六十三話! 出動
先まで曹操と一緒にいた夏侯惇は軍令では無いと感ずいた、監督官の彼は止めに入る
「退け!弟を助けに行く!邪魔するな!」
典韋はかつてない怒りで怒号をあげた
なに?軍師を!
夏侯惇は一瞬俯き、事の重大さに気づいたが
軍令無しに兵を動かすのは大罪、自分も放任する訳には行かない。
「子盛、まずは主公に報告しろ、軍令符が無ければここを通させる訳には行かない!」
「んな事してる場合か!早く退かないなら手加減しないぞ!」
両目真っ赤の典韋は双戟を抜き出し、許褚も火雲刀を構えた、突撃の体制を取った二人に
「子盛、早まるな!」
曹仁が走って来た
「私も一緒に主公の所へ行くから、早まるな!少数部隊で行くよりはマシなはずだ!」
「時間がねぇつってんだろ!!」
こうなった典韋はもはや典黙か曹操でないと止められない
「子孝、退け!お前を怪我させたくねぇ!」
典韋は両手が震え
「子盛、わかるか?今出て行けば反逆罪になるんだぞ、そうなればこの兵士たちが仮に生きて帰って来ても粛清は免れないのだぞ!」
曹仁は理を持って説得しようとした
典韋は荒い息をつき少し考えた末
「なら一人で行く!」
典韋はそのまま馬で曹仁らを飛び越え放たれた矢のように駆け出した。
「弟を助けるのに俺も行かないでどうする!」
許褚も典韋の後に続いた
言いたいことを先に言われた趙雲も無言で付いて行った。
千三百の兵もまた死を恐れない、皆毅然とした表情で前へ進み出した。
「なんの騒ぎだ!」
曹操は背中に手を組み出口の方から歩いて来た
典韋は急ぎ馬を止めたが降りる素振りを見せなかった。
「こんな朝早くから、元気だね。どうした?そんなに急いで…」
「主公!弟が張飛に囚われた!彭城へ行かせてくれ!」
曹操は典韋の話を聞いて一瞬理解が追いつかなかった
「子寂がなに…?」
許褚「若の話によると、張飛が子寂を連れ去りました!」
典韋「お願いだ!行かせてくれ…ください!」
状況を理解した曹操は酷い頭痛に襲われ、数歩後退りして倒れ込んだ。
曹仁は急ぎ駆け付けて曹操の上半身を起こした。
子寂の支えがあって、今日まで上手くやって来れた。
劉備め、よくも子寂を連れ去ったな...
一瞬、典黙との思い出が脳内を駆け巡り、一緒に笑い、酒に酔い、天下の事を話し合った事全てが過去になってしまう…
すると頭痛がより酷くなり、曹操は両手で頭を押え苦しい表情を浮かべた。
曹仁「軍医だ!軍医を呼べ!」
「主公!」
典韋は絶影から帯降りて、地面に這いつくばり、泥に顔を押し付けて
「主公!お願いだ!万が一弟が…俺も生きて行けねぇ!」
許褚も趙雲も膝まづき
「行かせてください!」
曹操は曹仁の肩を借りて辛うじて立ち上がる
「お前ら死ぬ気なら…行かせる訳にはいかない」
曹操はこめかみを揉みほぐしながら
「子孝!伝令だ、全軍全速力!彭城へ向かえ!城攻めだ!」
曹操は城攻めの言葉に全身の力を込めた。
軍令を得た曹仁は急ぎ言った
「太鼓を鳴らせ!陣列組む時間はない、全軍直ちに出発だ」
あっという間に準備を整えた曹軍は流れる川のように動き出した
数万もの大群が前軍も後援も側翼も無く陣形も整っていなく、騎兵、歩兵、弓兵、盾兵がごっちゃ混ぜの状態で休息も取らずに彭城へ駆け抜ける
曹操は頭痛で馬に乗れず馬車に横たわっていてたまには速度を上げるように促した。
彭城では陶商、臧覇らが防衛の対策を練っていた。
横にいる劉備はおとなしく黙っていた、口を開く度に笮融に罵られていたから
すると一名の伝令兵が走って来て
「公子!大変です!」
「何事だ」
陶商が立ち上がって尋ねた
「曹軍が…数え切れない曹軍が向かっています!もう五里坂を通り過ぎました!」
「なんだと!?」
陶商は酷く驚いた
なんの前兆も無しに全軍総出だと...
笮融たちは怯えて体が震えていた
臧霸と曹豹は顔色ひとつ変わらずに
「城楼へ行くぞ!」
陶商たちも急いでついて行った
劉備は少し心当たりある風に顎をさすり
「三弟が典黙を追いかけた事に関係があるのかな…そんな事で城攻めとはな、後方の呂布に警戒しないのか…」
と呟いた
関羽「それは考えられにくいですな、三弟は典黙に追い付かなかったと言っていた」
関羽の細い目からは一抹の不安が感じ取れる
張飛「なんの!来るなら来い!無理に城攻めして来たら皆殺しにしてやら!」
張飛は少しも慌てる素振りを見せなかった
劉備は頷いて二人を連れて城楼へと向かった
城楼へ着いた陶商一味は目の前の光景に驚いた
彭城の前に集まった曹軍は色んな部隊が入り交じり混乱していてとても正規軍には見えなかった。
最前列にいる典韋は戟を振り上げると
「劉備を出せ!劉備を出せ!劉備を出せ!」
と兵士たちが口を揃えて声を上げた
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