第十九話 打ち合わせ

許褚「曹将軍からお声かけかと思ったよ…」

少しガッカリした許褚はそう言うと盃を少し下ろした。


家柄が良かった許褚はある程度学問や知識も備わっていた、そのため大義や天下統一についてもある程度考えた事はある。

曹操の勧誘を期待していたが違うとわかって気を落としていた。


典黙「僕が推薦しておきましょう!今日来たのはそのためでもあるから」


許褚は何も言わずに手をあげて軽く振る


典韋「旦那!人を舐めちゃいけないぜ!俺はともかく弟がどれだけすげーか知らねぇだろ!」


典韋は盃をトンっと置くと最近の濮陽での戦いの裏事情を全部話した。許褚も話に合わせて時に手を叩き時に目を見開き夢中に聞いた。


許褚「弟くん!見くびっていた事を謝るぜ!」

そう言いながら立ち上がり拱手の礼をした。


典黙「なら仲康は僕らと一緒に兗州に帰る事に同意したのか?」


許褚「男に生まれ、その志を怒涛な黄河の様に持つべき!俺も付いて行きてぇ…が今はまだ時じゃない…」

再び席に座った許褚は典黙の酒を謙虚に注ぎ軽くため息をした。


典韋「何だよ時じゃないって?お嫁に行くみたいに風水でも見て日付を決める必要でもあるんか?」


許褚「そうじゃないんだな、ここ汝南に黄巾賊の根城があって二三年前から略奪の問題があってよ。俺が村の若い衆と一緒に何回か撃退してから最近大人しくなったけど、ここを離れてしまったら村人たちじゃ反撃も出来ない…」


許褚の説明を受け典韋も困ったと共感した、学問こそ無いが立場の弱い民衆を憂う気持ちは理解できるから。仮に自分が同じ立場に居てもむやみに離れることが出来ないと悩むだろう。


典韋「弟よ……それなら無理強いも出来ないな、残念けどよ、仕方ない事だ…」


典黙は自信に満ちた顔で「仲康、僕が居るではないか。勧誘に来たからにはその道を歩ませるだけの策を用意してある!心配事を綺麗に片付けて気持ち良く付いてきてもらうぞ!」


典黙の言う事に感動を覚えた許褚だがやはり心配そうに

「騎兵七百が付いてきてるのは知ってる、俺も五六百人の義勇軍を用意できる合わせてもたかが千人程度。それに比べ、ここ汝南の黄巾賊は五万人いるぜ?」


五万の数字に典韋は驚いたが典黙は特に反応しなかった。

黄巾賊の頭数の数え方は諸侯と違って家族ぐるみで人数をかさまししてるのを知っていたから

五六人家族でまともな戦力になりそうなのは良くて一人、つまり五万人とうたっているがせいぜい七八千がいいとこ。


三国志本編でも曹操は百万とうたった黄巾賊を正面から打ち破り捕虜を数えた所戦力になりそうな人は二万弱くらいだった。


典黙「五万ね、それがどうした?やってやろうぜ!」


典韋「旦那!俺の弟がそう言うなら問題無いさぁ!」

典黙に絶対的な信頼を持つ典韋は仮に一人で袁紹の百万に一人で勝てると言われても迷わずに突っ込むだろう。


許褚は目を細め低い声で「弟くんよ!ここら一帯の黄巾賊を退治できるなら…この命、俺のここからの人生全て預けよう!」


典黙は軽く頷いて「じゃ仲康、手下諸共汝南黄巾賊の劉辟の傘下にお入りください!」


典韋「えっ?」


許褚「えっ?……手下に付くふりって事か、でもなずっと戦った敵を簡単に受け入れるほどあまい相手かな?」


典黙「その心配はないと思いますよ、敵ながらも劉辟は仲康の力だけを認めてるはず、恐れてると同時に敬意も少なからず持っている。歓迎こそされても断る事は無いですよ。理由も考えておいた。瞧郡の太守に汝南侵攻を命令されたものの断ったら不和が生じ、衝突の末お互い死者まで出した。とな」


許褚「これなら問題無さそうだ、城へ入ったあと連絡の手段はどうすればいいんだ?」


典黙「連絡は取らなくてもいい、七日後の深夜に北門に典字営を待機させておく、松明の明かりが見えたら北門を開けてもらう。汝南城内の劉辟さえ討ち取れば他は烏合の衆、戦う必要もなく散りばめるだろう。」


典韋は机を叩いて「いいね!丁度いい練習台だ!」


許褚「賭ける価値はある!これが上手く行けば治安も永久に良くなる!」


典黙「あぁ!上手くいくさぁ!」


許褚「今日はめでたい日だ!素晴らしい兄弟と出会って、瞧郡の治安も良くなる見込みあるし、何よりこれが終わったら曹公の元で活躍もできそうだ!さぁ!今日は朝まで飲むぜ!」


典韋「先の勝負引き分けに終わったから今度こそ白黒着けようぜ!」


許褚「ガハハハハ!やっぱり気が合いそうだぜ!」


典黙「……ですよねぇー」


二人の勝負に巻き込まれまいと静かに飲む典黙を横目に当の本人たちはいつの間にかベロベロになり、気がつくと外へ出て義兄弟の契りを交わしていた。

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