三十四話 北地槍王

可愛い糜貞と別れ軍営に典韋に会いにいく典黙は趙雲とばったり会う


典黙「子龍、何か困り事はないですか?」

趙雲「これは軍師殿!先程手紙の返事をもらいました、向こうはこちらの日程に合わせて行動をする予定だそうです!」

趙雲は言いながら竹簡を取り出した、典黙は特に見ようとしなかった、趙雲を信頼していたから。


典黙「ほう、この事が上手く行けば子龍が一等の勲ですよ!」


趙雲「最初軍師殿に国を救えると言われた時は実感できなかったが、このような策を簡単に張り巡らせるのを見て、今は疑いの気持ちは微塵もありません!軍師殿はまさに大局全体を見据えているのを身に染みて分かります!これからは形勢一変、驚天動地の効果が期待できます!」


趙雲は喜んでいた、昔の彼は公孫瓚の元で精々兵卒の操練に明け暮れていて、良くて南下して匈奴や盗賊を相手にしていた。

中原に来た今は一気に行軍司馬に任命され、秘密裏に国をも動かす大仕事に取り掛かり。

典黙に対する感謝の気持ちをより一層強くした


典黙「ムフフっ…そうでしょ?子龍を騙すようなマネはしないよ。」

典黙は趙雲の胸板を軽くポンっと殴り

「そういえば向こうさんは長安の兵力について何か情報をくれなかったのか?」


趙雲「もらいました、今李傕の部署は二万ほどの兵力で三千飛熊軍を除き騎兵四千、残りは歩兵。郭汜の部署は比較的に少ない兵力だが騎兵は八千もあります、歩兵は五千で合計一万三千!」


趙雲は間を空けて

「そしてもう一つ情報がございます、李傕と郭汜の間が少し不和になっていて、いつ内乱が起きるか分かりません。それを待ちますか?」


典黙「いいや!その必要は無い、衝車や雲梯などの機材が少ない今正面突破よりも違う切り口を考えておきます。李傕と郭汜の間に不和が生じてる今ならその不和につけこもうじゃないか…」ニヤリ


趙雲「分かりました、では次の指示をください!」


典黙「子龍の手を煩わせませんよ、僕が上手くやっておこう。それよりも返信をお願いします、十日後に動きましょう、その日に城門を開けてもらうようにと。」


趙雲は実際典黙の手段を見た事ないが典韋や許褚の話を聞いた事はあるからこれ以上は何も言わなかった


趙雲「承りました!」


趙雲が去った後典黙も軍営から出て曹操の元へと向かった。


この時曹操の邸宅に荀彧と程昱、曹操ら三人で話し合いをしていた。


程昱「主公、子寂の言う半月の期限がもうすぐですが長安から攻め落とすのは無理があると思います!」


荀彧「その通りです、我が軍全軍で向かっても長安城を落とすのはそう簡単では無い、増して天子を救出できたとしても追っ手から天子を連れて逃げるのは容易ではない。」


程昱と荀彧の心配も理にかなってる

曹操「二人の言う事に賛同だがここは一度子寂の計画の全体を聞いてからじっくり話し合おう!」

曹操も慎重に事を進めるとわかって二人は安心して外へ出る。


二人と入れ違いで典黙が曹操に訪ねる

曹操「丁度良かった、適当にくつろいでな」


典黙は当然のように遠慮もなく近くにあった椅子に座り足まで組み、得意気に曹操の顔をじーっと見る


曹操「待って何も言うな!当ててみるぞ…長安攻略の準備が整ったのだろう??」


典黙「主公は張済をご存知で?」

典黙は曹操の質問に質問をぶつけて返した

曹操「張済…知ってるぞ、昔董卓が我を骁骑校尉に任命した時に何度か会った事あるぞ、董卓が亡き今は独立して李傕や郭汜と長安に居ると聞いたな。」


典黙は頷いて続けて言う

「張済に甥っ子が居る、名は張繍、ご存知ですか?」


曹操「会った事ないが、張済に聞いた事はある。北地槍王との二つ名で卓越した槍術らしいな……それがどうかしたの?」


典黙「その張繍は子龍の兄弟子で二人は幼少期からお互い切磋琢磨して兄弟のように仲も良かったですよ!」


曹操はこの話を聞いて鳥肌が立つほど恐ろしかった、趙雲はまだ自陣に来てそんなに経っていないというのに、その深い関係性を見抜き、更に利用する典黙が心底から怖かった。


曹操「つくづく思うよ…子寂が我の味方で良かった!」

典黙「えっ?なんの話ですか?」


曹操「まぁ良い!なるほど…新しい行軍司馬ならできる…か。大方子龍に張繍、張済を口説かせ内密に味方するよう手を回しただろう!」


典黙はニコッとして何も言わなかった

曹操はゆっくり立ち上がって

「よくぞ…よくぞやってくれた!」


少し興奮気味の曹操は息も上がって来た

曹操「子寂よ、どのくらいの軍勢で行くつもりだ?」

協力者の保険があれば十中八九成功する、仮に全軍を尽くせと言われても曹操は躊躇わないだろう。


典黙「この作戦は長距離の急行軍の後に強襲戦、量より質…騎兵五千、それも全員精鋭の必要がある!」


曹操「たったの五千?李傕と郭汜の兵力は三万前後だぞ?それに城外には匈奴や白波賊もいる…兵力が少ないでは無いか?」


典黙「少な過ぎますね…でも足りますよ!」

お茶を一口すすり典黙は続けて言う

「足りますよ!主公のご助力が必要だが」


曹操「助力?我が?」

曹操はクスッと笑って

「我に何ができるというのだ?」


謙虚では無い、長安や洛陽の状況が複雑すぎて各諸侯は避けるべくして関わらないようにしていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る