三十話 常山趙子龍参上
男をよーく見ると典黙はハッとした、その男の目線は三人中誰でもなく照夜玉獅子に向けられていた。
???「皆様お初にお目にかかります!拙者出身常山、名は趙雲、字名を子龍。幾月前に薬草採取の際、馬を黒山賊に盗まれました!その後太行山に殴り込んだが、馬は既に濮陽へ贈られたのを知り探しに来ました!」
趙雲!趙子龍!マジかマジか!?まさか自ら来たのか!?
典黙は驚きを隠せないでいる
自分の推測が外れていた、たまたま同じ名前の馬じゃなく張燕たちが盗みそして曹操へ贈られたのは趙雲の照夜玉獅子だった。
でもまさか玉獅子のために一人で濮陽まで来るのか…すごいな!まして一人で太行山に殴り込みするか?
典黙があれこれ考えてる時に
趙雲「身だしなみから御三方は軍官とお見受けします、軍人にとって良き馬の重要性は分かりますが…玉獅子は拙者が旅立つ際に師匠から貰い受けたもの、探さねばいけない義がございます!皆様、どうか返して頂けませんか?」
趙雲は礼儀正しくお願いしたが典黙は何も聞いてなかった。正直馬はどうでもいい、それよりどうしたら趙雲を勧誘できるかをずっと考えていたから。
何も言わない典黙を見て典韋は出しゃばり始めた
「そんな事言われてもよ、本当にお前さんの馬かどうかどうやって分かるんでぇ?お前さんが呼べば馬は答えんのか?」
明らかな挑発にも趙雲は怒らなかった、逆に聞き返す
「もし僕の呼びかけに答えたら返して頂けますか?」
典韋「へぇ〜馬が喋んのか?答えたら返してやるよ!」
趙雲「よしっ!」
趙雲は小指を折り曲げ唇に当てると高い口笛を吹いた。
それに反応した玉獅子は興奮して前足を高く持ち上げて嘶く、典黙は手網のお陰で落馬しなくて済んだ。
玉獅子は趙雲の方へ走り出すと典韋は片手で手網を掴み脇を締め腰を落とした
玉獅子は何回か暴れたが抜け出せないでいた。
典韋「答えたか?」
趙雲「理が通らないなら武力で押し通すまで!失礼承知!」
趙雲は亮銀槍を一周回して典韋に向けた。呂布と渡り合えた典韋はもちろん臆せず双戟を取り出す。
典黙「ちょっと待った!!」
典黙は手を挙げ二人の間に割って入って仲裁する
「子龍さん!小生典黙、玉獅子は貴方のものだと知らずに受け取った。それならば玉獅子はお返しします!」
許褚「そりゃダメだ!爪黄飛電を俺にくれた時主公はいい顔しなかったぞ、次は何言われるか分からない。兄貴と俺がいるんだ、ビビる必要はねぇ!」
許褚は趙雲の事を知らない。玉獅子のような名馬は肝心な時に典黙を守れるのは知ってる、話し合いで簡単にあげるのに抵抗があった。
趙雲「典黙…曹公の軍師祭酒?」
典黙「子龍さん僕の名をご存知で?」
趙雲「はいっ!先生の名は雷のように轟きます!話によれば曹公は麒麟才子である先生の助けを得て劣勢から逆転し呂布軍に連戦連勝!更には今まで見た事もないカラクリを駆使して農業効率を何倍も飛躍させて民に良い暮らしを提供した!」
趙雲は槍を収めて代わりに拱手の礼をした
「そんな天下百姓を重んじる先生に失礼な事をして申し訳ございません!お許しください!」
あっれー、そんなに有名になってしまったのか…冀州にまで噂が広まってるとはな…
典黙は褒められて少し照れて後頭部を掻いた。
趙雲「先生がいらっしゃるなら、双戟を手にしてるのは典韋殿ですね!濮陽城外で呂布と渡り合ったのが有名な話ですよ!!」
「そっ…そんな事まで知ってるのか!子龍くん物知りだね!あっ有名な話だっけ?エッへへへ」典韋も褒められて自我を見失うくらい照れていた。
典黙「子龍さん!ここで立ち話もなんだし、我が家に来て!僕ら酒を煮て天下論じよう!」
趙雲の認識では典黙は天下有名な奇人その誘いを受けるのは光栄な事。
趙雲はすぐに拱手し「願っても無い話でございます!お供させていただきます!」
典韋と許褚は不思議に思ったが、典黙が見込んだ人ならと趙雲と共に城内へと向かった。
邸宅に戻ると酒宴の用意をした。
趙雲はここ数年の経歴を簡単に説明した。公孫瓚の配下にいた頃の話やその後常山に戻った時の事など。
それに比べ許褚や典韋の話を聞いて羨ましく思った、中でも典韋が濮陽で呂布との一騎打ちで一躍有名になったのが羨ましかった。武を嗜む人にとって自分の力を天下に知らしめるのは憧れの事。
典黙は機が熟したと見て盃を下ろして趙雲に
「子龍さん、宦官乱世以来黄巾軍反乱に始まり、董卓乱政に続いて今は天子が軽んじられ。朝廷に礼儀も学問も消え、この時こそ胸に大志を抱く者、腕に自信がある者、心中に学問がある者たちがその力を使う時。子龍さんはこの三つを備わりながらもこれから常山に篭って朽ちていくのを待つのはまさにさた蹉跎歳月!」
趙雲は前半の話で熱血沸騰になったが後半の話で痛いところを突かれたようにしょんぼりした。
趙雲「先生は僕を買い被りすぎます、幽州にいた頃の僕はただの百夫長で天下のために何かをなせる者ではありません」
許褚「ソイツは違う話だ!俺らも瞧郡にいた頃は黄巾軍を相手にしただけで弟と出会ってから武勲も立てられたし!」
典黙「その通り!千里を走る馬も乗る人がいなければ意味が無い様に、大志を抱く者も凡庸な主の元では意味が無い!きっと曹公の元でならその才を発揮できると僕は確信します!」
典韋「子龍くんよ!俺の弟は並な人間じゃないぜ!できるって言ったら絶対できる!残りなよ!」
なかなか明主に出会えなかった趙雲はまるでマルチ商法のような勧誘に心を奪われ、すぐに立ち上がり典黙に向かって拱手した
「先生!どうか曹公へのご推薦をお願いします!御三方と戦友になり大きい武勲を立てるよう精進します!」
典黙「アッハハ!!任せてください!今日はとりあえず飲みましょ!」
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