六十四話 濡れ衣

劉備は戸惑っていた、曹軍の将兵たちが徐州ではなくその矛先を自分に向けられた事で。

この前の失敗した奇襲で恨みを買ったのか、思い当たる節はそれしか考えられない。


何よりも陶商、笮融等が自分に向けられた敵意にも似た眼光が劉備を気まずくしていた。


「今度は何をやらかしたにせよ、今こと状況をなんとかできるのはお前しかいない!何とかしろ!」

陶商は怒りを抑えながら言った


「私が劉備だ!何故このように大軍で来たのか教えて頂けますか?」

劉備はとりあえず名乗り出した


「とぼけんな!弟を出せ!さもないと城攻めだ!」

劉備を見るや、典韋は声を荒げた


約20丈離れていても、その怒号が雷のように城楼上の劉備たちの耳を痛くした。


「敵将、まず君は誰で君の弟が誰なのか教えて頂けませんか?これは何かの誤解では無いでしょうか?」

劉備は本当に心当たりがなく困っていた。


徐州軍の首脳たちも茫然とした、いくら劉備の頭がおかしくても誘拐じみた事をするはずがないだろ…


しらを切る劉備を見て典韋は全身の筋肉が強ばって、血管が浮き出し、強引に突撃の体制を見せると


趙雲が片手で止めに入る

「玄徳殿、趙子龍です!」


「子龍、子龍なのか!なんでここに居る?!」

劉備は感激して城楼の壁にへばりついて聞いた


「これには深いわけがあります!それより本当にあなた達が典軍師を連れ去ったのですか?!もし本当なら速く帰す事をお勧めします!でなければ城攻めは冗談ではすみません!」


劉備はハテナを頭上に載せ関羽と張飛を見る、典黙が失踪した?私たちになんの関係があるのだ?


関羽「三弟、昨日本当に典黙を傷付け無かったのか?」


弁が立たない張飛は地団駄を踏み

「捕らえようとしたがよ、どっかの小僧が邪魔して追いつかなかったんだよ!その後は知らねぇ!」


「まずいな、この様子じゃ典黙は無事逃げ切ったが曹営に戻らなかったんだ、それで兄者に濡れ衣が…」

関羽はいち早く真相に気づいて推測を話した


劉備は関羽の推測を聞いて一理あると思い趙雲に向かって

「子龍!信じてくれ、確かに昨日三弟が典黙と遭遇した、客人として彭城に迎え入れようとしたが追いつかなかった!」


典韋「シラを切るのか、弟の言う通りの偽善者なだな!」

我慢の限界に来ていた典韋はそう言って、絶影を走らせ、絶影の速さを借りて投戟を投げた、


シュッシュッ


投擲された二枚の金戟が閃光を帯びて二十丈離れた城楼に居る劉備目掛けて飛んで行った。


「兄者!」


関羽が劉備を引っ張ると、劉備が先まで立っていた所を投戟が通り過ぎ後ろの土壁に突き刺さっていた


「化け物かアイツは!」

腕力にたける関羽も思わず感想を口にした。

この距離は弓すらも簡単に届かないというのに、投戟が土壁に突き刺さるとは…


典韋「デカ耳野郎!速く弟を返せ!頭かち割るぞ!」


そうこうしている内に、曹操の馬車が到着した

曹操は頭痛が少しも良くならずに、郭嘉と賈詡を連れて跳ね橋の前に立ち、劉備ら馴染みのある三人の顔を見ても昔話をするつもりは無かった。


曹操は腰に刺してる天子剣を抜き高く掲げ

「我、曹操は此処にて誓う!子寂を無事に帰せば、我が生きてる限り二度と徐州へ兵を向かわせない!さも無ければ、城攻めし、破城した暁には将兵どころか、徐州の民も、その家畜も、虫一匹生かさない!半径三十里全て更地に返す!!一時間だ、それを期限にする!」


言い終わると曹操は馬車に戻った、数万の曹軍が城攻めの準備を着々とする


城楼に居る全員が顔を真っ青にしていた。


「玄徳公、お願いします、典黙を帰してあげてください!曹操は誓いを立てた、今帰せば曹操が生きている限り攻めてこないと。徐州の五十万軍民の代わりにお願いします!」

陶商は最初劉備が誘拐などするわけが無いと思っていたが、相手は誰もが欲しがる典黙なら可能性は無くない。


麒麟の才、典子寂は確かにお宝のような物だがその為に命を投げ出すなら利得関係が破綻する


劉備「公子、信じてください!私たちは本当に典黙を捉えてなどいません!」


臧覇「劉備、野心を持つなとわ言わない!才能ある補佐が欲しいのもわかる!が、お前も聞いたろ、速く帰さないと虐殺が始まるぞ!城内には五十万の民が居るのだぞ!」

臧覇は腰の剣を抜き劉備へ向かった。


張飛「あぁん?やんのか?ぶちのめしてやるぜ!」

兄貴が責め立てられるのを我慢できなかった張飛も蛇矛を構えた


曹豹「そもそもお前のせいだろうか!」

曹豹が一喝すると六七名の副将が前へ出た


関羽「多勢に無勢もまた一興か…まとめて来るがいい!」

関羽も青龍偃月刀を起こした。


劉備は必死に二人を止めようとしたが如何せん臧覇たちが収まらない

陶商へ助けを求めるも陶商は既にゴミを見る目でこっちを見ていた。


「劉備が典黙を捕えたせいで彭城の民すらも道連れにしようとしている、我慢できない!曹操が破城したらどうなるか考えてみてください!妻や子、両親がどうなるのかかんがえてみてください!これら全て劉備たちのせいです!」

笮融が口を開くと劉備を大罪人に仕立てた。

笮融は元々風見鶏で嫌われ者だったが、その扇動で皆劉備への不満が爆発した


「先にコイツらを曹操へ引き渡して典黙を探しに行こ!」


「そうだ!その後事情を説明して典黙を探そう!」


ダメ元で全ての元凶である劉備を突き出して猶予を乞う、典黙を引き渡せないのであればそれしか助かる道は無い。

副将たちも皆口を挟んだ。


「公子、この劉備、中山靖王の血脈に誓います、典黙を捉えてなどいません!大敵が目の前に迫り我々が仲間割れをする場合ではありません!どうかこの場を収めてください!」


劉備は知っていた、この怒り狂った武将たちは陶商でなければ止まらない事を。


陶商は依然と何も言わず、変わりに笮融が再び出しゃばり

「劉備くんよ、弟たちの怒りっぽい性格は直させた方がいいよ、でなければそのうち痛い目に遭うよ?」

笮融が年長者の立場から劉備へ説教した。

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