二十三話 一VS四
典黙の警告に対して楽進は従うつもりも無く大きい歩幅で距離を詰めて行き、手が典黙届きそうになった時火雲刀が楽進の首に掛けられていた。
許褚は冷たく「どけ!」
楽進は耳に手を当て「何?!」
許褚「弟くんよ、少し離れていろ…」
言い終わった許褚は爪黄飛電から飛び降りて楽進の耳元で丹田いっぱい力を貯めた声で叫んだ
「どけって言ってんだよ!!!」
まるで猛獣の咆哮かのような怒号を浴びせられた楽進は思わず何歩か後ろに後ずさりした。
楽進「俺が誰だか知ってるのか!?」
許褚「自分が誰だか知らないなら母親にでも聞いて来いよ、俺が知った事かっ。」
恥をかいた楽進はすぐさま断魂槍を背中から飛ばし許褚に目掛けて突き出した。
許褚「やる気か?やってみろよ!」
正面から突き出された断魂槍を簡単にあしらうと両手で火雲刀を頭上から振りかぶり切り下げた。
楽進も断魂槍を横に持ち上げガードしたが腕力の差もこの一撃で理解した。
なら速度で勝負だと思った楽進は槍先をブレさせて突きを連続で繰り出した
許褚も鈍そうに見せかけてなかなかの速度で楽進の槍先を全数撃ち落とし少しづつ楽進に近づいて行く。
楽進の呼吸を読み取り隙を探っていた、そしてついに許褚が隙を見つけそれを見逃さなかった
許褚が大きく前へ踏み込み右手の火雲刀で突きをいなして左手で楽進の腰帯を鷲掴みして
そのまま楽進ごと引っ張り回して夏侯惇たちの前に投げ飛ばした
起き上がる楽進は不服そうで許褚に立ち向かうが夏侯惇がそれを止めた
「この御仁!俺は破虜将軍夏侯惇、戦いは望んでない、典黙に事情を説明して欲しいだけだ」
許褚は相手にもしたくない風に火雲刀を拭き
「弟くんに用があるならまず俺を倒してから行けよ」
夏侯惇もイラッとして
「ホントに退かないつもりだな…」
四人は顔を見合わせてから一斉に飛びかかり許褚を包囲した
許褚「曹公の配下には猛将が集まると聞いてた!四人まとめてかかって来い!」
囲まれた許褚も少し興奮気味になっていた
夏侯惇と夏侯淵の武器は同じ隕鉄で作られた青梅槍で許褚目掛けて突き出すと
許褚は難なく槍擊を避けた、次に于禁の虎頭刀が横薙ぎが見えて自分も火雲刀で受け止めた
二本の大刀がぶつかり火花を散らせ、李典の虎憤戟と楽進の断魂槍が後ろから突いてきた。
ガードが間に合わない許褚は身を低く躱しと同時に背後に水平切りする
楽進と李典もまた大きく後ろへ飛び避ける
四人の内一対一なら許褚に勝てる者はいないがまとめて戦えるほど甘い相手でもない
すぐ劣勢になった許褚を止めるべく典黙が前へ出ようとしたが
許褚は顔を真っ赤にして
「遊びはこれまでだ!本気で行かせてもらう」
言い終わると許褚は高く飛び上がり李典に斬りかかった、典韋との戦いで見せた許褚の必殺技みたいな物だった。
李典も両手で虎憤戟を振り回し真っ向からぶつかった、が許褚の全力の一撃を受け止めきれず後ずさりした。衝撃で両手が痺れて感覚が完全に無くなった。
李典「腕は…まだあるか……」
一撃で戦意喪失した李典を見て残りの三人がまだ反応できる前に許褚は再び大きく横薙ぎを繰り出す
于禁がいち早く我に返って大刀で縦に防ぐと強い衝撃で刀身がキーンと鳴り響く、後に続いた振動が大刀から握る手に伝わり危うく手を離しそうになった。
振動から来る痺れと共に帰りたいという気持ちも全身を駆け巡った。
楽進は次にやられないように先に手を打つことにした、力を腰に貯めて右手に全体重を載せて槍を許褚の顔目掛けて全力で突き出す。
太刀筋を見きった許褚は再び前に踏み込み槍を躱し先と同様に楽進の帯を掴み同じように李典に向けて投げ飛ばした。
産まれたての子鹿の様に立ち上がろうとした李典は楽進にぶつかり合い再び地に伏せた
四人の中一番武力が強いのは夏侯惇だが猛獣の様な許褚に敵わない事を理解したか背後の城壁で観戦してる兵に命令をする。
「弓弩手!用意!」
城壁に居る弓兵も言われてから慌てて弓を準備して許褚を狙う。
破虜将軍である夏侯惇の命令があればいつでも撃てる用意をして待機していた。
許褚はそれでも手を止める気配を見せずに夏侯惇を睨みつける。
夏侯惇は右手をゆっくりと頭上に挙げた
もしその手が振り降ろされればどうなるか想像するのは簡単な事だった。
典黙は迷わず許褚の前に出て大声で叫ぶ
「よく聞け!この典黙!背後に居る許褚を何が起きても守り通すと誓う!撃つのならまず僕を撃て!」
自分より三回り小さい典黙が庇いに来るのを見て、許褚も内心すごく感動した。
もしこの場面を乗り切ることが出来れば典黙を実の弟の様に接すると内心で誓った
夏侯惇が手を振り下ろそうとした時
「辞めんか!!!」
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