二十五話 エコヒイキ

典黙「大した事じゃありませんよ、仲康から典字営に残りたいと相談を受けていたので、どうかその許しを得たいと思います。」


許褚「お願いします!」

急いで拱手をする許褚


曹操はすぐには口を開かなかった、お茶を一口飲み何かを少し考えてからゆっくり言う

「汝南を占領できたのは仲康の奮闘した結果、褒美が必要だ。即日から校尉の官職に任命する」

曹操はそう言ってから軽くため息をついて続けて言う

「元々仲康にも自分の部隊を作ってもらおうと思ったが、まぁ良い。ひとまずは典字営に残り子盛と行動を共にしなさい。」


「えへへっ、ありがとうございます、ありがとうございました!」

許褚は嬉しく思わず立ち上がってしまった、予想した騎都尉よりも上の職が貰えて喜びを素直に現にした。


子供の様に喜ぶ許褚を曹操もはしゃぎたい!と思ったが我慢した、急に増えた汝南の領土と奇策妙計を出す典黙、勇猛果敢な典韋、許褚。覇業に向けて更に一歩近づいたのを確信した。


その後許褚に邸宅を与えた曹操は典黙を連れて外へ出た


典黙「主公、どこへ連れて行くのですか?」


曹操は少し不満気味で

「爪黄飛電は我の名馬、妙才達が何度強請ってきても断ったのに、キミはすぐに人にあげると思わなかったわい」


典黙は少し肩を落とした、確かに貰った物をすぐ人にあげるの良くないと自覚した。


曹操「先日太行山の張燕が良い馬を送って来た、我が見てもあれは良い馬だと思ってな」

一瞬立ち止まって典黙をじっと見て

「もう勝手に人にあげるのはなしじゃぞ?この乱世でキミみたいなもやしっ子が良い馬で身を守れないのは不安じゃ」


ここまでされて典黙もその気持ちを察し頷いた


典黙「主公は太行山の張燕と面識があるんですか?」


太行山の一帯には山賊が数多く居る、その数はなんと十万。それを束ねる張燕は黒山軍と自称したがその中身は張角らと旗揚げした黄巾軍。

張角の死後太行山を占領し黒山軍に改名しただけ。


曹操「兗州を治めたあと人を遣わせ、連絡を取り合った。烏合の衆とはいえ肝心な時に使えるかもしれんからのう…」


典黙「肝心な時ね、北の袁紹を警戒しての事ですね!」


曹操「子寂に隠し事は出来んな…打てる手は打つべき……」


この一手は確かに素晴らしい。

三国志とは別の正史でも公孫瓚は袁紹にボッコボコに叩かれてから息子の公孫続に黒山軍の援軍を頼んだ、が運悪く救援の手紙が袁紹に捕まり届くことも無かった。

もし十万の黒山軍が横槍を入れたら勝敗の行く末は未知数になっていた。


二人は軍営に着いて厩舎に行くとそこには全身真っ白で陶磁器の様に輝く白馬がいた


曹操「張燕曰く、名を照夜玉獅子と言う、気性は荒いが脚力俊敏。子孝が試し乗りした所爪黄飛電にも負けを取らない程の上品」


通体白光の照夜玉獅子を見て典黙は眉間に皺を寄せて、照夜玉獅子…これ趙雲の馬じゃねぇ?

名前が一緒なだけなのかな?ありえない話でもない…


典黙は趙雲も勧誘するつもりでいたがこの時期趙雲は常山に居ると思い出していた。

常山は冀州の更に北部で距離が遠い上趙雲も何気に劉備の仲良くしていたからなかなか勧誘に踏み出せないでいた。


典黙「ありがとうございます!主公は兄さんの様に良くして頂いて、この御恩は忘れません」


曹操「大事にしてあげてね、爪黄飛電の様にすぐ人にあげたりしないでね…」


典黙「でも爪黄飛電で仲康を手に入れられて安いものでしょ?」


曹操「ええい、子寂は猛将を勧誘したのは嬉しいが我の中ではキミの安全が一番気がかりだ!覚えておいて……」


典黙「分かりました!今回は誰が奪おうと簡単に渡したりしません!」


典黙は照夜玉獅子の手網を引き飛び乗って疾風迅雷の様に周りを駆ける、確かに爪黄飛電や絶影の様な速度を体感した。


「そうだ!主公、明日文若と仲徳を連れて城外に来てください!」

典黙帰り際に照夜玉獅子の手網を引き歩きながら言った。


曹操「何か話でもあるのか?」

典黙「すっごく重要なことです、汝南を手に入れたよりも重要な事です!」


その話に曹操はもちろん興味を示す

「また何かの贈り物かい?」


典黙はその問いに正面から答えずに

「明日の楽しみにしててください!主公が驚いてる姿を見るの結構好きですから!」


曹操「良かろう!驚かせてくれる事を楽しみにしておこう!」


街角でお互い別れを告げて典黙は一度考軍処へ向かった、考軍処の受注を変えたのはもちろん横領のためでは無い。


典黙が考軍処に着くと欧鉄がすっ飛んで来て泣きつく

「考軍殿!やっと帰って来ましたか!この半月大変でしたよ……主公の命令と聞いて言われた通りに器具を作ったら危うく斬首される所でしたよ……」


典黙は特に何も言わずに出来上がった器具を手に取りじっくり見て、図面と変わり無い事を確認して一安心した。

その後欧鉄の肩をポンポンっと叩いて

「これらを持って今すぐ城外へ行こ!使い道を教えてあげるよ!」


すぐ考軍処の手下たちも動員されて器具を運ぶ事になった。


典黙「安心しろよ欧鉄、あと一日だ、明日になってこの器具の用途を知れば皆が褒めてくれるよ!何なら主公から褒賞が出るかもね!」


欧鉄「それならいいんですけど、褒賞も要らないので、あの武将連中が来なければそれだけでいいです!!」


一度典黙に騙された欧鉄はすぐに信じる事をしなかった。

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