四十話 長安動乱

単純に兵力から言えば郭汜は李傕に敵わない。

呂布が董卓の陣営に寝返る前までは李傕が董卓軍の一番の武将だった。

李傕は西涼軍を束ねる上三千の飛熊軍も持っている。

飛熊軍は董卓の切り札、董卓が簡単に洛陽に入れたのも、当時一強の丁原とまともに戦えたのもこれのおかげだった。


董卓の死後その軍勢も五つに分かれたそれぞれ

呂布、李傕、郭汜、樊稠、張済が統率しお互い利益を巡り牽制し合っていた。


郭汜はまず樊稠をたぶらかし李傕と対立するように自分と同じ戦線に立たせた。

張済は賈詡と同じように保身を第一に考えて中立の立場を崩さないで居た。



ここ数日、

典黙の手紙が功を奏したからか、李傕、郭汜、樊稠らお互い殺し合いを続けた。

両陣営合計五万人、連日連夜掛け声と叫び声が飛び交う。

城内にはもはや安地が無く、昔栄えていた市街地も今は屍山血河。

昼夜問わず殺し合いをする兵士たちは休息もできない。

敵対勢力も同じ装束で神経もずっと張り詰め、やがて発狂する人も出てきた。


急に崩れた均衡により数多くの平民も逃げ遅れ戦乱の凶刃に倒れていた。

皇宮に飾られる十四歳の天子も怯える日々を過ごしていた。


張繍「叔父上、手紙によると子龍たちは本日に到着する予定です。叔父上は合流に向かってください、僕も自部署を連れ天子の救出に向かった後に合流します」


ここ数日の阿鼻叫喚に嫌気がさした張済は曹操軍の到着予定を聞いて感激した

張済「やっとここから開放されるのか…よしわかった!皇宮内の状況も複雑だろうから気を付けてね!」


二人は各自の兵を整い自らの任務に着手した


しばらくして城外に居る張済は"曹"と書いてある大旗が見えて合流した。

張済「孟徳さん、光陰矢の如し。洛陽で別れてから四年過ぎるがお変わりないようですな!」


曹操も到着して早々休む暇もなく馬から飛び降りて拱手した

曹操「君益!故人と再び会えるのは嬉しいぞ!我々が来るのが遅かったか?城内は今順調に計画通りに進んでいるか?」


張済「孟徳よ大丈夫だ、ここ数日李傕、郭汜らが殺し合いに集中して他の事に気が回らない。甥の張繍は混乱に乗じて陛下を向かいに行った、我々も合流地点に向かいましょう!」


曹操「よし!では行こう!」

曹操の号令で将兵たちが張済の後に続いて城内になだれ込んだ。


曹操が前回長安に訪れたのは六年前、洛陽ほど豪華ではなかったが至る所紅灯緑酒、とても栄えていた。

今では見るも無惨に、至る所に狼煙が上がり、死体が転がり。掛け声や叫び声、武器のぶつかり合う音で充満していた。


道中李傕、郭汜の部隊と思わしき兵が出てきたが三大将に蹴散らされた。


合流地点に着くとそこには転がってる死体と焼かれた民家しか無かった。


張済「まさか…皇宮内に何か不測の事態が起きたのか!我々も早く中に入ろう!」


曹操「待って、この集合場所は皇宮と退路の間に位置する。我々全員で中に入ってこの地が占拠されたら突破できなくなる!」


百戦錬磨の曹操は冷静に状況を分析しすぐに作戦も思い付いた

曹操「子龍、仲康、子盛!典字営を率い我と君益と共に中へ入ろう!他はこの地を死守せよ、何が起きても失うな!」


曹操が中に入る前に曹仁の耳元でこっそり話しかける

曹操「子寂の安全は何より大切、必要とあらば全軍を犠牲にしてでも守り抜け…」


曹仁「承りました!小官たちが全力で守ります!」


曹操たちが離れた後曹仁が指揮を取り、全軍で守りの陣形を作り、典黙を中心に武将たちが取り囲むように配列した。


天子の到着を待ってる間に西涼兵がちらほら出て来ては殺し合いを繰り返していた。

まるで深い憎しみを持ってるように、急に現れた曹操軍を無視して、ただただ殺し合っていた


暫くすると突然背後から馬の蹄音が聞こえて来た、振り向くとそこには白いを服着た少女が紛争から逃げようと走って来た、その背後に数十名の騎兵も見えた。


少女からしてみれば前に曹操軍が待ち構え、後ろにイカれた騎兵が迫るこの状況を絶望に感じた。


数十名の騎兵がバラバラの鎧を着て殺し合いながらこっちに突っ込んできた。


少女を助けようとした典黙は曹昂の背負っている硬弓を手に取り先頭の騎兵目掛けて颯爽と矢を放った!


シュッ…ポトッ

矢は騎兵に届く前に地面に突き刺さり。

典黙呆然…


曹昂は空気を読み弓を取り返し騎兵を二三人射抜いた。


典黙「早く逃げろ!」


典黙の叫び声で我に返った少女は感謝の気持ちを込めてお辞儀した後まさか曹操軍の方へ逃げて来た。


曹昂「先生…後で弓教えますね…」

典黙「あっ…あぁ…お願いします…」


「立ち去れ!で無ければ殺すまでだ!」

陣形の一番外側の騎兵が槍を構え少女に警戒していた。


平民を巻き込む事を嫌がる典黙は曹昂に少女を逃がすよう頼もうとしたが、曹昂を見ると彼は固まっていた。

曹昂は固まり、少女を見て口をパクパクして言葉が詰まって居た。


曹昂「中へ通せ!」

典黙が口を出す前に曹昂は既に命令を出した。


この少女は何者だ?曹昂はなんで彼女を中へ入れたんだ?典黙はこれを不思議に思ったが反対はしなかった。

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