五十三話 天秤

典黙「病人の割には元気そうね」


趙府、趙雲は庭の石のベンチで一人酒を飲んでいた。突然、典默の声が聞こえ、彼は迅速に立ち上がり、ふたりが目を合わせる瞬間、趙雲は気まずそうな様子だった。

典默は直接彼の前に歩み寄り、座った。


典黙「どうした、劉備のことで気に病むのか?」


趙雲は一瞬驚き、迷ってしばらくして、嘘をつけない彼は正直に答えた


「さすが軍師殿に隠し通せない。以前、末将は幽州にいたときに、劉令君と知り合い、互いに義を通した。彼の困難な時期に交戦すること、彼とは対立する立場に立つことが耐えられないです。もし戦場で再会した場合、彼にはどのような顔で会えばわかりません….」


趙雲は苦しげに一口酒を飲み、重々しい声で

「古くから忠義は両立しない。末将は主公には打ち明けるつもりです。それがどのように処罰されるかは気にしません、主公と軍師殿の期待を裏切ったからです」


やはりは赵子龍、劉備への義と曹操への忠に板挟み状態で。劉備を手にかけることをためらう。


典黙「子龍、荊軻の名前を聞いたことがあるか?」


典默が自分に失望してしまったと思いこんでいた趙雲は、予想外の質問に驚いて頷いた。


典黙「子龍は荊軻をどのような人だと思いますか?」


趙雲「素晴らしい人物で、家国百姓のために一身を犠牲にし、独りで秦の始皇帝を討つ、人々に崇敬される、本物の英雄です」


典默は一笑し、首を振りながら、一言一句ゆっくりと

「彼は自己中心的で、一身の私欲のために天下の人々を無視する人物で、単なる無謀で無知な人間です」


子龍「軍師はなぜ彼をそんなに見くびるのですか?」


典黙は賢者のフリをして身を起こして、後ろで手を組み、頭を上げて空を見上げ、低い声で


「表向きでは、彼は燕国の百姓が戦乱から逃れるように、自分を犠牲にし、秦を刺す英雄だとされていますが。

子龍、こう考えたことはありますか?荊軻が成功すれば、本当に戦乱がなくなりますか?

いいえ、戦火はより激しくなるでしょう。

なぜなら、最強の秦がいなくなると、他の国々が互いに攻撃し、併合し、それによって世界がますます混乱するからです。

そうなれば燕国の百姓だけでなく、天下の百姓も苦しむでしょう」


趙雲は新しい観点を目の当たりして少し驚いたがなんでこの話をされたかわかっていない。


典黙「天下の百姓と劉備を同じ天秤にかけられますか?主公との遠征はやがては天下統一の基礎となるでしょう。今まで失った命、彼らも皆誰かの子供で誰かの旦那さん、もしくは誰かの父親。それらを無駄にしてまで劉備への義は重いですか?」


この時の典默は言葉が鋭く、一字一句が趙雲の心を響かせた。


趙雲は地面に座り込み、目をぼんやりとさせていた。


彼は今まで典黙を優れた軍師思っていたが、その大きな志を抱いている事までは知らなかった。

天下百姓のために、戦争を終わらすために戦う必要があると理解して再び目に光が宿った。


しばらくして、趙雲は立ち上がり、胸を張って典默に向かって一礼した。


「目から鱗の教訓でした。末将は理解しました、本当に理解しました!

昔は個人の情義だけでこの世を良くしようと思いましたが、今見ると笑ってしまいます。本当に世の中を良くできる男は、軍師殿のように天下の万民を心に抱く人物なのです。

雲は間違えました。今後、軍師の命令には必ず従います!」


典默は趙雲の肩を軽く叩き、期待に満ちた目を向け

「兄貴たちは明日出発する。子龍も早いところ身支度を整えてください」


子龍「安心してください、行程を遅らせないように準備します!」


翌朝、趙雲を見た典韋と許褚は驚きを通り越して言葉を発せずにいた。


典韋「おいおい、弟よ、本当に子龍の病気を治したのか?」


許褚「あらら、弟は本当にすごいわ。優秀すぎる、こりゃ俺の妹じゃ釣り合わないな」


再び趙雲に会うと、彼は病気が治っただけでなく、全体的に違ったように感じられ、以前にないほどの芯を持っていたように感じられた。


趙雲「何をぼんやりしてるんですか、子盛、仲康、行きましょう!」


趙雲は銀槍を振り回して促しました。


典韋、許褚「おおう!行くぞ」


三人は先陣として、五千の鉄騎兵を連れて先に徐州の前線に到達すれば、敵情を偵察すると共に主力部隊が到着する前に有利な陣地を確保し、潜在的な脅威を排除する事もできる。


2日後、曹操は4万人以上の大軍を徐州から出発させました。


曹操「かつて、出征するたびに我らは食糧に頭を悩ませていたが、今年の秋は百姓が豊作で、たった三割の税金を徴収するだけでなんと30万石の食糧が手に入り、もはや食糧に悩む必要はない!ははは」


曹操は満足げに笑いながら馬車の窓台を叩く。


曹操「これも子寂の曲辕犂と水車のおかげだ。百姓たちも絶賛していると聞いてるぞ。そう言えば子寂は?」


荀彧「先ほど、考軍処からの馬車を連れてきたのを見ました。馬車の中には鉄の塊がいっぱい積まれていて、何に使うのか気になって聞いてみたら、彼はこれが神器だと言いました。重要な時には、我が軍が戦場で無敵に駆け巡ることができるそうです」


「また神器か?」

曹操は目を輝かせ、かつての二つの神器、水車と曲辕犂は百姓に利益をもたらすだけでなく、税金も食糧倉に入りきらないほど徴収できた。


今回の徐州遠征でも、再び神器が登場したのを聞いて曹操は嬉しそうに


「ただ、この神器が劉備に使われるのか、それとも呂布に使われるのかは分からないな…」


曹仁「どっちの運が悪いですかね、ははは」


曹操は黙然と頷き、車から立ち上がり、天子剣を抜き

「悪党を討つべく、出発だ!」

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