九十四話 尻拭い
「父上、先生の処遇はどうなるんでしょうか?」
丞相府から出た曹昂は心配そうに曹操に聞いた。
曹操「処遇?目には目を歯には歯を、罪は罰せなければならん」
「先生の足を折るのですか!?」
曹昂は急いで曹操の前に立ちはだかり曹操の足を止めた。
「人を殺せば命で償うべき、典黙は功労者だが鍾家も同じく功労者」
曹操は手を後ろで組み、眉をひそめた。
「なりません!先生の補佐が無ければ我々曹家のこれまでの偉業も有り得ませんでした!」
曹昂は目を真っ赤にして涙を貯めていた。
「どうしてもその代償を支払わせるなら僕が代わりに足を折らせます!」
言い終えると曹昂は鍾家の方へ向かおうとした。
曹操は曹昂の袖を掴まえ止めた
「お前はいつになったらその早まる性格が治るんだ」
曹操「試すような事をしてすまない、その子寂への気持ちは大事にせよ。そして覚えておけ、いずれお前が天下を手にしてもその気持ちを変えるでないぞ…」
「父上ご安心を!公事では先生は我々曹家のために策を講じてくださり、私事では僕に知識を伝授して頂いております。これらの恩は絶対に忘れません!」
ほっとした曹昂はやはり典黙の処遇が気になって
「では先生はお咎めなしという事ですか?」
曹操はチラッと曹昂を見て
「ふむ、正直今回の件は大した事じゃないが、鍾家への落とし前も着けなくてはいけない」
曹昂は状況を理解して頷いた
「では先程は鍾家のために演技をされたのですか?ならほっとしました…」
曹操「権術だ、覚えておけ。そして思いつきで動く子寂ならこれからも不祥事を起こしかねない、我々もできるだけ目を瞑りながらその尻拭いをせねばならん!」
曹操親子が典黙府に着くと当然罪に問うつもりも無く適当な椅子を見つけては着座した。
曹操「聞けば今日の昼間にとても良い詩を創ったとだか?見せてもらおうか?」
「あらっ、こんな些細な事まで丞相のお耳に入りました?」
典黙はそう言って一枚の紙に書かれた詩を取り出して曹操へ渡した。
「待到秋來九月八,我花開後百花殺。衝天香陣透長安,滿城盡帶黄金甲」
曹操「秋の九月八日を待ち、我一人の呼びかけに応じ続く者たちを率い、長安で天にも香り(声)をとどろかせる陣を並べ、城の至る所に黄金の鎧を身に付けた武士……か!ガッハッハッ……」
この詩は後漢から遥かに千年後後の唐朝時期、当時の朝廷に不満を持った黄巣が創った反逆の詩であり、今の曹操は少なからず共感を持った。
曹操も短歌行を書き上げるほどの詩人であるからして当然この詩もとても気に入った。
「もの足りぬ…少し変えてもいいか?」
そして曹操は首を横に振った。
えッ!?曹操が千年後の詩に手を加えるのか?!これは時代を超える作品に成る…!!
そう思った典黙はワクワクしながら曹操を急かした
典黙「ぜひともお願いします!!!」
そして曹昂が筆と墨汁を持ってくると曹操は筆を手に取り詩の上に大きく"賛称孟徳"とタイトルを付けた。
曹操「どうじゃ!?」
曹昂「先生の作品は気迫強くまさに父上を形容する物です!この題名ならピッタリかと思います!」
「アッハハ、丞相がそれで満足なら良かったです…」
肩透かしされた典黙は形だけの笑みを浮かべ、曹操の言葉を流した。
「それではっ!あっ、忘れるところだった、人を殴ったりするのはダメだぞ」
曹操は大事そうに紙を巻いて、何食わぬ顔で持ち帰った。
曹操「今回の事件でもし誰かに聞かれたら何と答える?」
曹昂「鍾毓が無礼を働いたのは悪いが手を出した先生も然るべき罰を受け、外出禁止になりました。そして先生もすごく反省し、同じような事件を起こさないと約束されました」
曹操「宜しい!」
本来の目的であった説教を忘れかけた曹操は満足そうに曹昂を連れて帰宅した。
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