八十九話 高順登用

まるまる一昼夜、許褚と趙雲、曹仁らが別々の方向で捜索したがそれでも高順を見つけることが出来ず戻って来た。


そして最終判決に向けて典黙は言い訳を準備した後玄関から出ようと扉を開けたらそこには見覚え有る人が立っていた。

典韋がそれを見ると急いで彼を家に引っ張りこんだ。

典韋「伯平!バカヤロウ!何しに戻ってきたんだよ!」


高順「俺がこのまま逃げればお前が罪に問われるだろう!この高伯平はそのような恩を仇で返す卑怯者では無い!」

典韋「じゃ何がしてんだよ?」

高順「子盛、俺は武人だ、戦場でしか生きられない。温候の元に戻らない約束をした以上行く宛てもない。曹公の配下に加わってもいいが条件が二つある」


典韋「本当か!?速く言ってみろ!!」

高順「お前は今は定北大将軍だろ?その下につきたい!」

典韋「あぁ!ソイツは良い事だ!俺も嬉しい!主公も許してくれるだろ!」

高順「もう一つは、陥陣営の指揮を引き続き俺に取らせて欲しい!」


典韋は二つ目の要求を軽くひきうけられなかった、規律上屈服した敵将は旧部下とバラバラに配属しなければいけない。

これは叛乱を未然に防ぐためである。

曹操は警戒心が強いからもちろん、他の諸侯もこの規律を同じように使っている。


困った典韋は典黙の方へ見ると典黙は微笑んで高順の前へ来た

「わかりました、僕が何とかしましょう」


高順「君は一体…?」


典韋「伯平、コイツは俺の弟、典黙。麒麟の才典子寂だぜ!」

高順「噂の典軍師殿、許昌に居ながらも小沛への布陣、お見事です!」

典韋「小沛なんか簡単簡単!いつか天下を収める器だ!」


典黙「伯平将軍、ここに残るのはきっといい選択ですよ!」

典韋「よっしゃ!そうと決まれば丞相に会いに行こう!」


丞相府内、許褚と趙雲、曹仁らは疲弊しきっていた目の下には大きなクマができていた。


不安を感じている彼らと違って曹純らは未だ怒っていた。

曹純らも典韋のことが嫌い訳では無いが、捕虜の敵将を逃がす事はあまりに大きい問題だった。

本来死罪である罪が簡単に許されては示しがつかないから。


「丞相!!ほらっ見てくださいよ!」

典韋が喜んで高順を連れて来ると場の全員が愕然とした。


「罪将高順、丞相へ拝見します、これから丞相のために犬馬の労をさせていただきます!」

高順は礼儀正しく拱手し片膝を地に着けて言った。


耳を疑った曹操はしばらく高順を見てから笑って彼に近づいて、その肩に手を乗せて話しかける

「ガッハハハハ!伯平の価値はは十万の将兵をも超えるぞ!!」

高順「ありがとうございます」


「どういう事だ?説明してくれるのだろうな」

曹操は典韋の方へ見てその顔は安堵していた。


典韋「弟が教えてくれたやり方よ、一度わざと逃がして音を売ってから戻って来るのを待つ」


明らかな嘘を誰も深堀りをしなかった。

結果として敵将が逃げ出すところか屈服したのは罪ではなく功労となったからだ。


笮融「その通りです!私も見ました、そして聞きましたよ、先生はやはり凄いですね!」


「退け!」

笮融を押し退けた許褚は不満そうに典韋を睨みつけて

「それならそうと最初から言えよな!俺たちが丸一日捜索しに出たんだぞ!今日妓楼の代金は当然お前が持つよな!子龍、豪遊してやろうぜ!」


趙雲「いえ、僕は帰って寝ます!」

典韋「だから関係ねぇって言ったろ、まぁ妓楼はいい案だな!行こうぜ子龍、伯平!」


趙雲「いえ、帰って寝ます」

高順「……許昌で家になる物件を探しに行きます」


曹操「事がこうなった以上咎める罪も無くなった、皆下がっていいぞ。子盛、伯平のために物件を見つけよ。それと、よくやった」

典韋「おお!任せろ!」

曹操は手を大きく振り集会を解散させた。

笮融は誰にも相手されずに気まずそうに咳払いをして皆の後に続いて外へ向かった。


全員が去った後曹操は典黙の前に行き

「本当に君の案か?」


典黙は軽く首を横に振り

「まさか、兄さんが勝手にやった事ですよ」


曹操「だろうな。ともあれ今は伯平のような調練にたける人材は欲しい所だ、これで我が軍にも精鋭ができる!剣に切っ先が出来る、棒が槍に変わるぞ!」


確かに高順のような調練の才能に優れる人材は三国時代では希少価値があり、その陥陣営と同等に戦える特殊兵団は数少ない。

白耳平の陳到、無当飛軍の王平、飛熊軍の李傕、大戟士の張郃、先登営の麹義ですら陥陣営の高順とは大きく差がある。


典黙「丞相、陥陣営の処遇は引き続き高順が指揮を取り、兄さんの配下に加え、兄さんの典字営と合同で調練する事を許してください!」


曹操は一瞬戸惑い目を細め、何かを言いたそうにしたけど典黙が続いて話した

典黙「僕の目に狂いはありません、帰ってきたという事は伯平には裏切るつもりは無いと思います!そして典字営の戦力向上の点から言っても伯平が居ればより捗ると思います!今我々が持つ特殊兵団は、騎兵は陥陣営、支援は子龍の弓騎兵です。もう一つ歩兵の特殊兵団が欲しいところですね、伯平に相談してみたいです」


曹操「そこまで考えているなら子寂の言う通りにしよ。だがな、急がねばならないな…」


典黙「丞相が心配しているのは淮南の方ですか?」

袁紹が北で公孫瓚と死闘を繰り広げている、曹操の心配は南の袁術しか無いだろう…


曹操「袁術め、何を血迷ったか呂布を義子にしたらしい…今軍を整え動きもあると報告を受けた」

典黙「袁術が呂布を義子に!?」

曹操「あぁ、彼には少しばかり同情するよ」


典黙「呂布は動きが派手で目を光らせておけば大丈夫かと思います、問題なのは呂布と別に裏でコソコソしている奴が居ます」


曹操「劉表の事か?」

典黙が頷いたのを見て曹操は冗談交じりに

「彼奴は問題ないだろう、奉孝の話を聞く限り自分の庭から出ないらしい。そんな奴が出て来たら迷子にでもなるじゃないか」


典黙「丞相、劉備の行方はご存知で?」

曹操の瞳孔が急に狭まり、緩んでいた表情も引き締まり何かを考え込んだ。


確かに劉表だけなら自分の土地だけを守る番犬のようなもの、もし劉備が荊州に行けばどうなる?

劉備は仁義を掲げ人を面倒事に巻き込んでその土地を奪うのが得意とする。

そんな奴が劉表の処までたどり着けば話が変わる。


曹操「ありがとう、子寂!スッカリ忘れておった!すぐにでも荊州に遣いを出そう!」

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