっている呂布は状況を説明しようとした

「今日戦った三人は誰一人もただ者じゃない、それにその連携攻撃は凄まじいものでした!俺は……」


「言い訳なんか聞きたくない!」

袁術は手を振り、呂布の話を遮った

「おい、良かったな!今日曹操が一騎打ちの後に追って来なかった事が!追撃していたら我が軍は大打撃を受けていたぞ!そうなればいくら朕でもお前を救えなくなる」


袁術はやっと体を正面に向き呂布を上から下へと見て

「何がただ者じゃないだ?今の奉先が酒と女に現を抜かして、身体が鈍ったじゃないのか?」


「……父皇の言う通りです、今日から禁酒します……」

呂布は俯き、上目でチラッと袁術を見て、袁術と仲良くやっていく幻に亀裂が入った。

やはり天下の義父は皆同じ、その中でも袁術、お前が一番腹黒いわ!


当時の虎牢関で劉備、張飛、関羽らと引き分けた際ですら董卓は黄金と上質な絹を送って来たというのに……

お前がそう無情なら、俺も無情になれる!

精々今の暮らしを楽しむが良い!


「もう下がっていいぞ、ゆっくり休め、後日もっかい攻めて来い、当時の呂布奉先を見せてくれよ!次また負けたら…」

袁術は目を細めて

「朕が何かを言うまでもなく、三軍の将兵たちがお前の大将軍の役職に不服を持つだろう」


「……はい」

眉間に皺を寄せた呂布は拱手しそのまま後ろ歩きで軍帳から出て行った。


自分の軍帳に戻った呂布は一人でヤケ酒を呑んでいた…

何杯か呑みきった彼はへへっと笑い昔の自分を振り返っていた。

かつては"呂布"の名は天下に轟き、今では笑いものにされた。


「温侯、何だこの仕打ちは!どう見てもあの三人は万人不敵な猛者、温侯はそれを一人で引き分けに持ち堪えた!なのに袁術はそれを罪とした!増しては子木と季添が戦死したのに労いの言葉も無い!我々の命はなんの価値も無いと言うのか!」

怒りを顕にした張遼が入って来て袁術への不満を口にした。


「文遠!シーっ!」

呂布は急ぎ周りを確認して軍帳の幕を下ろした。


「死など恐れない!我らの兄弟たちは常々死の覚悟ができている!遼の首はここにある、欲しければ取りに来いよ袁術!」

張遼は滅多に怒らない、長年一緒に居る呂布はここまで怒る彼を見るのは初めてだった。


文遠は本当に悔しかったんだろうな…

陳宮は去った、高順の居場所もわからない、魏続、郝萌も死に、かつての同僚は今は残り少ない。

止めても無駄か…


再び杯を持って酒を呑む呂布を見て張遼はため息をつき

「温侯、行きましょう…ここは我々の居場所じゃない。俺は温侯と共に洛陽、長安から濮陽、小沛にまで幾度死線を潜り抜けて来た!今みたいに人の顔色を伺ったことは無い!もうここに居たくない、他へ行きましょう!」


お前も行ってしまうのか……?

呂布は酒壺を下ろし張遼の肩に手を乗せて

「文遠、もう少しの辛抱だ、考えがある!信じてくれ!」


「温侯、大志を抱くのは分かります!袁術の力を借りて再起を狙うつもりでしょ?俺は信じるが袁術は信頼していない!このままでは袁術と共倒れになります!」


呂布の手が張遼の肩から滑り落ちた、同じ事を陳宮にも言われたから。


呂布は立て掛ける方天画戟を見て満面の哀愁

「何処へ行けるのだ…」


「男は三尺の青鋒を手に何処へだって行けます!温侯となら苦しい生活を送っても背筋を伸ばせればそれでいいです!」


「頼む文遠、もう少し時間をくれ!」

獰猛な虎でも優しい時があるように呂布の誠意が張遼の心を揺さぶった


「温侯、袁術は待ってくれません。すぐ城を攻めろと言われてもこの状況では勝ち目はありません!負ければまた温侯の罪にされます」


呂布「公台先生が居ればな…」

張遼「温侯、曹操軍を誘い出す方法も無くはないです!」


張遼は少し間を空けて呂布へ耳打ちすると呂布は笑顔を浮かべた。


呂布「アッハッハッ!行こう!袁術に兵の使い方を教えてやろう!」

張遼「温侯一人で行ってください、俺は会いたくもありません」

張遼は召陵に着いた頃から対策を考え着いた、口を開きたくなかっただけだった。


呂布は仕方なく一人で袁術に会いに行った。


「いい策略だ!奉先が考えたのか?」

袁術が首を縦に降り、皇冠の真珠同士が当たりガシャガシャと音を立てていた。


「はい、先程思いつきました!」

呂布が拱手した


「見ろ!我が子奉先!無敵な武力に軍を抜く知略!」

袁術は感激した、彼が帝を名乗ってから陳宮が去り、閻象も隠退した。


今の袁術には策士と呼べる部下は居ないからこの策をいい作戦だと思った。


袁術は呂布の前へ行って優しく声をかけた

「奉先よ、今朝は少し強く言ったかもしれんがそれも愛のムチ、君は我が子同然!本当に罪に問うわけもなかろう!」


「そうですよ大将軍!あなたが出ていった後陛下は涙を拭いて居られました」

近くの将張勲も袁術のフォローをした。


呂布「ありがとうございます」


礼を言ったが呂布は何も思わなかった。

これらのなだめの話を、彼は丁原に始まり董卓を経て今は袁術からも聴いて、既に免疫力が着いてしまったから


袁術「よしっ!では準備して作戦通りに始めよ!成功すれば奉先が勲一等!」


呂布「はい!」

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