二十六話 神器完成

次の日典黙は朝一に東門に着いた。

そこには既に曹操が人をたくさん集めていた


「おはようございます!軍師殿!」

全員が口を揃えて挨拶を見て、あっ調教されたんだなぐらいしか思わなかった。


典黙も拱手を返すと特に無駄口も無く指パッチンを鳴らして

「皆さん僕について来てください、お見せしたいものは城外に用意してあります!」


道中曹洪たちは同じような質問を繰り返し聞く、一体どんな用事があるのか気になってしょうがないみたい。


典黙はただ単に「着いたら分かりますよ」とはぐらかす。


曹仁は早歩きで典黙の隣を歩き

「軍師殿、昨日はゆっくり休めましたか?」


典黙「もう、着いたら分かりますって。そんなに急ぐ必要も無いでしょ?」


曹仁「違いますよ、実はお願いがありまして…」

典黙はじっと曹仁を見て、どんな願いだろうと不思議に思ったが

「何でしょ?」


曹仁「あの…ほらっ汝南を平定した後は穎川を取るのかと思って…今の穎川は据え膳の様な物、この武勲をあげたいな…なんて…」


典黙「そんな事主公に話すべきじゃないのか?」


曹仁「先程軍師殿が来る前に主公から全員に話があって、これからの軍事行動は全て軍師と打ち合わせをしてから決めるとの事。」


ほへぇ…そこまで僕の顔を立ててくれるなんて…と思った典黙は小声で曹仁に

「穎川に居る黄巾軍はたかが三五千、今までは劉辟の傘下で生き延びていたが劉辟も亡き今ただの烏合の衆。元々兄さんと仲康にこの武勲を挙げさせようと思ったが…子孝も一緒に行きたい?なら主公に僕が話しておくよ。」


曹仁「さすがは軍師殿!ありがとうございます!ありがとうございます!」


少し歩いた後全員が目的地に着いた。

そこには高さ二丈ほどの水車が川沿いに設置されていた、水車の水が水路を通り周りの畑を灌漑していた。


「子寂!これは一体!!」

驚いた曹操は目を見開き質問を投げた


典黙「主公、これは軍費で作った水車です。これ一つで周り数百坪の畑を自動で灌漑できます!」


典黙が説明を始めようとしたが、皆は既に前へ出て興味津々に観察し始めた。


「数百坪?水やりに二三百人は必要だぞ?」


「見てみて!川の水がこうやって勝手に流れて行くぞ!」


「軍師殿すごいな!策略だけでなくこのようなカラクリにも精通しているとは…」


「だから主公はいつも陰で麒麟才子って言ってるだろ…」


隣にいる曹操に至っては口を開けたまま固まり何も言えずに居た。


そんな曹操も脳内だけはものすごいスピードで回転していた、一台の水車で二三百人の灌漑をこなすならその人員を全部開墾に回せば効率は倍!!!

抜け目のない曹操は既に次の一手を計算していた。


驚く全員を眺め典黙はニヤリと笑う

「水車一台で驚き過ぎじゃありませんか?こちらもご覧下さい!」


典黙の指さす方を見ると畑の中に何人かの兵士と牛三頭がいた。

何が起きるの?皆が戸惑う中畑に居る兵士たちは畑を耕し始めた


左の畑は兵士三名と牛二頭でこの時代の直辕犂を使っている。

右の畑には兵士一名と牛一頭で典黙が作った曲辕犂を使っている。


曲辕犂は直辕犂に比べ牛一頭人と員一人を省くと同時に速度も上がり、回転半径も半分以上小さく小回りが利くようになる。


同時に始まり同時に終わった実験で耕せた広さに差が出た、その差はなんと三倍!


曹操はゴクリと唾を飲み込み近くまで行き深さを確かめると

「妖術…まるで妖術だ!深さ一尺以上はあるぞ!!」と感嘆する。


程昱「ホントですか?速さが三倍以上で深さも一尺以上あるなんて…」

農業に詳しい程昱も同じように確かめに向かう


数字に詳しい荀彧はすぐに暗算を始めた、三人家族で牛二頭なら今までよりも作業効率は六倍に跳ね上がる、水車と組み合わせると…どっどこまで上がるだろ…

さすがの荀彧も想像つかなくなる。


この場に居る全員の共通認識は一点だけ、それは兗州はこれから変わる、それも少しだけではなく、天と地の差!

そして平民たちの生活が変わるという事は税収もかなり期待出来る。


「子寂、感謝するぞ!兗州の百姓に代わって感謝する!そして遠くない将来、天下の百姓に代わって感謝する!」

曹操は未来への期待を膨らむ、餓死する民が居なくなる事を、食料が無くお互い子供を交換して食べる民が無くなる事を。


李典と于禁は典黙の前で跪き

「軍師殿!この前の事は申し訳ございませんでした!!」


楽進も走って来て土下座する勢いで地に伏した

「軍師殿は天下百姓のために、大義のためにこれらの器具を作ったと言うのに!俺らは自分の事しか考えていなかった!」


典黙は三人を起こして、やめてよ!恥ずかしいな!と思いながらも「これからお願いする事も多々ありますゆえ、ご助力お願いします!」


三人「軍師殿のご命令とあらば!」

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