二十九話 弟思い

典黙の予想通り、二千斤の青塩が市場に入った事は濮陽で大騒ぎになっていた。価格も本来の五分の一の二百銭で売られていた。


二百銭も決して安くは無いが少し余裕のある家庭も手が届く値段

二千斤の青塩はわずか半日で売り切れていた。


すぐ

濮陽に青塩が二百銭で売られている、この噂が瞬く間に兗州全土に広まった

その噂と共に、濮陽には毒塩山から青塩を作り出せる奇人が居る事も伝わって行った


曹操は喜んでいた。

噂話に加え遣いを出した事で麋家が食いつくのは時間の問題


皆が喜んでる中一人だけは悔しそうにしていた、曹洪である

今頃彼は部屋の中では悔しがっていた

「毒塩を青塩に変えるなど聞いたことも無いよ!一体どんな妖術を駆使したんだ…」


相手が典黙じゃなければ曹洪は力ずくでも奪い取っていたかもしれない。典黙の軍師祭酒の肩書きは抜きにしても、その兄典韋は敵に回すとどうなるかぐらいは簡単に予想できる。


数日後

穎川方面の報告を受けて城内にいる文官武将たちを連れて南門で曹仁たちの凱旋を待ち受けていた。


南門は綺麗に清掃されて儀仗隊も用意されていた。

曹仁たちの大部隊は時間通りに現れ、長い列はまるで大蛇のように蠢いてる。


南門に着くと皆馬から降りて

曹仁、典韋、許褚ら三人が先頭になって拱手の礼と共に挨拶をした

「主公、ただいま帰りました!」


曹操「諸君、ご苦労であった!!宴会を設けている、今日は酔うまで帰るでないぞ!」


「ありがとうございます!」


曹操の話で場が湧いた、つまらない軍営生活で数少ない娯楽である宴会はとても人気があった


「弟よ、濮陽で困ったこと無かったか?」

曹操と挨拶を交わすと典韋はすぐ列からはみ出して典黙の近くまで駆けつけた、これには規律にうるさい曹操は見て見ぬふりしていた。


典黙「僕なら元気にやってますよ、兄さんお疲れ様」


典韋「疲れてなんかない、穎川では黄巾軍の残党狩りして気持ち良かったぜ!」


弟との再会で典韋は嬉しそうにしていた。一ヶ月ぶりのせいか典韋が典黙の手を掴んだまま離そうとしない。


楽進「確かに!武勲を挙げる子盛殿に比べ濮陽に残る我々の方が大変ですよ、窮屈だし…なんってねアッハハ…」


何気ない冗談の一言が典韋を固まらせた、典韋は典黙の手を離して楽進の前まで詰めて無表情で

「窮屈か?なら俺とやり合おうぜ!」

楽進「ごっご冗談を…俺では相手にもならないのに…」


典韋「そうか、ならあと三人付けてやろ!夏侯将軍、于将軍、李将軍も入れようじゃないか!」


呼ばれた夏侯惇、于禁、李典ら三人も楽進とお互い顔を見合わせて何も言えない、ただ典韋に媚びた笑顔を向けいた。


典韋「なんだ?照れてんのか?あ?俺の弟に手を出した時は威勢が良かったそうじゃん?」


典黙は典韋背後の許褚を一目見て、あの日の出来事を報告されたのがすぐわかった。


典韋は元々気性荒く加えて度が過ぎるくらいの弟思いで

許褚から事件の話を聞いた時から穎川に行くよりも四人を締め上げる事だけを考えていた


夏侯惇「子盛よ、誤解です!しかも軍師殿には既に謝罪をしました」


四人は助けを求めるべく曹操の方へ見ると曹操も空気を読んで近づい来て典韋の肩をポンと手を乗せて

「もう勘弁しておやり、子寂へは謝罪をさせたしこれ以上詰めても何もならない。」

言い終わると典黙へ目をやり助けを求めた。


典黙もすぐに理解して典韋を止める側へ回る

「兄さん、今日は良き日だからあまり主公を困らせないで。この後彼らを酔い潰してそれでいいでしょ?」


典韋「ふん!今日は主公と弟のメンツを立てて許してやるがもし同じような事があれば俺の双戟は許さねぇからな!」


その後は何事も無かったように城内へと向かった


残された四人はその後ろ姿を見て、典家の者は敵に回していけないと再度認識した。


この日の夜は盛大な宴会が行われた、曹操も肉や酒に糸目を付けずに振舞った


次の日の午後典黙は照夜玉獅子に乗って塩山の工房へ向おうとした、すると典韋に止められて

「なぁ、主公から聞いたよ!何か計画があるんだってな、それに俺と仲康が必要だって。早く教えてよ…」


許褚「そうだそうだ!黄巾軍の残党じゃ相手にもならないから速く暴れたいぜ!」


曹操の目論みはすぐにわかった、典韋と許褚を焚き付けるのは一刻も早く徐州を速く手に入れたいから。

「まぁでも二人は戻って来たし丁度いいタイミングだ!」と呟く典黙


典韋「たいみん?お前って時々よく分からない事言い出すのな…」


典黙「計画はこうだ、まずは…」

???「いたいた!やっと見つけた!」


声の方へ見るとそこに居たのは赤い馬に乗っている眉目秀麗な三十歳前後の男、容姿端麗だが眼光炯炯な両目をしている。只者じゃない雰囲気が典黙に伝わった。


その男は嬉しそうに、両目から再開の喜びが溢れ出す。興奮からかその体も少し震えてるように見えた。


典韋「知り合いか?」

典黙は首を傾げてその後じっくり見たが首を横に振り

「兄さんか仲康の知り合いじゃないのか?」


三人ポカンとした状態で謎の男を見ていた


典黙「あの…僕らに言ってるんですか?」

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