四十六話 論功行賞

夜になると曹操の邸宅は明かりを灯されていた

曹操軍の中で名の知れた人たちがほぼ全員集合していて、文官と武将たちは広間で左右に別れて着席していた。


お酒と食事が既に準備を終えているがそれでも曹操は箸に触れずに居た。


少ししてから曹仁が全員の注目の中で曹操にいくつかの竹簡を届けた。


曹操は周りを見てニヤっと笑い、竹簡を朗読し始めた

「破軍校尉典韋、汝南の戦いにて黄巾賊劉辟を討伐、五万の敵軍を打ち負かし、敵将十七名と敵兵二百八十一名討ち取り。穎川の戦いでは敵将二十一名と敵兵二百四名を討ち取り。長安では天子の奪還と西涼の反乱軍を足留め、敵兵百三十三名を討ち取り。以上の功を称え、典韋を定北将軍に任命する!」


定北将軍とは大将軍の内の一つで、位から言えば提督の次に権力を有している。

本来ならば校尉の次は将軍、その次が大将軍の順で上がっていくもの。

典韋は二階級昇進した事になる。

周りはすぐざわつき始めたが皆納得した。


曹操「騎都尉許褚、汝南の戦いにて敵将九名と敵兵三百十七名を討ち取り、穎川の戦いでは敵将十八名と敵兵二百七十九名を討ち取り。長安天子の奪還と西涼の反乱軍の足留め、敵兵百五名を討ち取り。以上の功を称え、許褚を振威将軍に任命する!」


振威将軍は普通の将軍の位に位置するが許褚は元々騎都尉、彼もまた二階級特進した。


曹操「行軍司馬趙雲、張繍や張済を味方につけ、天子の奪還作戦において重要な役割を見事に果たし、同作戦にて敵兵百八十八名討ち取り。以上の功を称え、趙雲を盪寇将軍に任命する!」


趙雲に至っては三階級特進した。


そして曹操は引き続き竹簡を読み進み、曹仁兄弟や夏侯兄弟、于禁、楽進、張繍、程昱、荀彧等皆功労名簿に名前を連なった。


名前を呼ばれて、朝議ではガッガリしていた曹仁がすぐに元気を取り戻した。

それと同時にわかった事もある、それは名ばかりの朝廷の褒賞よりも名実共にある曹操からの褒賞の方が嬉しい。


曹操は最後の竹簡を広げ

「考軍典黙...」


典黙の軍師祭酒は軍での役職で、朝廷での位は未だに考軍だった。


当たりはざわつきから一瞬にして静寂に変わって、全員が期待の目を曹操に向けた。

今回の作戦の立て役者、そんな典黙への褒賞が気になって仕方がない


曹操はすぐには続きを読まずに、典黙を一目見た、典黙は合掌して手を擦り合わせていた。

曹操と目が合った典黙は目線で何かを謳えている様だった。


静まり返った会場からまた密言が聞こえて来た


「軍師殿は少なくとも九卿に昇進されるだろうな!」


「天子を救い出したのだぞ、その上の三公でも過ぎた話ではない…!」


「あの若さで三公九卿なら前人未到の快挙ですぞ!」


その中で曹操は続きを口にした

「考軍典黙、その補佐により数多くの戦果が挙げられた…その功を称え、東観令に任命する!以上!」


会場は再び静まり返った、先までヒソヒソと話していた人たちも皆耳を疑った。


東観令とは朝廷の書類を整理する役職で朝議に参加する資格もない位、つまりは朝廷の事務員みたいな物だった。


冷えきった空気の中で曹操は仕方ないふうに溜息をつき首を横に振った。

朝廷に登録されてる役職の中で朝議に出なくていい職はこの東観令だけだった。


典黙「ありがとうございます!」


曹操「さぁ宴を始めよ!楽を奏よ舞踊れ!」


典軍師本人が気にしてないなら心配はいらないと皆が宴会に集中した。

酒に酔って浮かれた許褚と典韋は千鳥足で踊り子たちの真中で踊り始めた

二人の乱入によって会場が笑い声に包まれた。


そんな張繍の後ろに座る一人の美婦人に曹操は注目した。

曹操が曹仁を近くに呼びつけ

「あれは誰だ?」

と訊ねた。


曹仁「張済の夫人の鄒氏です」

曹操「今宵我と同衾してもらおう...」


おいおいっ!ウソでしょ...歴史は変えられてもその嗜好は変わらないのか...

典黙は呆れて言葉も出なかった


男はスケベかドスケベ、典黙も理解はあるが鄒氏はまずい。

今の張繍は兵力こそ少ないがそれでも暴れられたらタダじゃ済まない。


「軍師殿、ご一緒してもいいですか?」


曹操をどう止めるかを考えていた典黙に賈詡は盃を持って近ついてきた。


典黙「文和先生、おかけください」


二人は乾杯して典黙は先に口を開いた

「文和先生は僕の計略を見破いたと張済将軍から聞きました。文和先生が黙っていたから計画が滞り無く進められました、ありがとうございます!」


たぬき賈詡はそれを聞いて急ぎ手に持った盃を下ろして

「とんでもないでございます!軍師殿の策に気づいたのはまぐれです。あの時私が告げ口をしたとしてもまた別の策で対応出来ていたのでは無いでしょうか?その麒麟手腕にかかれば陛下の奪還など造作でも無いでしょうに」


賈詡の話には裏があった、彼は謙虚と見せかけて典黙に敵意が無い事を伝えようとした。


典黙も賈詡の能力を高く評価していた。


三国時代の策士では賈詡と同等に渡り合えるのは郭嘉、荀攸、諸葛亮、龐統くらいが挙げられる。

それに策士特有の"お高く留まる"雰囲気が賈詡には全く無く、話しやすい所も典黙の中ではポイントが高かった。


賈詡「先生と共有しておきたい事がございます」


典黙「子寂でいいですよ僕も文和と呼びますので」


賈詡程の謀士ともなれば新しい職場で自分を売り込む大切さをよく知っていた。


自分を売り込むために僕のところに来たか…

よく考えたな、身分的にもいきなり主公に話しようにも取り合ってもらえないかもしれないからな。


典黙は賈詡の行動を分析しては彼の話に少し興味を持っていた、なにせ彼は自分の離間計を一瞬で見抜いたから

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