五十話 郭嘉と典黙
翌日朝、天子の名義で布告が出された。
その内容は予定通り徐州を取り返すものだった、そして当然のように曹操が一任された。
この布告の役割は劉備を釣り上げる以外にも他諸侯への警告でもある、天子の命令であれば曹操の後方が襲われる心配が減るからだ。
もちろんその警告にも前提がある、万が一曹操軍が負ければ他諸侯は一斉に襲いかかって来てその領地を取り分けてしまうかもしれない。
曹操「奉孝、着いてきてくれ。子寂に合わせよう!」
皇宮から出てきた曹操は気分よく郭嘉を連れて典黙に逢いに向かった。
典黙と郭嘉がいれば怖いもの無し!
曹操は天下を取るのは最早時間の問題に感じた。
典黙の宅に着くと典黙も丁度出て来た
典黙「戦の直前なのに…僕の家に来る程余裕ですか?」
曹操は謎めいた笑顔を浮かべ「劉備を片付けるのにどのくらい時間がかかると思う?」
典黙は伸びてアクビをした
典黙「さぁ…二ヶ月くらい?」
郭嘉はそれを聞いてフンっと鼻で笑い"僕の勝ちかな"と心中で喜んでいた。
曹操「珍しく予想を外れたね!」
曹操はあえて挑発的な事を言って典黙の興味を誘ったが典黙はあまり気にしなかった。
典黙「主公があえて天下に知らしめるという事は勝つ算段を思いついたでしょ……ふむ…援軍の振りで釣り出すとかですか?」
それを聞いた郭嘉は驚きのあまりビクッとした。さすが典子寂、噂以上の策士だ…と心の中で初めて感服した。
曹操「子寂、君はやはり凄いな!ホントに当ててしまうとは!!」
典黙「主公!残念ながらこのような策では戦に勝つ事はできても劉備を殲滅する事はできません!」
曹操が何かを言う前に典黙は続けて質問を投げた
典黙「ここ数ヶ月は確かに戦のために充分な準備をした…武器兵糧、兵力は五万以上も居ますが劉備も三万前後の大軍を有していますよ?三万もの大軍を野原で殲滅できるとホントに思いますか?」
曹操も軍事家なのでこの道理はわかっている。三万の大軍を殲滅するなら行き止まりに閉じ込めるしかない、野原ではすぐに撤退ができてしまうからだ。
典黙「戦闘で勝敗が見えて来たら劉備は城内に引き返すだろう、そうすれば今まで通りになってしまいます。無理に攻城戦を仕掛ければ呂布に後方を取られて、はいっ全滅してお終い…」
典黙は両手の平を見せ肩を持ち上げてこの策に対して否定的な意見を見せた。
曹操もここまで分析されては感情の起伏によりショボンとした。
完璧に見えた作戦が典黙にボロボロ言われて一番傷付くのはもちろんこの男
郭嘉は不満そうに酒を一口飲み、曹操が紹介する前に口を開いた
郭嘉「兵法の真髄とは奇策を用いて敵の意表をつく、初戦で敗北を喫した敵軍は士気は下がる、そうなれば我が軍は主導権を握り機を伺い勝利を手にする!」
典黙は頭を掻き
「この方は?」
曹操「今日連れて来て紹介しようと思っていた穎川の大材、郭嘉、字名奉孝だ」
鬼才郭嘉!
典黙は目を見開き驚きを隠せないで居た。
恐らくあの日荀彧が待ち合わせをしていたのは彼だろう。先の作戦も彼のものだったのに否定してしまって気まずいな…なんかすみません
典黙「奉孝さんでしたか!失敬失敬…」
確かに郭嘉の作戦はかなりいい物だった、戦場は常に一瞬で状況が変わる、全てを計算するのは無理な話。初戦で勝つ算段を思いつくだけでかなり素晴らしい。
それに郭嘉の言う通り、戦場で主導権さえ握れば勝利を掴むのも約束された様なもの。
曹操は残念そうに
「子寂の話も一理ある、劉備が再び場内に戻ったら振り出しに戻ってしまう」
郭嘉「それならなぜ軍事殿は二ヶ月と言ったのだ?」
典黙はニコッと笑い
「奉孝の言う通り、初戦で主導権を握れば後は状況を読み少しずつ勝利に繋がるでしょう!このような策を考えた奉孝ならそれが出来る!」
曹操「我も奉孝を信じるぞ!」
先まで喧嘩腰で話した相手に褒められた郭嘉は少し気まずそうにしていた
郭嘉「軍師殿なら僕より先に勝つ策を思いつくかもしれません」
この郭嘉の話には別の意味も含まれた事は典黙と曹操は読み取った。
それは郭嘉が持ちかけた挑戦状を意味した。
これには曹操が真っ先に興味を持った
「ガハハハハッ!どっちが徐州を落とせるかの勝負か!面白い!」
郭嘉「受けて頂けますか?」
曹操「よろしい!鬼神不測の奉孝と麒麟手腕の子寂、どっちが上か我が見届けよう!!」
勝手に引き受けた曹操を見て典黙はため息をついた
典黙「受けてもいいが勝負の方法は僕が決める」
曹操「奉孝、挑戦するのは君だ、このくらはいいいだろ?」
郭嘉「はい、もちろんです!」
典黙「先程奉孝になぜ二ヶ月と聞かれたが、ホントのことを言う。二ヶ月後に僕の援軍が到着するからです。そうなれば徐州を取るなど朝飯前。だから二ヶ月を期限に奉孝が徐州を取れば君の勝ち、それをすぎたら僕が取り掛かる。これでどうだ?」
援軍だと?曹操は少し驚いたがよくよく考えたら確かに典黙は数日前に徐州について何かを手配したと言っていたのを思い出した。
郭嘉「いいのか?これでは僕に有利な状況ですよ?」
典黙「男に二言は無い!」
歴史が変わり、今では典黙の謀略は呂布の武力と同じくらい有名になっていた。
郭嘉は虚名などには興味は無いが、袁紹の元を去ったもう一つの理由は個人的に彼の知力を知りたかった。
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