六十六話 援軍
曹軍の軍帳内、曹昂は目を覚ましたが張飛から受けたダメージは深く、虚弱した彼はまだ横たわっていた。
典黙を見てこの怪我も価値あるものだと納得した。
「先生、あの後どうなったんですか?」
曹昂の質問に、皆も興味津々で典黙を見た
典黙は少し考えた後口を開いた
「あの時二名の騎兵に追いつかれそうな僕はこのままではダメだと気づいて、方向を変え二人に立ち向かった!二人は槍を突き出したのを見て僕は少しも慌てず真剣白刃取りを使いその槍を奪い返してもう一人に突き刺した!その後はこうやって…」
典黙は適当な事を言いながら実演をして見せた
曹操はそれを面白がって手を叩き皮肉風に
「素晴らしい!子盛たと呂布の対決よりも見応えがあるぞ、見てみたかったものだ!」
皮肉を受けた典黙は少し照れくさそうにしていた。
さすがに本当の事は言えない、呂玲綺に誘拐された事は口が裂けても言えない…
呂玲綺はすごく魅力的だったがお互いの立場の事があって、今すぐ迎えに行くのはさすがに無理がある
曹昂の軍帳から出ようとした頃雷が鳴り響き、豆サイズの雨粒が落ち始めて、すぐ土砂降りの大雨に変わった。
曹昂は外を眺めて溜息をつき
「雨季が来てしまいました…ここから数ヶ月道はぬかるみ、戦馬や重機もまともに動けません…」
確かに普通なら重機がまともに動かない状態で無理な城攻めは大きな損害を引き起こす
曹操は布団を曹昂の胸あたりに被せ溜息をつき
「仕方の無いことだ。季節の移り変わり、人の不幸は誰にも予想できまい、子寂ですら予想できなかったのだ、お主が思い詰めることでも無い…」
無駄足になってしまうのか、曹操も少し残念そうにしていた。
入口付近に立っている郭嘉と賈詡はしばし考え込むと同時に顔を上げお互い見合わせた、その瞳の奥の驚きは隠せないものだった。
「子寂、君の…援軍なのか?」
郭嘉は先に口を開いて聞いた
曹仁は振り向き
「援軍どこにそんなものが…」
「さすがは奉孝!バレてしまいましたね!」
典黙は軽く微笑んでいた
郭嘉は目を閉じ深く息を吸い
「子寂、君は一体…」
曹操は二人の智嚢を見て、ただ事じゃない事くらいはすぐに気づく
「どういう事だ?」
荀彧、程昱等も集まり真相に惹かれた
「主公、子寂の言う援軍は諸侯でも山賊でも間者でもありません。彼は天から力を借りたのです!」
郭嘉は言いながら茶碗に水を注ぎ、茶碗から水が溢れ出しても止めなかった。
曹操は息をのみ、両目を見開き
「お主ら、彭城を水攻めするのか!!」
郭嘉は首を振り一抹の悔しさを浮かべ
「僕たちではなく、子寂です…」
この二ヶ月の間典黙の言う援軍の正体について、皆はそれぞれ予想を立てていた。
離間の計で呂布を裏切らせるのか、袁術の乱入で対局を混乱にさせるのか、彭城内の誰かを手引きさせるのか、山賊を属させるのか。
皆あらゆる予想を立てたが天気を計算に入れなかった。
「弟子はやっと先生の手腕を目の当たりにできました、すごいとしか…ゴホンッゴホンッ」
この時、典黙の弟子である事に曹昂はとても誇らしかった。
「軍師殿やはり大才!雨を見て、末将はてっきりまた無駄足かと思っていました。まさか盾であるはずの大雨を利用して、槍に変えてしまうとは!ハハハ!」
典黙のファンとして曹仁は大はしゃぎしていた
穎川の士族たちも黙っていて、勝負したい気持ちはとうに無くなっていた。
「子寂、参りました、僕の完敗です!」
郭嘉も拱手して言った。
正直、呂布を撃退した時は郭嘉はまだ一抹の不服はあった。
典黙が自分の計画に助力して策を成功させた事に感謝の念こそあったが撒菱を使ったのでは兵法で負けたとは思えなかった。
しかし今回は違う、正真正銘の感服。
兵法にたける者は、陰陽に通じ、理を借り、天地の秘密を知り、それをひっくり返す事もできると言われている。
自分はまだこの域に達していない事から、自分と典黙の間にはまだ埋まらない距離があると郭嘉は悟った。
タヌキ賈詡も内心では思った
「危ない危ない、ワシは長安ではこの若者を見くびっていた、あの時彼の策を下手に邪魔していたら…恨みを買ったら、ワシなど簡単に潰されるだろう…」
「天の時、地の利、人の和。これらを全て使いこなすお主こそまたと無い宝物だ!」
常なら謀士たちの間柄を気にしていた曹操はついに典黙を首席と明言した。
この戦いの後に不服の者は二度と現れないだろう。
曹操は感嘆したあと曹仁に命令を言い渡す
「子孝、準備せよ、彭城沿いの川に堤防を築いて雨水を溜めた後水を全て注ぎ込め!あの烏合の衆を洗い流せ!ハハハ!」
「はい!」
曹仁も興奮気味に外へ向かった
曹操「他に何か補足はあるか?」
典黙「うーん…特にありませんが、強いで言えば、破した時必ず劉備の命をお断ちください!逃しては行けません」
曹操は少し驚いた、今まで典黙は誰一人に対してここまでの殺意を見せたことは無かった
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます