二十四話 軍師祭酒

「主公!」

曹操が来たのを見て楽進と李典も起き上がって拱手した

夏侯惇は曹操の所へ走って典黙を指差して


「大兄様!!アイツ……」

曹操「黙れ!」


曹操は夏侯惇を横目で一睨みしてから典黙の所へ行き服に付いてる土埃を優しく払ってあげてから

「怪我はしてないか?」と聞いた


典黙「ご安心ください、仲康が守ってくれたので無事です。」


それを聞いてから曹操は安心して頷き

「子寂、今日の様な出来事は二度と起きないと約束しよう!」

その後許褚の方に向かって

「許褚、許仲康だな」


自分の事を知ってると思わず一瞬キョトンっとした許褚はすぐ拱手し

「許褚です、お会い出来て光栄です!」


曹操は何も言わずにただ許褚を中心にぐるっと一週周り最後その足に目を止まった許褚の靴紐が解けていたから

そして曹操はしゃがみこんでその解けた靴紐を結び直した。


再び立ち上がった曹操は大きい声で

「二つほど言いたいことがある!その一、考軍処の注文変更は我の了承済みだ、二度と言わせるな!その二、今日この時から彼!典黙、典子寂には我が軍の軍師祭酒になって頂く!」


場の全員が凍りついた。


軍師とは軍全体の謀士の長官。

祭酒は官職ではないが複数の軍師が居る場合そのまとめ役で兵を動かす権限さえ与えられる。


諸葛亮が劉備に軍令を出す様に、典黙もまた状況によっては曹操に命令を出すことも許されるという事。


そして曹操は四人に向かい手招きをして呼び寄せた

曹操「二ヶ月前の例の手紙覚えてるか?」

四人は混乱しながらも頷いた


曹操は手を典黙の肩にポンと乗せ

「彼が書いたもの。」


四人は息を大きく吸い目を見開き未だに信じられない気持ちでいっぱいになってる

がすぐに釈然とした、七光りで爪黄飛電をあげるほど曹操は考え無しじゃないから。


曹操「どういう対応をすべきか、教えるまでもなかろう?」


李典、楽進、于禁の三人は直ちに片膝を着き拱手し

「粗暴な態度をお許しください!軍師殿!」

三人の肩書きは校尉で夏侯惇は将軍、自尊心からか夏侯惇はただ拱手だけで済ませようとした


曹操は鷹のような鋭い眼光で夏侯惇を睨みつけると夏侯惇も空気を読んで渋々片膝を着いた。


典黙「はーい起きなさい、知らなかったからねしょうがないよね!」


曹操がここまでしてくれたんだ、これ以上追求したら器が小さく見えてしまうと思った典黙は続いて言う

「主公、考軍処で作った器具についてだが…」


曹操「ええい、たかが十二万銭。子寂が欲しければくれてやる!次金が必要なら直接申せ!」


正直典黙はすごく感動した、十二万銭は他の諸侯にとっては大した額では無いが税収が少ない今の曹操にとっては大金であるから。

「まぁでも僕の計画と器具さえあれば、主公はすぐ回収出来るから…」


典黙の呟きを聞きそびれた曹操は典黙の手を引っ張り

「さぁ!ここ数日の出来事を聞かせておくれよ!典字営はどこだ?あと仲康の様な猛将はどこで見つけたんだ?」


先までの戦いは曹操も城壁で見ていた、見て震撼させられていた、このような武将は喉から手が出るほど欲しいと思っていた。


将軍邸に戻り二人はお茶をしながら典黙はここ数日の出来事を報告していた


曹操は開いた口が塞がらない、笑ってるような笑ってないような変な顔をしていた

「典字営で汝南県を占領した…?ありえない…ありえない…!劉辟軍勢はは五万と謳ってるぞ?カサマシはもちろんあるだろうがそれでも戦力は一万近く居るはず……」


曹操が言い終わるのを待たずに典黙は汝南県の大印を取り出して机に置いた。


曹操は大印を手に取り本物である事を確認した


許褚「曹公、弟は本当に凄かったです!彼の策があってできたことです!」


許褚はもはや典黙の事を実の弟の様に思えた


曹操「仲康、早う教えてくれ。出来れば詳しく頼む」


許褚は更に事の顛末を細かく曹操に伝えた


物語でも聞くように真剣に聞いて、いつの間にか汝南県が本当に自分の支配下に入ったのを理解した曹操は嬉しくて典黙を抱き上げてぐるっと一週回った。


もはや顔つきが親戚のおじさんの様になった曹操

「子寂よ子寂!キミは帰省ついでに汝南を占領しちゃうのか!? ガハハハハ…あとで子孝に兵を率いさせて汝南の守備を固めさせておく、さすれば穎川一帯の黄巾軍も逃げていくだろう!そうなれば……」


さすがは曹操抜け目のない。


穎川とは漢王朝で一番学問を重んじる場所、志士仁人が集まり互いに切磋琢磨し更なる高みへ進む登竜門でもある。有名な士族なら荀家、鐘家、陳家などが挙げられる。


変な話穎川さえ手に入れば豫州全域の士族の支持を得たのも同然、今後曹操たちの発展に対する助力は計り知れない。


ここ数年曹操も穎川をずっと手に入れたいと思っていたが、汝南と穎川の黄巾軍がお互い掎角の勢いを成しどっちかを先に攻めることも出来なかった。


典黙「主公、先に下ろしてくださいよ…」


下ろしてもらった典黙は冷静に状況を分析する

「汝南県は兄さんが守っているから問題ありませんが、他の県城は未だ混乱状態で早めに誰かに行かせて治安を管理してもらいましょう!」


曹操「ふむ、善は急げ。明日の最重要事項にしよう!」


今は功労者を労うことが最重要事項


曹操「なるほどな…!二つの贈り物とは…汝南と仲康とはな…」


典黙「喜んでもらえて何よりです!」


喜んでる曹操を見て許褚は典黙に目で何かを謳え掛けていた


曹操「言いたい事有るなら遠慮せずに申せ、我の器はそれ程小さくはないぞ。」

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