二十一話 典黙の危機
曹操「ガハハハハ!劉備め良くわかってるでは無いか!こんなにも早く兵糧を届けてくれるとは!」
濮陽では兵糧の運搬車輌を見て曹操は喜んでいる。劉備から送られた兵糧は三万石、曹操からしたら正しく渡りに船。
曹洪「大兄様、これでまた募兵ができますね!少なくとも五千の兵は増やせますよ!」
今年は兗州が不作で税収も問題になっていた、戦争で兵士も消耗していた、これらの事で困っている所で一気に解決できそうで誰もが喜こぶ
曹仁「全ては先生のおかげですね!あの一通の手紙でこれだけの兵糧を奪い取るとは…千載一遇の才!!」
泰山郡から兵糧運搬の任務を終えた曹仁、金の装飾品を巻き上げられたがそれでも典黙の忠実なファンだった
曹操「しかり!あの子寂だ!予感がする、我らに更なる驚きや喜びをもたらす事を!」
曹操は得意げに髭を弄りながら言った。
「子寂を呼び参れ、労ってあげねば!」
曹洪「大兄様、お忘れですか?先生は今亡き父の墓参りで実家へ帰ってますよ。」
曹操「そうであったか、忘れておったわ。早く帰って来るといいな…元気にしてるかな」
その後何かを思い出したかのようにハッとなり
「半月以上経っている!濮陽から陳留の南端までせいぜい二百里、何か不測の事態に遭遇したか!?」
曹仁「大兄様心配しすぎでは?陳留一帯は治安がいい上典韋殿が付いてますよ何も問題ありませんって」
少し安心した曹操「ふむ…斥候を出して情報を集めよう」
曹仁「はいっ」
兵糧の運搬が終わると三人は城内へと戻ろうとした
この時に于禁、楽進、李典、夏侯惇らが急いで走って来た、後ろに荀彧と程昱も着いて来ている。
夏侯惇「主公!大変だ!大変な事が起きました!」
曹操「何だ?!将たるものいつ何時でも冷静を欠かすなと言ったであろう!」
怒られて静まり返る武将たちの後ろから荀彧が前へ出て来て「主公!考軍処へ行って武器の制作を変更したのは主公ですか?」
曹操も何かが起きていると薄々気づき始めた「そんな事していないがそれがどうした?」
曹操の返答に全員が唖然した
于禁「本日考軍処に物資を取りに行ったら朴刀の一本、鎧の一着も作られていないだそうです…」
曹操「なに!?考軍処に十二万銭を確か追加したはず、欧鉄に持ち逃げする度胸があると思えないがな。」
楽進「欧鉄は訳の分からない器具を何万も作った上、主公の命令だと言い張りました」
曹操は額の血管が浮き出るほど力いっぱいに叫んだ
「そんな訳あるか!そんな命令した覚えはないぞ!直ちに欧鉄を極刑にしろう!」
武器が謎の器具になったのを聞いて冷静で居れなくなった曹操はもはや眼光で人を殺しそうになった
荀彧「主公、欧鉄に問いただした所どうも典黙に言われたからそうしたらしいです。主公の命令と言ったのも彼だそうです。」
荀彧の言う事に全員が沸騰した
「典黙?ソイツに責任を取らせるべきだ!」
「ヤツは今どこだ!?軍費の横領は死罪に値する!」
「典韋の弟だからってやっていい事と悪い事がある!糾弾すべきだ!」
全員の矛先が典黙に向けられた。
頭痛を感じた曹操はこめかみを揉みほぐし俯いて、典黙をどう庇うかだけを考えていた。
無理やり場を収めることもできるがそれでは軍規法令を無視する事になる。
少ししてから曹操は高らかに笑った。
これには皆も理解出来ずに無言でお互いの顔を見合わせた
程昱「主公なにゆえ急に笑うのですか?」
曹操「いやいや、最近頭痛が酷くて物忘れも激しくなったわ!確かに子寂にそう命じた、今思い出したよ!」
程昱「ではなぜ武器ではなくあれらの器具をお作りになられたのですか?」
曹操「ええい!時が来ればわかる事だ、無駄な詮索はよせ!」
など強かっていたが内心では「俺に聞くな!そんな事知るか!」と思っていた。
夏侯惇「では募兵の事はどうすればいいのですか?」
曹操「武器の事は何とかなる!もうこれ以上この話をするでない!」
嘘だ、典黙を庇おうとしてる、でもこれ以上聞いても怒られそうだからやめとこ…
皆が内心でそう思い、無理に笑顔を作りこれ以上何も聞こうとしなくなった。
全員が帰ったのを見計らって気の抜けた風船みたいにしょぼんっとした曹操が曹仁に聞いた
「子孝よ、先生は何をしようとしただろうか…」
曹仁「大兄様ホントに知らなかったのですか、先ほどは騙されましたよ!でも先生がそうしたからには何かの理由はあると思います。軍資金を横領する様な人とどうしてもは思えません!」
曹操「その通りだ、先生は我々曹家の恩人だ仮に何かをやらかしてもその責任を背負うつもりでいる!」
深く溜息をつき曹操と曹仁は典黙の帰りをおとなしく待つ事にした。
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