三十八話 新護衛
麋芳は糜貞を置いて一人で徐州には帰らなかった。その代わり糜竺に手紙を出し状況を説明した。
典黙もそれ以上糜家の事に時間を割かなかった、糜貞が濮陽に居る以上劉備と糜家が仲を深める事もできないから。
それにもっと重要な事がある、長安に辿り着き、天子を救い出す事。
十数日後、濮陽西門に五千の騎兵の精鋭が集まった。典韋、許褚、趙雲、曹仁兄弟、夏侯惇兄弟…名のある武将たちは殆ど揃っている。
典黙は少し遅めに登場した、着慣れない鎧も身につけている。玉獅子は趙雲に返したから曹操は代わりの馬を用意した。
曹操「子寂、こっちにおいで」
曹操は背後に二十歳くらいの青年を指さし
「この人は知ってるか?」と聞いた
典黙はその青年を見ると青年は身に鎧を着て、腰に宝剣を差し、右手に槍、筋骨隆々で鋭い目をしていた。
見覚え無いな…新しく募った将官かな…
答えが分からない典黙は首を振った
青年は一歩前へ出て拱手して挨拶を始めた
???「小官曹昂、先生の護衛の任に拝命しました!これからは先生のために手網を引き、刀剣戟斧の盾となります!」
マジ?曹昂、曹子脩なの?普通自分の長男を護衛につけるのか?
「子寂、愚息の子脩は子盛や仲康には遠く及ばないが生まれ持っての怪力に幼少期から各種武芸弓馬を習い、君の安全を守れるだけの強さはある」
曹操は後ろで手を組み自慢げに語った
確かに曹操の人を見る目に狂いはなかった。
歴史上でも曹操は張繍の恨みを買い殺されそうになりながらも曹昂は宛城で自分の馬を譲り徒歩で曹操を守り抜き戦死していた。
曹昂が生きていれば跡継ぎに曹丕の出る幕も無かった。
典黙「若様が僕の護衛ですか…?さすがにそれは恐れ多いです…」
身分から言って曹昂は曹操の嫡男、年齢から言って典黙より歳上、顎で使う護衛にするのは典黙も少し遠慮したい所。
曹操が何かを言う前に曹昂は背筋を伸ばし堂々と決意を話す
「父上から聞きました、先生は経天緯地の大才、冠前絶後なる先生の補助無くしては天下を取るのは夢物語。我が軍の栄枯盛衰は先生にかかってるのであればこの生命先生のために投げ捨てる覚悟はできてます!それと、これからは小官のことを子脩とお呼びください!軍中に将官あれど若様はなしです!」
嬉しいこと言ってくれるね、気に入った!
典黙はベタ褒めされて顔には出さなかったが、とてもいい気分になっていた。
曹昂は話し終えると典黙の馬を引き歩き出した
三人で歩いてると曹操は話し始めた
「子寂よ、子脩は戦場では確かに勇猛果敢で並の使い手ではまず敵わない。だがしかし少し短慮で知識にも疎い、匹夫之勇では将来が心配だ。今では文官に子寂、武官に三大将、どの諸侯も眼中に無いが。我もいずれは老い死ぬだろう……子寂よ我の言いたい事がわかるか?」
ここまで話されて分からない典黙ではない
古来より嫡男が世襲に向けて準備をする時は実力のある信頼できる人を師に持たせる、劉禅に諸葛亮のように。
そして曹操が一番に思いつくのはもちろん典黙
典黙「主公買いかぶりすぎますよ…人に物を教えるなどしたことがないですよ…」
典黙は正直に不安を口にしたが、一番心配なのは曹昂は嫡男、もし言う事を聞かなければ自分ではどうすることも出来ない。
典黙の心を見抜いたか曹操は立ち止まり曹昂に手招きした。
曹操「師父を得るんだ、自らお願いするのが筋であろう!」
曹昂「はいっ!」
曹昂は両膝を地に付け、典黙の顔を曇りの無い目で見つめ誓いを立てる
曹昂「一日為師、終身為父!一日師となれば終生父となす!これから先生のおっしゃる事は何でも守ります!何でもお申し付けください!何を言われても文句を言わず、不満を思わない事ここに誓います!」
曹昂の言葉は力強く、目から誠意が溢れていた
終生父となす…ねぇ…ここまで言われたんだ断る理由もないか…
典黙は一度深呼吸して曹操に向けて一礼をした
典黙「わかりました…子脩には僕の持ってる全てを教えましょう。また子脩が僕を守るように、僕も彼を危険な目に遭わせないことを約束しましょう!」
先までの心配も消え典黙は自信満々に言った
歴史の流れに添えば曹昂の命は残りわずか二年
自分の介入によりその歴史の徹も変えようと心に誓った典黙
曹操は目を細め曹昂の前にもかかわらず典黙に拱手しお辞儀をした
曹操「子脩を…愚息をよろしくお願いします」
典黙「主公!恐れ多いです!」
急いで曹操を起こし典黙は少し恥ずかしそうに気まずそうにしていた。
曹操「出征の宣誓は我が行おう!」
事が決まり曹操は満足そうに五千人の方陣の先頭に立ち宝剣を抜き天にかざす。
曹操「関中にて賊子が乱を行う中、天子が辱めを受け、天下動乱!我らは漢王朝の家臣として漢王朝のために賊を狩り、天子を虎狼の巣窟から救い出さねばならん!」
将兵たち「必勝!必勝!必勝!うおおぉ!」
曹操は宝剣を西に突き出し「出発!!」と号令した
濮陽から長安までは一千二百里、急行軍でも十日はかかる。この十日間外部との連絡は殆ど取れないから、長安の情報も濮陽の情報も無い。
このように長距離の急行軍はリスクは高く、普通ならしないが典黙は既に手紙を出していた。
今は計画通りに事が運ばれる事を祈るばかり
数日後長安の近辺まで辿り着いた曹操たち、これと言った抵抗も受けずに順調に進んでいた。
これが何を意味してるのかは曹操はすぐにわかった。
計画通り!天子はもはや手の届く範囲!
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