五十八話 神器の使い方

野営の死体を片付けた後、空は既に薄明るくなり始めた、眠る気のない曹操は中央の軍帳に戻った。


「主公、これは徐州軍の上将、孫観の首です!」

鎧に血痕の付いた許褚が一つの頭を地に投げ、一緒に入ってきた典韋が不満げに言った。


「くそっ、あのデカ耳野郎を追い詰めるところだったのに、赤い顔の野郎に邪魔された!」


「それは関羽だ、かつて虎牢関では呂布と戦った、猛将だ。今日、彼が劉備を子盛の手から救い出せたことは、彼がかつてよりも勇猛であることを示している」


曹操は関羽のことを話すときは、目には光がチラついた。


しかし、典韋は言葉や表情をよく読むタイプでは無かったのですぐに馬鹿にするように


「主公、ありゃ大した事ないですよ、三人で呂布を囲んでも、引き分けで終わったんだろ。もし俺が仲康や子龍と呂布を囲んでいたら、絶対勝つ!」


「ハハハ、そうだな!」

曹操は典韋が少し嫉妬しているようだと気づき、すぐに話題を変えようとした。


「それより、我が軍の消耗の確認はできたか?」


「まだ確認中ではありますが、この戦いで徐州軍は少なくとも半分以上の損失を確認しました」

曹仁が一礼して報告した。


この答えを聞いて、曹操は非常に満足していた。


「奉孝の巧妙な魚釣りの計略で徐州はもうすぐ落とせるんじゃないですか?」


横に居た杜襲は郭嘉の功労を皆に暗示していた


「ふむ!奉孝の才能、大局を見下ろしている。今回の件は本当にお前のおかげだ」

曹操は満足げに言った。


この一戦の後、絶対的有利を確保して、曹操はもちろん嬉しい気持ちでいる。


しかし、郭嘉は成功した計画に一切の歓喜を見せず、心配そうに

「子龍将軍の方はどうだろう。彼が統率していたのは歩兵だ。対して吕布軍は騎兵ばかりだ」


吕布もやってきたのか?

杜襲、鐘繇、陳群が顔を合わせ、郭嘉の言葉でやっと気づいた。


すると趙雲は意気揚々と入ってきた。


典韋や許褚に比べ、彼の服装はきれいだ。まるで戦場から帰ってきた者ではないようだった。


「主公、吕布は逃げました。それに彼の騎兵は約千名の損害を出しました」


趙雲は一礼して報告し、曹操に聞かれる前に補足した。

「我が軍も八百歩兵が重傷と軽傷したのは二千名あまり」


この情報は先ほどの許褚と典韋の報告よりも驚くべきものだった。

歩兵をだけで、吕布の騎兵を同等かそれ以上の代価を負わせるのは、恐ろしいことだ。


「奉孝が劉備と吕布の両線の夾撃に同時に対処したのにも関わらず勝利を収めることができたのは天地をも揺るがす手腕だ」


杜袭の顔には少し得意げな顔色が全面に広がり、彼は感嘆深く言った。


「奉孝、教えてくれ。君はどうやってこれを成し遂げたんだ?」


完全に子寂に負けたな…


郭嘉はしょんぼりとした表情で、ため息をついて言いました。

「このことは私には関係ない、全ては子寂の手柄です」


彼はどう関係しているのか、鐘繇は知らなかった、何か言おうとしたときに趙雲が先に説明をした。

「確かに、軍師殿が発明した神器がなければ、この戦いで私が連れてきた歩兵で吕布の騎兵の突撃を阻止する手段はありませんでした」

趙雲は言いながらは尖った撒菱を取り出し

「これは軍師殿がデザインした鉄のマキビシです。手で投げ捨てるだけで、地面には必ず鋭い先が上向きになります。吕布が騎兵を率いて襲来したとき、私たちはこれを地面に投げ、踏みつけた戦馬が痛みを感じてすぐに倒れた。最初の突撃で600人以上の騎兵を倒しました。二度の突撃の後、吕布は私の手にどれだけの撒菱があるか分からず、明るくなるまで対峙し、無念の退却を余儀なくされました」


荀彧が前に出て、趙雲の手にある撒菱を手に取り、遠征の日に典默が同行の馬車を率いていたことを思い出しました。この撒菱がなければ、誰もが荒野の上で歩兵で吕布の騎兵を阻止できないでしょう。阻止できないなら、奉孝の計画もまったく実行でき無かった。


彼は出征前にすでにこの一手を予測していたのか。もしそうなら、典子寂こそ戦局の把握、人心の計算、大局の洞察は、今人々が仰ぐべき高さに達している。

この一手が無ければ少なくともこの一戦で奉孝は敗れていた。

そんなことは言えない。


郭嘉の落胆した表情を見つめながら、典默は笑いました。

「奉孝の奇策がなければ、同時に劉備と吕布を誘き出し、私の撒菱も全く役に立ちませんよ?僕は運も良かったね!まぁ運も実力の内ってどっかの忍者の先生も言っていた。

むしろ今回の事で奉孝が撒菱の凄さを証明したと言ってもいい」


「忍者?」聞いた事のない言葉に皆は不思議に思ったが曹操はあまり気にしなかった風に

「ははは、その先生はいい事言うね!子寂が先生と呼ぶくらいだ、その言葉は正しいだろ!」


容姿も良く、話術もあるし、視野もある。そんな典黙を、曹操はますます好きになっていた。


典黙と郭嘉、麒麟と鬼才、二人は心から尊敬し合う瞬間であった。


「子寂の言う通りだ。君たち二人はまるで主公の両腕、相互に補完しあっているんだね!」


「そうだ、そうだ、主公には二人が助けがあれば。偉業は必ず達成されるぞ」


陳群と杜袭は急に同調し、これはこれで曹操軍で一致団結と協力の空気が広がった。


郭嘉は典默に向かってお辞儀をし

「子寂の天機秘術は今日、私を本当に感服させました。これは百世に渡って名を刻む価値がある」


荀彧らは郭嘉が簡単に屈服しないことを知っている。

言葉にはっきりと表明していないが、郭嘉の行動は典默に対し最大のデレである。


「へぇーすげーなこのちっこいヤツ。弟よ、なんで早く出さ無かったんだ?戻ったら考軍処にもっと作らせようぜ!」


典韋は再び撒菱を荀彧の手から奪い取り、感心せずにはいられなかった。


「兄貴、冗談はよしてよ、これは使いやすいけど、使い方を誤ると自分たちを傷つける可能性もあるぞ」


撒菱の利点の一つは持ち運びが容易であることであるが、典韋のようなアホが考え無し使うと両軍が突進するとき、味方を邪魔するかもしれない。


許褚「あぁ、なるほど!先も劉備に使うと、後でヤツを追いかけるときに味方を足止めしてしまうのか!」


許褚は典韋より理解力がありすぐ悟ったが、典韋はこれに少しイラついた。

「うるせぇ、んな事くらいわかってるよ!どう使おうかお前に関係ない、とにかく典字営の兄弟には30個ずつ配ればろうぜ!」


許褚「30でいいのか?てか30まで数えられるのか?」


典韋「帰れ!」


ケンカするほど仲がいいとはこの事かな

皆はこの状況を見て笑いこらえるのができなかった。


曹操は小さなひげをいじりながら、ニヤニヤしながら

「劉備と言えば、この戦いの後、徐州の文官武将の目にヤツはどう映るのかが楽しみだ」


典默は心から微笑み、どのように映るのかはわからないが、確かに好意的ではないだろうと言える。


結局、劉備は今徐州に住む客人に過ぎない。彼は一瞬のオールインで陶謙の懸命に築いた財産の約半分を失ってしまった。この客人はこれからどうするつもりだろうか…

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