四十七話 矛盾
賈詡「子寂、主公の次なる目標は徐州でしょ?」
賈詡は典黙にお酌しながら聞いた
典黙「そうか?次の目標は淮南の袁術だと聞いたがな...」
おちゃめな典黙は冗談交じりに答える
賈詡「この老いぼれの正直者をからかうのやめてください...主公は朝議で天下の諸侯に地位を与えたが、ただ一人だけ...呂布に与えた地位から殺意を感じる」
お酌を終えた賈詡は水瓶を下ろしてゆっくりと自分の見解を述べた
「徐州を占拠しているのは劉備、呂布は小沛に追いやられている。この状況で呂布に彭城候を与えるとは…彭城は徐州の治め所、これで離間計の下準備は整えたという事かな?」
典黙は否定せずに軽く頷いた。
賈詡「黄城の戦いで飛び熊軍の強さを目にしたと思いますがそれでも陥陣営には程遠いです」
この観点には典黙も同意していた。
三国時代で陥陣営と互角に戦えるの部隊は全盛期の虎豹騎くらい。
賈詡「董卓の下に居た頃陥陣営を見学した事がある、選び抜かれた一人一人の能力が高い上に人馬共に重装甲を身に付けて普通の武器では歯まずが立たない。そこに加え互いに連携し攻守一体、どんな状況にも簡単に対応出来てしまう。前に一度陥陣営の調練を見た事があるがその時呂布も参加していて五人の陥陣営相手にさすがの呂布もその包囲を突破することが無かったよ。」
典黙「僕にこの話をするということは何か良い策をお持ちですか?」
賈詡「はい、不必要な消耗を避けるべく私から一つ提案があります」
賈詡は箸を灯りに近づけて焦がした
賈詡「陥陣営は通常の騎兵に比べて唯一機動性が劣る、彼らを林間に誘い込み火油で攻めれば簡単に勝てます!」
典黙「いい方法だが、それでは陥陣営も消滅してしまいます...少し勿体ない気もします」
賈詡「勿体ない...まさか陥陣営を生け捕りにするつもりですか?」
典黙「陥陣営を手に入れることが出来れば鋭い剣を手にしたのも同じ」
典黙は自信満々に賈詡を見て
「一つ賭けをしませんか?僕は徐州を攻めるとき陥陣営を正面から打ち破りながらも彼らを生け捕りにする!」
陥陣営を生け捕りにする?そんな事できるはずも無い...
賈詡「子寂の知恵はもはや人外の域に達したと聞いてる、その麒麟手腕見せてもらいますよ」
内心で信じなくても賈詡は典黙に不快感を与えなかった。
もちろん典黙にだけじゃなく、賈詡は誰に対しても反対意見を本人に言わないようにして来た
これは彼なりの処世術で保身術でもあった
その後宴会も無事終わり、全員が出て行った後典黙は曹操の所へ向かった。
曹操「子寂?どうしたんだ?」
典黙は曹操の前でため息をついてから
「主公、今夜は張済の妻鄒氏と同衾するおつもりで?」
曹操「何か問題でもあるのか?」
典黙「大いにあります…」
酔っ払った曹操は典黙の真剣な顔を見ても未だ事態の深刻さを理解していない。
曹操は立ち上がって千鳥足で典黙に近づいてニヤニヤしながら聞いた
曹操「まさか……子寂も我と同様な考えなのか?ならば今日の所は譲ってあげよう!我は明日でも良いぞ!!」
これには典黙は呆れて言葉も出ない、ただ呆然と曹操を見ていた
曹操は更にニヤけた顔で典黙の胸を手の甲でポンと叩いて
「通りで君とは気が合う訳だ!俗に英雄所見略同!傑出した者同士なら考える事も同じか!ガハハハ!」
典黙は近くの椅子に腰を下ろして淡々と話し出した
典黙「主公、早く酔いを覚ました方がいいですよ。今日危うくとんでもない事件を引き起こすところでしたよ…」
キョトンっとしてる曹操を見て典黙は説教を続ける
「張済が戦死した直後にその妻を同衾に誘うなど、張繍からどう思われますか?屈辱でしょうね...彼の兵力は僅か二千程度だが今夜謀反でもされたらどうなる事でしょう...」
ここまで言われて曹操の混濁していた思考もスッキリして酔いも覚めてきた。
武将たちがすっかり酔っ払った今、万が一張繍が謀反したらそれを止められる人も居ない
既に冷や汗をかいた曹操を横目に典黙は説教を止めずに続ける
「そうなれば義を重んじる趙雲も張繍側に着いてしまうでしょう」
シラフに戻った曹操はゼェゼェと息が上がって典黙に礼を言う
曹操「ありがとう…子寂のおかげで惨劇が免れた」
曹操は現時点で配下に典韋、趙雲、許褚等の猛将が集まり、天子である劉協も手中に収めてる事から浮かれるのも人としてごく自然な事。
そして曹操は過ちにすぐ気づき、それを正せる
曹操「我は図に乗っていた、勝利の美酒に酔い、危うくこれまでの成果を歴史に変える所だったな!」
典黙「主公、人の上に立つという事は自らを律さなければ下の者に示しがつかないのですよ。男は男女の情に溺れるよりもやるべき事があるのでは無いでしょか?」
曹操はまるで生徒のように謙虚に頷く、それを見て典黙も安心して外へ向かうと
曹操「子寂、どこへ行くのだ?」
典黙「昭姫ちゃんの所、まだ寝てないなら夜食に誘うつもりです」
曹操「……」
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