百一話 呂布敗退

「陛下!狡猾な曹賊が敵将三名を出して来ました!こちらもあと二名送りましょう!」

取り囲まれた呂布を見て橋蕤は提案した。


袁術はニヤリと笑い手を振り

「心配要らない、子芽は知らないかもしれんが。かつての酸棗では北海勇将王衝、冀州上将韓勇、徐州の大将劉三刀らが同じように協力して奉先に立ち向かったが、三対一でも奉先はたった三手でこの三人を斬り伏せた!我が奉先の勇猛さは子芽の想像を超える、刮目せよ!」


呂布の立ち回りを見た事がある袁術は自信満々にそう言った。

最も重要なのは呂布が一人で三人を打ち倒すことに意味がある。

一対三で勝てばこの後の攻城戦では自軍の士気がとんでもなく上がる。


「準備を整えろ、状況が悪くなったら温を救いに行くぞ!」

青天鈎鎌槍を固く握る張遼が小声で言った。

趙雲と典韋の強さを張遼はその目で見た事がある、今回の一対三は勝てるかどうかはわからない。


「あぁ!準備はできている!」

魏続がそう言うと曹性も郝萌も頷いた。


臨穎城前、三人が呂布を取り囲み、典韋は首をパキパキと鳴らして双戟を構えた

「おい呂布、今日生きて帰れたら覚えておけ!俺ら三兄弟が居るところは立ち入り禁止な!」


呂布は珍しく"フン雑魚が"とかを言わずに方天画戟を典韋目掛けて振り下ろした。


戟同士が押し合いしてる最中、竜胆亮銀槍が背後から来た。

呂布は方天画戟の柄の底で槍先を流し、体勢を整い趙雲に向かう。

すると今度は火雲刀が勢い良く上から斬って来た。

呂布は今度赤兎馬のお腹を足で挟み、赤兎馬の脚力で躱し、火雲刀が地面に叩きつけ土埃を巻き上げた。

呂布はこの機を逃さず、振り向かずに先程自分の居た場所の許褚目掛けて方天画戟で横薙ぎした。


呂布の反撃が土埃の中で双戟に弾き返され、気が付くと竜胆亮銀槍は既に目の前!

呂布は頭を下げて辛うじて躱すと今度は火雲刀がその首筋を目掛けて振り下ろされた。


許褚の火雲刀を両手で持ち上げた方天画戟で防ぐと再び双戟と竜胆亮銀槍が襲いかかて来る!


土埃の中で方天画戟と三人の武器がぶつかり合い火花と衝突音を撒き散らした、その様子はまるで雷が鳴り響く暗雲の様だった。


いかん!この三人の武芸も相当なもの!三人の連携攻撃が次々とひっきりなしに来る…虎牢関のあの三人よりやりずらい!万が一包囲でもされれば手の打つようがない!


三十手ほど過ぎ呂布は明らかに劣勢に成りつつある。

それを覆すには三人を目の前にまとめなくてはならないがなかなかそうもいかない。


呂布は方天画戟で地面の土埃を巻き上げ、赤兎馬で少し距離を置いた。


そして典韋と許褚、趙雲も心の中で呂布の実力に感心していた。


三人掛かりで全力を出している状況でも未だに一発も呂布に有効打を浴びせることができなかったから。

もし一人で呂布の前に居たら三人中誰も勝てないだろう。


「まだまだ!」

許褚が真っ先に距離を詰め、引き摺った火雲刀が地面と擦り火花を散らした線を引く。

二人の距離がに丈程の所で許褚は火雲刀を切り上げ半月を描いた。


呂布は方天画戟でそれを押し付け余裕で防いだが典韋と趙雲がまた左右から突撃して来た。


二人の攻めに呂布は天下無双の武を見せる、方天画戟の首尾でそれぞれの攻撃を防ぎ、受け流した。


残念ながら今の呂布は防ぐ事で精一杯、少しも反撃できずに居る。


カシャン!

典韋は双戟で呂布の方天画戟に巻き付き抑えた、趙雲も方天画戟の柄を竜胆亮銀槍で抑え付けた。


身動き取れない呂布に目掛けて許褚は爪黄飛電から高く飛び跳ね、泰山の如しの切り下げを繰り出した。


カシャン!

どうにか抑えられた方天画戟を頭の上に押し上げた呂布は今まで感じたことの無い三人の力で押し込まれた。


両腕から引き裂かれる様な痛みを感じながら赤兎馬を見ると、赤兎馬もこの力に耐えきれずに嘶きを上げて前足から崩れた。


三人同時に手網を引き、絶影、爪黄飛電、証夜玉獅子で呂布目掛けて飛んで来た。


「温侯!」

張遼が声を上げると袁術は目の前の珠すだれをかけ分けて注目した。


臨穎の城関上の曹軍陣営も瞬きもできずに居た


馬から落ちた呂布は起き上がるよりも前に方天画戟で三匹の馬の前を横薙ぎると三匹の馬が前足を上げて怯んだ。


一瞬の怯みに付け入り呂布が赤兎馬に飛び乗り体勢を整う前に一枚の鳳翼金戟が真っ直ぐ飛んできた。


カシャン!

辛うじて頭を下げた呂布の頭上から紫金冠が飛ばされた。

髪を風に靡かせる呂布の目からは恐怖の色が読み取れた。


典黙の言う通り、呂布は三十六手で完全に劣勢になり、赤兎馬も疲弊し、紫金冠すらも飛ばされた。


トドメを刺そうと、三人が一斉に飛び掛かる時にいつの間にか張遼が既に飛び出し、横槍を入れて来た。


張遼 青天鈎鎌槍を振り回し突撃して来ると後ろに曹性と郝萌も続いて来た。


曹性は鉄胎弓を構え典韋に向け一本の金襟矢を放った。


シュッ、パシッ


典韋が双戟でそれを防ぐより前に趙雲の竜胆亮銀槍がその矢を弾き真っ二つにした。


呂布もその隙に赤兎馬の馬頭を引き返し自軍へ戻ろうとした。


「逃がすか!」

典韋は双戟を片手で持ち、投戟を二本取りだして絶影の速度を上げて追いかけた。


絶影の加速を利用して、典韋は投戟を投擲し、金戟が光を帯び魏続と郝萌の鎧を貫き、二人の骨で止まり。

二人は声も上げずに馬から転落した。


「必勝!必勝!必勝!」

臨穎城関の上で将兵たちの歓声が沸き起こった


「撤退!撤退だ!」

袁術は急いで馬に乗り、手を振り撤退を命じた


「丞相、追いますか?」

淮南軍の混乱を見て興奮した曹仁が嬉しそうに聞いた。


曹操は首を横に振り

「いやっ、いい。此度の戦いで敵将二名が討ち取られ、士気は下がり切っている。更に焦りを感じさせてからトドメを刺してやろう!」

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