六十話 呂玲綺登場
「くそったれのデカ耳野郎!袁紹と共に曹賊を討つ約束をしながらも、俺を出兵させるための嘘か、無駄に千以上の騎兵を失わせやがって。もう二度と顔も見たくない!次会ったらあのデカ耳を切り落として酒に漬けてやる!」
怒りに我を忘れた呂布は、顔色が真っ赤になっていた、前の帥の机を蹴り飛ばし、竹簡が床に散らばった。
千名の騎兵は少ないように聞こえるかもしれませんが、呂布はあの大敗の後これらの騎兵を手に入れるのに苦労した事は彼にしか知らない。
それなのに偽善者の劉備が自分を欺いたこと、本当に腹立たしかった。
「温侯、何かがおかしいぞ…」
山羊ヒゲを生やした陳宮が前に進み、竹簡を拾い上げ
「劉備はこのような手法で私たちを騙し討ちするような人物ではありません。彼にはそのような思慮はありません。私の憶測ではありますが、彼もまたの策略に引っかかた。そしてこの計略は曹賊が詔勅を発布した時点で既に展開されていました。」
「誰だ?」
「おそらく曹賊自身か、もしくは彼の軍師、典黙かもしれません。」
「典黙...」
呂布は後ろの百花紅袍を振り払い
「あの小僧は濮陽で私の好機を狂わせた。曹賊がこのような鬼畜少年を見つけてきたのは運が良かったな」
呂布はそれを言うと、再び陳宮を憂鬱な目で見つめ
「次はどうするべきだ?」と低い声で尋ねた。
竹簡を抱えたままの陳宮は立ちすくみ、困った表情を浮かべました。
どうするべきか、これは確かに難しい問題で。この戦いで徐州は大きな打撃を受け、もはや呂布と一緒に曹操を挟撃する力を持っていない。実際、曹操は徐州を強襲できるだけでなく、それと同時に呂布に対して防衛ラインを張るくらい兵力を温存している。
このまま続けば、二つの結末しか残らない。
一つは徐州が陥落した後、曹操が呂布を攻めるか。
もう一つはは曹操が両者をまとめて片付けることだ。
陳宮が黙っているのを見て、呂布も状況の悪さを理解した。
「この吕布、武力は天下無双、まさかこのような窮地に立たされる日が来るとは思わなかった!」
吕布は自嘲しながら笑った。
目の前の状況は、かつて李傕と郭汜に長安から追い立てられた時よりも苦境だ。
当時はなんとか2、3万の部下がいたし、兗州には自分を支持する士族の有力者もいた。
「温候、淮南からの手紙です」
吕布が感傷に浸っている時、張遼が竹簡を持って入ってきた。
「袁術か、フン、劉備とは同類の者だ。俺を嘲笑う手紙か?」
吕布は冷淡な目でその竹簡を見つめ、しばらくしてから受け取った。
手紙の内容を見て、彼の厳格な顔つきは徐々に緩み、最終的には大笑いに変わりました。
「やはり神は乗り越えられる試練しか与えないのだな!」
「温候、何事でしょうか?」
陳宮が尋ねた。
吕布は大笑いしながらその竹簡を陳宮に投げつけ、彼は急いでそれを読みました。
しばらくして、陳宮は微かに頭を垂れました。「袁術の息子が俺の娘と結婚したいと言ってる、彼は俺に淮南に来て、曹操討伐の大計を協議して欲しいと言っている」
「玲绮ももう結婚する年齢に達する。袁家は四世三公、彼女も苦しまなくて済むだろう」
吕布は満足そうにつぶやいた。
一方、陳宮はため息をつき
「これは良いことですが、私たちにとっては退路ができた。唯一の心配は、これは連盟なのかまたは下に付けと言うのか」
吕布は無関心そうに手を振り
「どっちでもいい」
自尊心の塊である呂布は何故か人の下に付く事に対して何も思わない、利害関係で得できれば誰にでも義父と呼べる人だった。
そして呂布の義父になれば皆、死の運命から逃れられない。彼の方天画戟は常に義父たちの血で濡れていた、丁原や董卓のように。
「父上、私は袁術の息子と結婚なんて嫌だ!」
吕布が浮かれていた時、外から一人の少女が入ってきた。彼女は暗紅の皮鎧を身に纏い、体躯は細く、顔立ちは掘り深く美しい、肌は雪のようで、凛とした目が、全体に高慢な雰囲気を醸し出していた。
「れっ玲绮!袁家は四世三公、名声は天下に広まっている。嫁げば君は幸せになれるよ」
気性が荒い吕布は、愛娘には驚くほど優しい態度を見せていた。
「父上、娘はただ父上と一緒に戦場で戦いたい、家で手芸をするのは嫌だ!」
吕玲绮は傲慢ではなく、彼女の顔には少しも動揺が見受けられなかった、まるで結婚が自分に関係ないような雰囲気だった。
「児戯では無いぞ、男は大きくなると結婚し、女は大きくなると嫁に行くのは当然な理。君はもう結婚適齢だ、これ以上引き延ばす必要もない」
父娘の関係は一貫して和やかで、吕玲绮が小さい頃、彼女が何か要求すると、吕布もできるだけ満たしていた。
しかし、吕布が同意しなければ、どんなに言葉を費やしても、彼の考えを変えられないだろう。
吕玲绮は通常の会話がもはや無駄だと深く理解しており、口からデタラメを言い出した
「娘にはもう心を決めた人がいる」
空気が凍りついた...
いつの時代でもとんな男であろうと愛娘から「好きな人がいる」とか言われたらショックを受ける
呂布は唇がプルプルと震えていた、口をパクパクしても声が出なかった。
言葉に詰まった訳でもなく声そのものが出なかった。
我に返った吕布は大きく分厚い手で横にある台の上に重く打ち付けた。
厚さ七寸の台は直ちに粉々になった。
その光景を見ても、吕玲绮は泣かず、騒がず、甘えず、ただ不満そうに吕布を見つめ、数秒後、振り返って去って行った。
呂布「この小娘、小さい頃から気が強かった。一体誰があの子をたぶらかしたのか、文遠、調べてくれ!」
「了解!」
「軍営にずっと閉じこもっていたら、カビが生えて来そうだ。待ちに待った雨季も、いざ来てしまうとムシムシして暑いなぁ。」
雨季の暑さにやられて典黙は曹昂を連れ散歩に出かけていた。
馬に跨る典默は、広げた腕で心地よい微風を抱きしめ、開放感を味わっている。
「先生は遠征に慣れていないのに、この周りには賑やかな町もなく、退屈させてしまい申し訳ございません!」
典默に向かって、曹昂はいつものように最高級のに敬意を示した。拝師の礼は未だしていないが、心の中では典默を自分の師匠と考えている。
天、地、君、親、師。この時代では師匠は親の次に尊敬すべき非常に高い地位にあります。
「そういえば先生、一つ質問がありますが、是非とも教えて頂きたいです!」
典黙「援軍のことかな?」
「はい!」
曹昂は頷きながら言った。
「このことについては奉孝先生たちさえも理解できなかったと聞いています。僕は本当に興味津々で」
典默は笑って
「君は興味があるのか、それとも心配なのかな?」
曹昂も素直で隠し事ができない、頭をかきながら、にっこり笑って
「先生はやっぱり人の心を見抜くんですね。もうすぐ二か月の期限です、外側の哨騎が三日ごとの報告では、徐州周辺に兵の動きは見当たりません。もし期限内に援軍が来なかったら…」
典默は眉をひそめて
「僕の信用が一瞬にして失われるのではないかと?」
曹昂は頭を激しく振りながら
「そんなことはありません、先生の手腕は普通の人間では予測することはできません。ただ...先生、教えてくれますか?」
「仕方ないな、君に話しても構わないか…」
結局、曹昂は自分を「先生」と呼ぶ相手であり、学生の礼儀を守っている。この関係ができた以上、教えるべきことは教えなければならない。
典默は水袋を開けて一口飲み、どのように説明するか考えていたところ、曹昂が急に手綱を引っ張り、それと同時に典默の馬の手綱ももう片手で引っ張り、視線は非常に真剣だった。
典黙「どうした?」
「誰か居る!」
典默は周りを見回したが、誰もいない。敏感すぎるのではないか?
曹昂は説明せず、ただ銀槍をゆっくりと持ち上げ、低い声で
「先生、お先帰ってください。生徒が後方を守ります」
いや、一体何が起こっているのだろう?
典默が質問しようとする前に、馬のひずみが鳴り、前方に数人の騎兵が現れた。
装いから見て、それは徐州軍のようだ。幸いな事に数はそんなに多くは無い、曹昂の武芸ならこのくらいの兵を処理するのは簡単だろう。
相手の姿が確認できるようになり、典默は冷や汗をかいた、背中から鋭い寒気を感じられた。
その相手は黒い顔に環状目、丈八の蛇矛を手に持っている。典默は震え声で言った
「うわぁぁ!!ヤバイぞ!!アレは...張飛、張翼徳だ」
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