七十五話 連環計!

袁涣の分析を夢中に聞く皆は肉を口に運ぶ事すら忘れていた。

対局を分析できるだけでなく、典黙の表情にも気を止められるのは皆を感服させた、目の前の袁涣は実は典黙を上回る策士なのではないかと思うほどに。


「今までは先生の事を誤解していました。まさか知識だけでなく、兵法にも通じるとは思いませんでした!まさか一発で典黙の策を破るとは!」

「麒麟の才を凌駕する先生なら、その祖先である九天応龍の才ですな!」


副将たちの言葉にお腹一杯になった袁涣は鹿肉を横に置いた。

麒麟でも応龍でもなんでもいい、数々の伝説を残した人に勝てばそれもまた伝説となる。

そうなれば袁術は閻象よりも自分を首席謀士にするだろう。


紀霊「よし!食事は終わりだ、消灯し鎧を降ろし各軍帳へ戻り消灯せよ!」


紀霊の消灯命令で副将たちや兵たちは寝る準備をして広場から軍帳へ戻った。


興奮で眠れそうにない袁涣は渋々ベッドに横たわると

「あれっ?なんか臭くない…?何だこの匂いは…灯油か!?」


袁涣はベッドから飛び跳ねて慌てて外へ向かった

「起きろ!!空城の計じゃなかった!!これは連環計だ!!」


大声に釣られたかのように一本の火矢が飛んで来て軍帳に突き刺さると火が瞬く間に広まった

そして暴風雨のように大量の火矢が降り落ち、軍営はあっという間に火の海と化した!


多くの兵は逃げ遅れ火達磨になり地面を転げ回る、肉の焼けた嫌な匂いが叫び声と共に辺りを埋め尽くした!


そして時間が経つと、軍帳の下に埋められた硝石が焼かれ毒煙になって充満した。


「アッハハハハハハ!!いいぞもっと矢を放て!!」

隣の山の中間部に逃げ込んでいた夏侯淵と五百名の衛兵が復讐の快感に駆られ延々と火矢を放て居た。


夏侯淵「四千の将兵たちの弔い合戦だ!!淮南軍共、もっと血を流せ!!」


軍帳から逃げ出した紀霊は目の前の光景に驚いて言葉も出ずに立ち尽くしていた。

焼かれた将兵や軍馬が辺りをのたうち回り、地獄絵図の様だった。


紀霊「どうして…」

副将「主将!軍帳に予め火油が塗られていました!そしてその下に硝石も仕込まれていた模様です!まだ間に合ううちに脱出しましょう!」


激しく怒り狂う紀霊は袁涣の胸ぐらを鷲掴みして

「この腐れ参謀が!策を見破ったでは無かったのか?!」


袁涣「主将、典黙は本当に百年不遇の陰険なヤツです!恐らく正攻法では勝てないと見て我々をこの地へ誘い込むつもりです!早く逃げましょう!!」

胸ぐらを掴まれ宙吊りになってる袁涣はジタバタしていた。


紀霊はその袁涣を横へポイっと投げ捨て

「慌てるな!我に続け!」


「主将紀霊は此処に!我に続け!」

逃げる戦馬を捕まえそれに飛び乗ると自分の名前を叫びながら出口へ走った


混乱した兵たちはすぐに収まることは無いが声の方へ懸命に走った。


紀霊が逃げ出した時には軍営は完全に火の海になって、叫び声すら聞こえなくなっていた。

そして自分の周辺には命からがら逃げて来た兵しか居なく、地べたに座り込み泣きじゃくっていた。


ざっと頭数を数えると僅か数千人程度、残りの兵は火の海に呑み込まれたか、他の出口から逃げ出したか分からない。


紀霊は生き残りを招集してこの凶地から撤退するつもりでいると


典韋「陳留の典韋だ!降服か死ぬか選べ!」

許褚「譙郡の許褚だ!命が惜しくば武器を捨てろ!」


典韋と許褚の両名が二千の騎兵を率いて突っ込んで来た。


淮南軍は皆絶望した、手に武器もなく、身に鎧もなく、一部の兵に至っては火事に焼かれ服すらボロボロになっている者すらいた。


彼らに残された選択の中に抵抗はまず無かった、逃げ惑う兵と地に伏せて降参する中で紀霊は再び声を上げた

「慌てるな!汝南に向かえ!そこにはまだ城を守る仲間が居る!そこに行けば助かる!!」


紀霊の一声で淮南軍の逃げる方向は一つにまとまったが馬のない兵士が逃げれば容赦なく切捨てられていた。


典韋「曼成、お前は残って捕虜をまとめろ、俺は追撃をする!」


そう言って典韋と許褚は二千の騎兵で紀霊の跡を追った。


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