五十七話 破竹の勢
「約束の袁軍はどこだ!?」
許褚の初撃を防ぎ臧霸は劉備に厳しく問い詰めた。
許褚も少し後ろに下がり間合いを開けた。
劉備「おそらく計略にはまったのかもしれません」
「おそらく計略にはまった…だ??」臧霸は劉備をこの場で殺してしまおうかと思ったがその気持ちを押さえ込み。
こんな状況でまだ「おそらく」なんて言える劉備の心の強さにむしろ感服すら感じた。
事実、劉備もまた何が起きているのかを知りたくてたまらなかった。
袁绍からの手紙は時間的にも問題がなく、筆跡も一致していた。しかし今日、袁軍は姿を見せていない。
心の中に疑念が渦巻く劉備、しかしその疑念もとりあえず置いておかねばならない。典韋と許褚が向かって来ているからだ。
絶影と爪黄飛電で徐州軍の防衛陣列を突破し、双戟と火雲刀が寒光と影を引き起こし、まばたく間に十数名の騎兵を斬り捨てた。
「兄弟たちよ、斬り捨てろ!」
八百の典字営が続いて、まるで鋼の刃のように人々の中に突き刺さった。
強力な典字営は典韦と许褚の先導で、徐州軍を激しく襲う。
本来奇襲を仕掛けていたはずの徐州軍は急襲を受け、すでに軍心は乱れ、こ虎狼の群れには耐えられなかった。
そして背後には数千の曹軍騎兵が、典字営士気高揚しているのを見て、彼らもまた熱血沸騰して、一緒に叫びながら突撃して行った。
「三弟、お前が兄貴を守って突破しろ!」
関羽は青龍偃月刀で横薙ぎすると、数名の曹軍騎兵が打ち飛ばされた。
「宣高、丹陽鉄騎と一緒に後方を切り開いてくれ!」
関羽は必死に叫んだ
徐州軍が不意打ちを受け、混乱に陥った中、臧霸は心の中に燃えるものを抱えながら、この仲間たちを先に逃がして彭城に戻らなければならないと思った。
彼は錬鉄の槍を振り回し、混乱した兵士の中から血路を切り開きながら「臧宣高!臧宣高!」と自分の名前を叫んでいた。
自分の名前を叫ぶ事で混乱した兵士たちも彼の指示に従って次第に集結した。そしてすぐに陣地内で整列した。
「撤退せよ」
一声の号令が下り、徐州軍は接触を解除し、後方に退却し始め、まるで激流が石を洗い流すように、丹陽鉄騎の陣列は両側から錯乱して逃げ惑った。
「立ちはだかる者は死あるのみ!」
爪黄飛電にまたがる许褚は火雲刀を携えて列に向かって斬りかかり、一人の騎兵を打ち飛ばすと、その周りの七八人の騎兵がすぐさま長槍を許褚に向けてまるで死の爪牙のように突き出して来た。
許褚は一瞬怯み急いで大刀を振りかざし、玄鉄で作られた刀柄からは金戈の打ち合いの音が鳴り響いた。
この一撃で、許褚は黄城外で飛熊軍と戦っていた頃を思い出した。彼はすぐ理解した。そして振り返って狂ったように突進してくる典韋に向かって叫んだ「気をつけろ!丹陽鉄騎だ!」
経験のある典韋は平然としており、绝影の速度を落とさなかった。彼は双戟を太ももと馬の間で挟み、左右の手で凤翅金戟を連続して投げ、投戟は威圧的な気力を帯びて丹陽鉄騎の鎧に突き立て、彼らを馬ごとひっくり返した。
十二本の金戟を投げ終えると、陣列には切り口が開いており、典韋と許褚はその穴に殺到し、後ろには典字営が連携して突入して行った。これはまさに丹陽鉄騎を正面から突破しようとするものだった。
典韋がまるで鬼神のように振る舞い、誰もが阻止できない中、臧霸はその背後から典韋を突き刺そうと回り込み槍を振り上げた。
しかし、典韦はまるで後ろに目があるかのように、振り返ることなく片手で戟を振りかざした。
ガードされた槟鉄の長槍は激しく振動し臧霸の両手を震えさせた。
「なんという化け物…」
かねてから曹操配下の最も猛烈な将軍が双戟を使う怪物で、力も強く、武芸も高く、歩戦では呂布に匹敵すると聞いていたが、今日その言葉が事実であることが確認した。
「野郎!首を差し出せ!」
混乱の中、ずっと落ち着いて動かなかった関羽がついに動き出した。青龍偃月刀が空中から斬りかかり、その威力はまるで空気をも切り裂く
すでに返り血で赤く染まった典韋が双戟を横に振り上げる。
ガシャン
大刀と戟が強くぶつかり合い、激しい火花が散り、山が崩れたような音が響き渡った。
刀と戟が離れると、典韋と関羽はお互いの力に驚きを禁じえなかった。
一息をついたの後、二人は他の標的を捨て、再び向かい合って突進した。
一夜の闘いの中で、刀と双戟は絶え間なくぶつかり、火花が異なる空間で立ち上がった。
実戦の経験が豊富になるにつれて、典韦も徐々に型に縛られる事もなくなり、自由自在に動き、関羽の出方に応じた。
吕布以来、関羽のような猛将に出会うのは初めてだった。
関羽もまた典韋の弱点にすぐ気づいた。それは典韋は馬術があまり得意でなくこのような騎馬戦において呂布よりいくらかやりやすかった。
関羽は馬術を利用して反撃しようと試みましたが、典韋は馬術こそ得意ではないが、普通の馬よりも典韋の乗っている絶影は体力と耐久力に分があった。
二人は戦場でお互い追い込み、次第に興奮してきた。
一方で臧霸は両者の激しい戦いをまったく楽しむ余裕は無かった。
許褚は典字営を率いて丹陽鉄騎の陣列の中を行ったり来たりしていた。
臧霸はすぐ状況を理解した。許褚の目的はは丹陽鉄騎の陣列を自陣で切り裂き、その後曹軍の騎兵で包囲し、一つずつ撃破するのを企んでる事を。
孫観は許褚の企みを狂わせようと、大刀を携えて前進し、許褚を討とうとした。
「賊将!その首を差し出せ!」
「へっ、逃げも隠れもしない。その力があるなら取りに来い!」
二本の大刀がぶつかり合い、孫観は反応する前に、刀身が許褚の強い力で彼の手から長刀を吹き飛ばし、よく見ると掌は既に血塗れになっていた。
手を見下ろし、再び頭を上げると、視界がぐるぐると回り始め、いつの間にか自分の頭が空中で舞っていたのだった。
「婴子!!!」
孫観は死んだ。名を馳せた孫婴子は臧霸の目の前で死亡した。昔の仲間の戦死が、この血気盛んな男の怒りを爆発させた。自らが勝てないことを自覚しつつも、死力を尽くし、許褚に復讐しようとしたが、一緒にいた兵に引き止められた。
「将軍、いけません!貴方まで戦死したら、兄弟たちは全員ここに葬られてしまいます!」
この言葉で、本来ならば燃え上がるであろう臧霸の気も一瞬冷静になった。確かに自分は死んでも構わないが、三千の丹陽鉄騎をここで死なせることは、自分を追随する仲間たちに対して顔向けできない。
「敗走だ…撤退!!」
臧霸は断固と叫んだ。
「日を改めて再戦だ」
臧霸の撤退を見送った関羽も愚かではない。もし包囲に陥れば逃げるすらできない。
ちなみに劉備はこの時、積極的に逃げ出していた。
逃げ出した劉備が戻る道を辿ると徐州兵の歩兵部隊と鉢合わせた、彼らはあの悲惨な状況を何も知らずに統率の校尉が惜しそうに
「将軍、もう終わったのですか?我々に残された手柄もなくですか?」
劉備「戻れ!待ち伏せされた!」
大口叩いた直後にこれはさすがに気まずいが今はそんな事よりも命が大事
劉備の言葉が終わった瞬間左側の葦の茂みから夏侯惇、夏侯淵、夏侯尚、曹真。そして右側の葦の茂みからは曹仁、曹洪、曹純、曹休らが飛び出して来た。
各自三千の歩兵を率いた曹家八将はあっという間に徐州兵を取り囲み惨殺を始めた、その標的は言うまでもなく劉備。
白矢が立った事を理解した劉備は徐州兵を的盧馬で押し退け一目散に逃げ出した
兵士達を置いて城門の跳ね橋をまで無事逃げ渡った劉備は曹軍の追っ手が跳ね橋を渡りきるのを心配して城を守る兵士たちに
跳ね橋を吊り上げるよう命令した、一部の徐州兵が運良くしがみついても結局はは力尽きて泗河に落ち、川の濁流に飲み込まれていた。
この戦いで、徐州軍の気力はほぼ完全に奪われた
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