八十二話 師兄弟

張遼、郝萌らは残りの騎兵を率い曹軍と正面衝突した。

張繍の率いる曹軍は張遼の部隊より戦闘力は低いが、張遼の部隊は既に城内で激戦の末ここまで逃げて来た。

対して張繍の部隊は待ち伏せていた。


曹軍の歩兵たちはじわじわと呂布の騎兵たちを取り囲み、確実に仕留めていく。


統率力で勝てるのに張遼の部隊は突破できずに居た。

張遼、郝萌、曹性、魏続らが先頭で切り開いてもすぐに曹軍の後続の兵士に埋め尽くされる。


苦戦している彼らを見て呂布は焦った、この状況打破するには敵大将を討ち取るのがいちばん速い。


呂布は赤兎馬で二丈程の距離を一躍して、稲妻のように張繍の目の前まで来た。


カキーン!


振り下ろされる方天画戟を張繍は虎頭湛金槍で防ぎ、更にその力を逃がし、攻撃を受け流した。

方天画戟が虎頭湛金槍の柄を滑り火花を散らす


それでも完全に流しきれない圧力は虎頭湛金槍を通して張繍まで伝わった!


なんとか鳴り響く虎頭湛金槍で持ち堪えた張繍は気づくと既に右側から方天画戟が再び自分の顔目掛けて飛んで来た。


もらった!

もうすぐ方天画戟が張繍の首に届きそう!

その瞬間、呂布の直感が働き違う方向からの危険を察知した。


呂布はやむ得ず張繍への攻撃を止めたて、考えるより先に頭を低くして、もう一本の銀槍をギリギリ躱した。


シュッ!


頭上の紫金兜から羽毛穂先が一本ゆっくり舞い落ちた。


穂先が地面に着く前に呂布は身体をひねり、銀槍が飛んできた方へ方天画戟を突き出した。


ガシャン!


方天画戟の突きを受け止めた槍をよく見るとそれは竜胆亮銀槍!

呂布は足で小説風に方天画戟の柄を蹴りあげて竜胆亮銀槍をはね上げた。

そして方天画戟で乱れ打ちを繰り出したが、その攻撃の全数を銀槍で軌道を逸らされた。


数手の手合いで相手の実力は張繍以上と悟った呂布は興味を示した

「フン!曹軍で典韋以外にも猛者が居るとは…やるな、小僧!名を名乗れ!」


いつもの呂布なら相手の名前など聞かずに「フン!雑魚が!」と言っていたのに今日はワクワクしていた。


「常山趙子龍!」

趙雲は謙虚に笑顔を見せて

「温侯殿の戟法は神業で天下無双と聞いております!お手合わせお願いします!」


趙雲は張繍の援護を待たずに夜照玉獅子を動かし、竜胆亮銀槍で無数の突き攻撃を繰り出した。


槍は人気のある武器で多くの武将が好んで使用するが、趙雲は並の使い手とは段違い、突き攻撃の時も風きり音が一切鳴らない。


呂布はそこに違和感を感じていた。

戟尖と槍尖がぶつかり、キーンという音が鳴ると共にそこから発した火花は周りを明るく照らす程飛び散った。


趙雲は猛攻を仕掛け、残像と実体が見分けつかないほどの攻撃はいつも惜しくも届きそうで届かない。


呂布は趙雲の実力に驚いた。

速度と技のキレがほぼ互角なら取る道は残り一つ!

百数手を経て、呂布はついに痺れを切らし、趙雲の竜胆亮銀槍を残像ごと跳ね除けて方天画戟で横払いした!


趙雲は呂布から一歩間合いを取り、童淵から学んだ百鳥朝凰槍の化勁でそれを受け止めようとした。


張繍「子龍!ダメだ!」


先ほどとは一転、武器同士がぶつかり合っても大した音はならなかった。


しかし受け止めた趙雲は失敗に気づいた!

時既に遅し、受け止めたはずの方天画戟から強い衝撃が波のように押し寄せ、竜胆亮銀槍を通して趙雲の虎口を襲った。


呂布…やはり名実共に天下無敵…


趙雲は痺れた肩をほぐして更に距離を取った。


晩年の趙雲なら百鳥朝凰槍から七探蛇盤槍を開発して更に強くなったが、今のままでは悔しいけど、まだ呂布には及ばない。


張繍「子龍、助太刀するぞ!」

趙雲「師兄!心強いです!」


張繍と趙雲が左右に分かれて呂布を攻め始めた。

二人とも同じく童淵から百鳥朝凰槍を教わり、速さと正確な攻撃が売りだった。


呂布は多数の武将を相手にするのは既に慣れていて、少しも顔色を変えずにそれに立ち向かう

呂布の方天画戟はまるで蒼龍のように二人の突き攻撃をいなし、押される事無く逆に押し返していた。


呂布は守備なら方天画戟の尖と柄のどちらも二人の攻撃を防ぐ事ができる、攻めならとんでもない怪力での範囲攻撃。


張繍と趙雲の二人はその怪力に苦戦する一方、呂布は二人の太刀筋に慣れ始め、それを捌くのも徐々に余裕すら出てきた。


力で劣るが技なら互角だと思っていた趙雲は自分の判断が間違えていると理解した。

長年使いこなしていた方天画戟は彼の指のように繊細に動き。

歴戦を共に戦った赤兎馬は命令なしに間合いを調節し、時々後ろ足で夜照玉獅子や張繍の大宛馬を蹴たりしていた。


義父一人の命と同価値の赤兎馬はもはや呂布の身体の一部。

人馬一体を表現しているような呂布が我を忘れて強者との戦いを楽しんでいた時に


張遼「温侯!目的を忘れないでください!」


呼ばれた呂布は張遼の方へ振り向くと、張遼は既に包囲網から突破口を作り出していた。

その周りに無数の死体が転がり、悲惨な戦いを物語っている。


「趙子龍!覚えておくぞ!次会うまでにもう少し腕を磨いておけ!」

呂布は不敵な笑みを浮かべ、二人を置いて突破口へ向かった。

阻止に向かう曹兵も居たが、呂布の通った跡は武器が落ちる音と血の道が残っていた。


張繍「バケモノ呂布め、二人がかりでも勝てないのか…」

遠ざかる呂布たちを見て、張繍は凄く悔しがっていた。

趙雲はため息をつき、悔しさも怒りではなく、あるのはただ一つ、強くならなければ!


戦いを振り返ると呂布の方天画戟は正確さ、速さと力強さのどれをとっても完璧だった。


それに勝ちたいなら百鳥朝凰槍を改良しなくては…帰ったら子盛と仲康に付き合ってもらおう…子盛も戟を使うし馬術以外では呂布と互角にわたるから鍛錬の相手にピッタリだ!


「子龍、俺ら師兄弟で初めて受けた任務なのに…失敗して帰るのは主公へ申し訳が立たない」

反省してる趙雲の横で張繍もまた反省していた


張繍は曹操の配下に加わってから初めての出撃、しかも待ち伏せをする側、それなのに呂布たちを逃がしてしまった。


何よりも問題なのが呂布たちが逃げる時に騎兵はまだ千名程度残っている。

対してこちらの兵は残り五千も満たない。

つまり待ち伏せなのに五分五分の結果になった、これは気まずい…


「主公へは僕から話そう…」

趙雲は未だ戦闘の事を考えていた。

もし自分の武芸がすぐに上達できなければ呂布に勝つのに道は一つしか残らない。

それは典韋と許褚ら三人で共闘する事

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