三十三話 なりそめ
典黙は言ったことを実行する男、糜家を放置すると言ったからにはしばらくそれを気にしなかった。
しかし麋芳が持って来た贈り物は受け取っていた。
曹仁「軍師殿、贈り物だけを受け取り、それ以外を無視するのは…良くないじゃないですか?糜家の方たちは濮陽に来てもう一週間経ちますよ?」
典黙「それとこれは別の事、贈り物をくれたのは僕のメンツを立てるように、僕も相手のメンツを立てるようそれを受け取っただけの事よ」
図々しいにも程があるよ…と曹仁は思いながらも立場に阻まれ、それ以上何も言えなかった。
典黙「それはそうと、やって欲しいと任せた事はどうなってる?」
曹仁「ご安心ください、甄家と商談する嘘は既に流しております!もうすぐ糜家の副当主の耳にも入るでありましょう!」
典黙は満足そうに頷いた、こちらの条件を提示する前に相手を緊張させることは有利な立場になるから
平民商人「早くしろ、城西にどこぞのお嬢様が来てて値段関係なしに物を買って行くらしいぞ!」
平民商人「アイヤー!今行くぞ!」
二人が話をする時に周りがざわついて、何人かの小売商人が慌ただしく商品を持って城西の方へ向かうのを見た。暇だからと典黙と曹仁は野次馬根性を燃やし、見に行く事にした。
城西に着くと小売商人たちが一人の少女を取り囲み押し売りをしているのが見たえ。
少女「あぁーもう!お金使い切ったから!ほらっどいたどいた!ってかどけ!」
濮陽は兗州の治所、見過ごせないと思った典黙は場を収めようと曹仁に頼る事にした
典黙「子孝!」
曹仁は意を汲み取り人の群れに割って入った、
商人たちも空気を読み散りばめて行く
曹仁「こんなもんかっ」
少女は二人のところに来て「助けて頂いてありがとうございます!」
典黙「このくらい、例には及ばない!」
少女「お時間を取らせません、少しばかりの礼で近くでお茶しませんか?」
このようなお誘いはいつもなら断る典黙だが、相手をよく見ると柳眉に絵に書いたような大きい目、化粧も程よく純情可憐な様に心を打たれ
九十四点!転生してから一番可愛い!と素直な気持ちが全身を駆け巡る。
典黙「暇ですっ!」
曹仁「腹減ったし、行きましょ!」
典黙「子孝は用事がある故来れないらしい!」
曹仁「えっ?無いですよ…」
典黙「いやっ!ある!」
本当に思いつかない曹仁は何かを言う前に典黙の鋭い目を見て状況を察した
曹仁「確かにありました!それでは失礼します!」
少女「あららっ残念です、では公子どうぞ。」
二人は近くにある集福楼に向かう、そこで料理と少しのお酒もを頼み、話し始めた
典黙「お嬢さんはどうして商人たちに絡まれたのですか?」
典黙少女の返しを何通りも予想しそれに対する返答もある程度は考えていた、何としても少女の好感度を上げたいと典黙は考えていた
少女「ふんっ典黙という輩のせいです!」
えっ?えーっ?
なんで?初めましてなのにどうして?
と思いながらも典黙は遠回りに聞く
「典黙のせいね…彼は曹操軍の軍師祭酒なのでしょ?こんな商人たちをけしかけて来たとでもいうのか?」
少女「いええ、典黙から商談がしたいと先日兄上宛に招待状を送って来ました。それで濮陽に来てみればずっと放ったらかしにされてもう一週間経つのに、完全に舐めてるとしか思えない!」
典黙「なるほど、それで暇つぶしに街でウロウロして騒ぎを起こしたのか。」
まぁどうせ値段も聞かずに大人買いでもしただろうね…
少女「お恥ずかしいです、自分で何かを買うのは初めてでして…」
麋芳の事を兄上と呼んだ事から少女は糜貞だとすぐわかった、ならばここは一度正体を隠した方が都合がいい、と考える典黙
「典黙が会いに行かなくて良かったですよ!もし会っていたら……」
糜貞は目をパチパチして「会っていたらどうなるの?」
典黙「噂じゃ典黙はドスケベらしいですよ、もし会っていたらお嬢さんの身が危なかったじゃないかな…」
糜貞「ふんっ!しょうもない男ね、曹操の目は節穴かな、あんな男に騙されて軍師祭酒の位までくれちゃって!」
少ししたら糜貞は典黙にニコッと笑い別れを告げる
糜貞「今日はありがとうございました、もし典黙に会うことがあれば気をつけます!あっ!まだお名前を聞いてませんでしたね、聞いてもいいですか?」
典黙「僕は…許川です」
糜貞「私は糜貞です、公子は典黙の事が詳しそうだからお知り合いですか?」
典黙「知らないです、でも兄さんは知り合いだから話しておきますよ。」
糜貞「ありがとうございます!商談の事が上手く行けば必ず糜家からお礼をします!」
典黙「このくらい、礼にも及ばない」
典黙はニヤリと笑い、"典黙"に会ったらびっくりするだろうな…と悪そうな事を企む。
茶席も終わり糜貞は旅館に戻る、別れの際更に典黙に念を押す、糜家の謝礼は大金だとか、くれぐれも典黙を引き合わせてくださいとか…
典黙はこれらを聞いて、ある策を思いつく。策というか、悪巧みである。
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