四十八話 糜貞の招待状

翌日の昼間に起きた典黙はまず考軍処へ向かった


許昌に都を決めてから多くの人材が集まった、腕のいい職人もその内。


典黙「欧鉄、これを五千くらい作って欲しい」


典黙は入ってすぐ図面を欧鉄に渡したが欧鉄はまだ前回の事を引きずってるか震えた手で恐る恐る図面を開いた


典黙「今回は資材も時間もそんなにかからないから安心して大丈夫だよ」


欧鉄は図面を見てみるとそこに書いてある物は確かに拳位の大きさで幾何学模様の物体だった


欧鉄「確かにこれならお金も時間もそんなにかからないと思います!五日あれば納品できます!」


典黙「ではお願いします」


鍛治仕事は欧鉄に任せておけば問題ないと典黙は考軍処を離れ城西の旅館へ向かった。そこには麋家の者たちを"軟禁"していて、今日はその麋貞に呼び出されたからだ。


旅館へ入ると麋貞の部屋の押開き戸は少し空いていた。中を覗き込むと扉の上に銅制のタライと更に奥の方に小麦粉が入ってる似た様な洗面器も見え隠れている

洗面器からの反射で隠れている麋貞も見えていた、彼女は今部屋の奥で頬杖してしゃがんでいる、顔こそ見えていないものの恐らく悪巧みの笑みを浮かべているだろう。


この程度の悪戯を簡単に見破けた典黙は三歩下がってからいつもと違う声で

「典黙が連行された!皆見に行こぜ!」と叫んだ


それを聞いた麋貞は我を忘れ、嬉しそうに扉から出ようと飛び出した


パシャー…ポカンッ!


麋貞「うわぁーっ」

自分が仕掛けたタライに引っかかり驚いた麋貞は後退りして今度は小麦粉が入ってる洗面器もひっくり返してしまう


典黙はこの時にゆっくり入って来て

「あららっ…弟だと思ったのに女の子だったのか。」


濡れた衣服が肌に引っ付いて体の曲線が分かりやすくなった上に髪から滴る水滴が頬を伝って典黙の視線をも奪わっていた。

小柄ながらも豊満な胸部を隠す麋貞は顔を赤くして頭の中真っ白にしていた。


やがて笑い堪えてる典黙を見て麋貞は我に返って怒鳴り散らす

麋貞「はっ…速く出て行ってよ!このスケベ!恥知らず!アンポンタン!」


麋貞は飛び上がり両手で典黙を部屋の外へ押し出す。


約三十分後に再び部屋の扉が開き、緑色の翡翠華柄裾の織服に身を包み麋貞は現れた

麋貞「どうぞ!」


部屋に入ると典黙は遠慮なく椅子に掛けて腕を組み麋貞を眺め

「えー弟と呼べばいいのか?それとも妹と呼べばいいのか?」


麋貞「フン!何でもお好きな様に呼んでください!今日来て頂いたのは、いつ帰してくれるのかが知りたかっただけです!」


典黙「前にも言ったが、劉備を締め上げてから帰すよ」


典黙は言いながら机に置いてある桂花点心を手に取り口へと運んだ


麋貞「うちが財力での援助を警戒してるからでしょ?そうしないように約束しますよ!」

典黙「君の一存で決められるのか?」

典黙は手に付いてる粉を落として言う

「麋家は劉備との連姻を考えてるでしょ?そんなに劉備が好きなのか?おじさんだよ?君はそれでいいのか?」


心に響いたのか麋貞は頬っぺを膨らまして

「好きだからじゃないです…大兄様の決める事ですし、私がとやかく言える事では無いです!それに、あなた達がいつ劉備に勝つか分かりません、一生勝てなかったら私は一生このままなのが嫌です!」


典黙「それは心配要りません、長くてもあと三ヶ月、決着は着きますよ」


これを聞いた麋貞はやっと眉間に寄せたしわを少し伸ばして典黙を見て聞いた

「ホント?」


典黙は頷いて「あぁ、それと青塩の取引は麋家とする事にした。得られる利益も少なくないはずだ、ここ数日のお詫びとでも思ってもらって結構。」


麋貞「うん…」

箱入り娘の麋貞はお金の概念も無く、利益の話は彼女に響かなかったらしい

麋貞「そんな事よりも、城外へ遊びに行かせてもらえますか?ずっと城内に閉じ込められてキノコが生えてきそうです…」


典黙「それはダメだ、逃げられたら元も子も無い…」


麋貞「ですよね…」

失望を露わにする麋貞を見て典黙は仕方なくため息をついて

「そんなに行きたければ僕の監視付きで…」

麋貞「ホント!?行こ行こ!!」


典黙の話の途中にも関わらず糜貞は大はしゃぎした、先まで死んでいた顔も生き返って、アホみたいに笑っている。


しばらくして典黙は馬を二匹連れて来たが、糜貞は馬に乗れない事を打ち明ける。典黙もこの機を逃すわけが無く馬に跨って聞く

「急だったから馬車は用意できなかった、僕と同じ馬に乗るか、歩いて着いて来るか、どっちにする?」


糜貞「徒歩を選ぶアホにでも見えたのですか?引っ張り上げて下さい」


風に吹かれて糜貞の黒髪が優しく典黙の顔に当たり淡い香りが脳内を貫く

典黙「いい匂いがするね」

糜貞「大人しくしてくださいよ、でなければ大兄様に言いつけます!」


糜家の力では典黙をどうこうできない事は糜貞自身もわかっていたが少しでも反撃をしたかった。


城門をくぐる時に見知った顔が見えた典黙がその人に呼びかける

「文若!なんでここに?」


荀彧「子寂、友が来ると言ってもうそろそろ着く頃だから迎えに来たのだ」

言い終わった荀彧はにこやかに笑った。


典黙「荀文若が直々に出向かうとはな、その方も只者では無いという事か…」


荀彧は軽く微笑んで

「子寂もそのうち知り合う事になる」


恐らくは穎川に隠居してる賢者だろうな…この地ににる人材は多過ぎるくらいだ…


誰だろうと今の僕に関係の無い事だ、そんな事よりも今は楽しもう!


典黙は軽く会釈すると糜貞を連れて城外へ走り去った。


「彼なら君の才能に勝つかもしれないな…」

典黙の走り去る後ろ姿を見て荀彧はそう呟いた

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