二十八話 一石二鳥

そこに曹操は尋ねてきた


典黙「主公、どうしましたか?何か悩み事でもありますか?」


典黙はお茶を淹れると曹操を見て、曹操はまた眉間に皺を寄せていた、明らかに困り事がある風だった。


曹操はお茶を一口飲み深くため息をつく

「ハァ…徐州…」

典黙「徐州…劉備ですね?」

曹操「アイツめ…兵糧三万石カツアゲしてやったから短期間の間大人しくしてると思ったのにまさか新兵一万を募って幽州から馬三千匹購入していた!」


曹操はもう一度お茶を口にしてから

「アイツは今陳登、陳圭親子の支持を得ている、加えて徐州は元々豊かな土地。にしてもこんなに速く軍拡してしまうとは…アイツの人身掌握術を舐めていたわ…更に悪い知らせがある、劉備は今麋家と仲良くしようとしている!麋家は漢王朝一の財力を誇る、ヤツが取り込めば瞬く間に勢力拡大するだろう!」


典黙は麋家が裕福と知っていたが漢王朝一だと知らなかった。


歴史上劉備は麋家の兄弟は劉備に洗脳されて財力全てを投入した挙句妹の麋芳まで政略結婚で持って行かれた。


曹操「劉備以外に呂布もいる、彼奴は今小沛に置かれて着々と力を蓄えている。ヤツらが手を組んで兗州に攻めてくるのはもはや時間の問題!」


曹操は拳を固く握りしめ、眼差しから殺意が溢れ出した。


曹操がこの話を切り出した理由はわかっていた、徐州を攻め落としたい気持ちでいるから。


前回の徐州侵攻はあと一歩で陶謙を追い詰める所に呂布が背後を奇襲して危うく兗州を失いかけた。


徐州は中原一栄えてる州、中原で何かをするには必ず手中に収める必要はあった。


典黙「主公のお気持ちは察しますが、今はまだ徐州を攻める時ではありません。」


曹操「それはまたどうして?」


典黙「理由は大きく三つあります」

その後曹操にその理由を述べた。


一つ、今我が軍はまだ発展途中、兵糧も機材も揃っていない。この状態で攻めれば自軍も大きい損傷を被る。


二つ、全軍で出撃として、背後から冀州の袁紹、荊州の劉表、南陽の袁術。これらが第二の呂布みたいに攻めてくるかもしれない。


三つ、今はまだ徐州を攻める大義名分が無く、劉備から兵糧三万石受け取ったのに兵を差し向けると不義理になってしまう。


一大梟雄の曹操もここまで言われれば内心納得して仕方なく頷いた。


典黙は曹操のお茶を継ぎ足して

「主公は僕を信じてくれますか?」


曹操「無論だ!」


典黙「ならもう暫く辛抱してください、徐州については既に手を打ってあります。」


典黙は曹操の目をじっと見て

「もう暫くして機が熟すれば主公に大義名分を持たせます!それも説得力がある物で、止めようとするヤツさえも死地に追い込める物です!」


曹操は話を聞いて目に光を宿した、色々起きてから典黙の話は全て無条件に信じる事にした。

「我が父親の仇よりも説得力がある大義名分か?少しでも教えてくれないか?」


典黙「暫く辛抱してください!僕が主公を失望させた事はありましたか?」


こうなると典黙からそれ以上何かを聞き出すのは無理だとわかっていた曹操は大人しく待つ事にした。自信満々の典黙は確かに今まで自分を失望させるとこがなかったから。


典黙「まぁ主公の言ったことも一理あります!呂布は小沛で力を貯めた所で上限はある、劉備は気をつけないと…麋家を取り込んだら大変な事になってしまいますね…」


典黙は軽く湯呑みを回してふっと笑った、何かを考えついた顔だった。


曹操「良策を思いついたのか?話してご覧!」


典黙「うーん、良策と言うか…まぁそんな所ですかね…これには麋家の当主に一度来て頂かないとですね…」


曹操は典黙を見て仕方ない風に首を振り

「子寂は知らないかもしれんが、麋家は士族ではなく商人の一家。士族なら官職で釣ることもできたが…商人は…」


典黙「商人は利益!でしょ?」

言い終わると机に小包をポンっと投げた。


好奇心に駆られた曹操は開けてみると白い粉が入ってた。


曹操「青塩…なのか?」

指で塩を少量口に運び不思議そうに

「どこでこんな上等な青塩を手に入れたんだ?」


典黙「曹洪が僕に城外西にある毒塩山を明け渡したのは知ってますか?」


曹操「あぁ、大富豪とか言う変わった賭博の負債だと聞いたな。」


典黙「小生不才、とある一法を習得しております。その法とは毒塩を青塩に変えることです。主公が今手にしてる青塩、すなわちその方法で毒塩山から作った物です。」


曹操は息を止め、典黙を見る目はまるで仙人を見る目になっていた


毒塩山から青塩を作るなど、他の人が言えばただの冗談だと一笑したが典黙が言えば信じられる。


曹操「子寂!キミは本当は下界に降りた仙人では無いのか?キミが他の配下じゃなくて良かったよ!」


曹操はすぐに張角を思い出した、かつての張角はお椀いっぱいの水と呪符一枚で百万超えの黄巾軍を集めた。もし典黙もその気なら張角の何倍も上を行くだろう。


典黙「主公言い過ぎですよ、主公が来るまで僕も悩んでいました。どうしたら他の州へ売れるか…をね。主公が麋家の事を言い出したから僕も閃きました。麋家に青塩の商売を持ち掛ければ誘い出すのは簡単な事!」


曹操「良い手だ!北部の甄家の事もある、麋家はこの青塩の商売に必ず食いつく!食いついた所で劉備への援助を辞めさせれば上出来!」


興奮気味な曹操は左掌に右拳を当てて

「すぐ遣いを出そう!……あと騒ぎを起こす必要があるな…」


典黙「騒ぎですね!今二千斤の青塩がありますそれらを全て市場に投入しましょう!そうすれば大騒ぎになる事間違えありません!」


曹操「すぐに取り掛かろう!」

言い終わると曹操は早歩きで出口に向かった、出ていく前に振り返り

「徐州の事もくれぐれもよろしくお願いします」


典黙「ご安心ください、兄さんと仲康が戻り次第始めていきます!」

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