第二十話 悪来虎痴

典黙の読み通り許褚が五百の義勇軍を連れ投降しに行く事も順調に終わった。この二三年劉辟たちは許褚の恐怖に支配されていたから、許褚の参加に喜び浮かれていた。

彼らも政府の腐敗に耐えきれずに旗揚げし反乱したから理由も疑う事無く信じ込んでいた。


劉辟は誠意を見せるために許褚たち義勇軍の武器も取り上げずにそのままにしていた、それどころか歓迎を表すため三日三晩宴会を行っていた。


あの弟くん頭いいな、入ってすぐじゃなく七日後ってのがまたミソだね。少しでも疑われるよりも完全に油断してる所を叩く算段だろうな…

劉辟たちの監視の目がようやく消え許褚は心の中で再度典黙の凄さを実感する


七日が過ぎ、許褚は一人で火雲刀を持ち北門に向かった。


門番「これはこれは、許褚将軍!もうそろそろ消灯の時間ですよ?お出かけですか?」


許褚「あぁ少し夜風を当てに来た、異常はないか?」


門番「はいっ!でもさきから門の外からちらほら松明の明かりが見えます。」


許褚「なら大丈夫だ、ありゃ外にいる兄弟がくれた合図だ。」


門番「はぁ…なんのですか?」


許褚「お前らをぶっ殺す合図だ」

言い終わると火雲刀で横薙ぎ、門番の首を切り飛ばして門のかんぬきを外すと外へ呼びかけた


重い門が開き

絶影に乗った典韋が双戟を振り回して先頭を駆け、背後には典字営の七百騎兵と共に城内へ流れ込む


「敵襲!敵襲!」

城楼に居る番兵達が銅鑼を鳴らすも虚しく油断していた黄巾賊のほとんどは未だ夢の中。


眠りが浅い兵二三百人がぞろぞろと出て来たが服もまともに身に付けていない、手に朴刀や鍬で応戦しようとしたが洪水の様な突進を前にまるで紙のようにちぎられていく。


スピードに乗った騎兵を止めるには軽装の歩兵じゃ明らか役者不足。

統率の取れていない賊たちはすぐ逃げたそうとしたが背中を見せ逆に生存確率を下げ事になった


許褚「アニキ!劉辟の首を取りに行くぞ!他の奴らは投降すれば捕虜にしていいって弟くんが言ってた!」


典韋も言われてやっと役目を思い出した

「おう!案内してくれ!」

典字営に指示を出して許褚と二人で城の奥へ走って行った。


劉辟の邸宅に着くと二人はすぐに殺戮を始めたが虐殺と違い抵抗して来る人だけを手にかける


劉辟「許褚!我々はお前らに良くしていたじゃないか!?」


許褚「良くしてる?どの口が言う!お前らが瞧郡でどれだけ殺し、奪いをして来た!忘れたとは言わせねぇ!」


寒光が過ぎ劉辟は初めて自分の背中を見た、それが最後に見る景色だった


許褚「劉辟は討ち取った!命が欲しけりゃ無駄な抵抗をやめろ!」


怒号が過ぎ、金属音もだんだん無くなった。


空が少しずつ明るくなり、典字営と義勇軍が戦場を片付け終わる頃に典黙も十数名の護衛と一緒に現れた。


典黙「兄さん!仲康!」

典韋「どうよ!次はどの県を攻める?」

明らかに興奮が止まらない典韋


典黙「汝南郡に十七県はあるよ、攻めきれないから、一番の治所である汝南県だけを抑えて残りの事は主公に任せよう!」


「じゃ俺らが兗州に向かったら黄巾軍が戻って来たらどうするよ?」

許褚は顔の返り血を袖で擦りながら聞いた。


典黙「兄さんが典字営と義勇軍をまとめて留守を頼む、仲康は僕と主公に会いにいく。この武勲で官職をもらおう!一兵卒からだと昇進に時間がかかるからな!」


黄巾軍から汝南を奪い更にその武勲で自分に役職を付けるまでが典黙の計画だと知り許褚も安心して濮陽に向かうと決めた。


そして汝南県の本拠地が崩された黄巾軍は他の県からも逃げ出し、汝南郡全体の治安も良くなっていく。


典韋「いや〜まさか実家帰っただけなのに猛将一名を勧誘して、汝南郡まで占領しちゃうなんて!主公喜ぶだろうな!!」

曹操の喜ぶ顔を想像するだけで笑いそうになる典韋はすっかり浮かれていた。


典黙「兄さん、兵力が少ないんだから大軍に攻められたらひとたまりもないよ。ここ数日は城内にこもって、フラフラするのやめてね!」


弟に説教される典韋を見て許褚は堪らず笑ってしまう。


典韋「何笑ってんだよ!弟を任せるぞ、何かあったらタダじゃおかねぇ!」


許褚「あぁ!前にも言ったが。ここら一帯の黄巾賊を退治できるならこの命、俺のここからの人生全て預けるってな!弟くんに触れたくば俺を倒してからだ!」


これには典韋もひとまず安心した、許褚の実力は自分がよく知ってるからだ。

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