三十二話 大義名分

典韋は呂布と引き分け、奇襲のために時間を稼いだから校尉に任命した。


許褚は典黙の計画で汝南や穎川を占領して間接的に豫州の入口をこじ開けた、その武勲で騎都尉に任命した。


趙雲は未だ武勲もなく郡中規律では百夫長が精一杯の所、典黙の紹介だからと特別に行軍司馬に任命した。


漢王朝の軍階級では卒、伍長、什長、百夫長、隊率、曲率、軍司馬、都尉、校尉、将軍の順に上がる方式で。

趙雲からするといきなり軍司馬になるのは信じられない程嬉しかった、もちろん典黙へは恩義を感じてる。


趙雲の戦いをまだ見てない曹操は典黙の意図を理解出来ないでいた、髭を摩りながら典黙に聞いた


「子龍は元々公孫瓚の元にいた…伯圭(公孫瓚)は幽州に長く居座り、しかも袁紹と拳を交わりながらだ…。うむ…白馬義従が大いなる役割を果たしてるような、よもや子寂はその訓練方法を見込んだのか…?!」


この頃趙雲は典字営から二百名を預かり操練していた。

典黙の頼みでもあり趙雲は白馬義従の要領で実行していた。


だがしかし白馬義従とは普通の騎兵ではなく弓騎兵で馬術、弓術共にかなりの練度が要求される。

典字営から二百名も引っ張り出せたのはまだいい方


典韋と許褚はこの二つに関しては得意分野じゃないからただ見ているしかない。


典黙「訓練方法は理由の一つ、だがさほど重要ではなく…」


曹操「それじゃ決め手になる要因は?」


典黙「主公覚えておいでですか?大義名分を得ると、それも止めようとするヤツさえも死地に追い込める物が必要…」


曹操「その事に関係があるのか?」


典黙「天下に一人だけ居る、その人の命令を受ければどこを攻めようか理にかなう」


曹操「天子の事か!」

確かに、漢王朝の天子の命令であれば諸侯も逆らうことが出来ない、でなければ謀反を意味する。


天子の実権が無い今でも諸侯は形上天子の言う事を聞かなければ他の諸侯がそれを名目に攻められ、領地を狙われるから。


典黙「はいっ!天子を迎え入れる事でその命令で各地を征服する事ができる!」


天子の存在を後ろ盾にする…曹操は心を打たれ拳を握りしめる。天子を手中に納める、そうする事で自分の行いに反対意見を持っていても他諸侯は手出しできなくなるのはわかっていた


曹操「だがしかし天子は今洛陽に居る、李傕と郭汜は董卓軍の一部を接収している。その戦力は侮れない。しかも李傕の配下には三千の飛熊軍もいる…」


天子が居る洛陽城は水堀、土塁、矢倉、などの防衛設備を始めありとあらゆる守りを固めている。今曹操軍の全軍で攻めても落とせるかが分からない。


典黙「なのでこの前主公に徐州の事を聞かれた当時は未だ時では無いと答えたのですよ。」


曹操「まるで今がその時、みたいな言いぶりだな。アッハハハハ!」


典黙「……そうですね、頃合かもしれません」


曹操「…えっ?」

冗談のつもりで言った曹操は急に訪れる典黙の言葉に驚きを隠せないでいた。それもそのはず、徐州は曹操にとって因縁の地、徐州の州牧である陶謙は父親の仇、劉備は後々厄介な者になりそう。


様々な縁が結び付き、因縁渦巻く徐州。

その徐州を取らなければ何も始まらない…そう思った曹操は眼下に涙を貯めて

「子寂よ、頼む!洛陽から天子を奪ってくれ」


典黙「あぁ…僕では無理ですよっ」


曹操「えっ?!」

何の冗談だと聞かれる前に典黙は続けて言う


典黙「僕は無理だが新しい行軍司馬ならできますよ。」


曹操「子龍?」

曹操は趙雲の方へ見て、まさか典韋や許褚よりも強くて一人で洛陽を落とせるとか…?いやいやいや、そんな訳ないな…

などとりあえず考えてみる。


曹操「子寂、仮に子龍の強さが子盛や仲康同様でもそう上手く行かないぞ?今の洛陽では有象無象が集まってる。李傕や郭汜の反乱軍が数万、城外には白波賊、隣の河西には匈奴もいる」


典黙「だからこそです、子龍の手を借りる事が大前提です。元々青塩の取引が一段落着いてから勧誘しに行く予定だったが、自ら来てくれるとは思わなかったですよ。」


典黙の話し方から自信が満ち溢れるのを感じる。曹操にはわかっていた、自信満々の典黙はいつも喜ばせてくれる事を。


曹操「いつ実行に移るのだ?」

典黙「そうですね、半月ほどですね!」

曹操「そんなすぐか?」

典黙「善は急げ…それに準備はもう整っていますから。」


典黙との対話で曹操は思わず将来の事を妄想し始めていた。


しばらくして曹仁が小走りで来て

曹仁「主公、軍師殿、糜家の車列が城内に入りました」


典黙と曹操はお互い顔見合わせて一笑する

典黙「来たのは糜竺と麋芳のどっちだ?」


曹操は少し残念そうに頷いた、典黙の方へ見ると典黙はそんな顔をしていない。なるほど、これも予知していたのか…


曹操「子寂、どうするつもりだ?」

典黙「そうですね、もう少し考えてから!」


糜家を濮陽に釣り出したのに目的は二つある

一つは青塩の販売商道を確保すること。もう一つは劉備との繋がりをキッパリ断つこと。


一つ目は簡単にできるとしても二つ目の切り口はまだ模索の段階。


以前に曹操が言うように糜家は商人で士族と違って今までの手段がどこまで通じるかは分からない、加えて漢王朝一の富を手にしてるから一筋縄ではいなかい。


曹操「子孝、糜家の宿泊場所を陰で見張らせて、逃げられでもしたら困る。」


曹仁「ご安心を、主公の命令なく外へ出すなと既に四大門の番兵に伝言をしてあります」


何も言わない典黙を見て曹操はいやらしい顔を浮かべ

「我にいい案があるぞ!」

典黙「ほぅ〜、お聞かせ願えますか?」


曹操「糜家に末妹が居ると聞いたことがある、我が直々媒介となりその妹を娶れば自然と劉備との繋がりも断つだろう…クスッ」


典黙はあえて話を聞いて無視を選んだ、糜家の容貌も知らない以上簡単に受け入れる事もできなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る