第十八話 許褚

汝南の土地のほとんどが黄巾賊に占領されている中自らの土地を守ろうと踏ん張ってる人もたくさん居た。瞧郡に居る許褚もその一人で何度も黄巾賊と渡り合ってその名を轟かせていた。

そのため周りの住人たちも黄巾賊が来る度に許褚の元に向かい助けを求めていた。黄巾賊からしたら一目を置かれてる存在になっていた。


軽く説明を受けた典韋が興味を持ち始めていた

「へぇ〜それなら許家の村人たちも勇敢で戦いに慣れてるって事か!」


典黙「うーん村人たちと言うより代表者だね」


そうこうしてるうちに許褚のいる村は目の前

二人は村へ入り聞き込みを少しするだけで目的地にたどり着いた。

許褚の生活は少し裕福で周りの村人と違って青レンガに白瓦の住宅で別邸まで持っていた。


「許仲康に尋ねたい!屋内に居るか?」

典韋は大きい声を何回か出して呼んだ後に扉が開き、中から大男が目を擦りながら出てきて

「あぁー?誰だおめぇ、知らねぇな…」


二人は馬の上で拱手して

典黙「小生典黙、許仲康の旦那にお会いしたくまいりました。」


許褚「典黙?知らねぇな……典韋ってヤツは聞いた事あるけど」


典韋は嬉しそうに「俺を知ってんのか」


先まで眠そうにしてた許褚も急に元気になり

「お前がそうか!?待ってろ!!」


兄弟二人がまだ状況を飲み込めないうちに許褚は急いで部屋へ戻り、戻って来たと思ったら手には大刀を持ち馬に跨っていた。

「噂には呂布と引き分けになったそうじゃないか!巷のホラを今日打ち切ってやるぜ!」


許褚はそう言いながら見晴らしのいい芝生へと向って行った。

典韋も性格上からして受けて立つのが目に見えていた。


典韋「弟よ、離れていろ!ホラかどうかを体に教えこんでやるぜ!」


予想通りの展開だなと思いながらも典黙は少し離れた大木の下に座り観戦する事にした。


許褚が先に馬で突っ込んで来た

鑌鉄火雲刀を振り下ろしながら気合いの入った掛け声を叫んだ「先手必勝!」


カキーン!

鋭い音と共に典韋は八十斤の双戟を振り上げ、難なく許褚の攻撃をいなした。

たった一撃で目の前の典韋という男が噂通りの実力を持つとわかって内心喜びと油断出来ない気持ちが交差した。


許褚「強えじゃんか!」

典韋「まだまだ!」


先手を取られた典韋もまた負けじと双戟を右から水平に振り、風切り音を置き去りに許褚の目の前まで迫って来た。双戟が届くや否やの瀬戸際に許褚も火雲刀を狙ったかのように切り下げ互いに偶然にも攻撃したつもりで相手の攻撃を防いだ。


典韋「どうよ噂に尾ひれ付いてたか?」

許褚「未だ終わりじゃないぜ!」


許褚も火雲刀を振り回し寒色の刃が光りの軌跡を残し更に典韋に迫る。


二人とも互いに相手の打撃で手が痺れるほど痛むが口だけは減らずで居た、勝負の最中に口喧嘩も絶えずに続いていた。


許褚「あーね、このくらいか呂布?俺でも行けそうだわ!」

典韋「無理すんな、俺は力半分も出てないからね!」

許褚「あっ半分?ちなみに俺は今半分の半分だぜ?」


急に典韋も左右の手で違う動きを使い分け始めた。切り上げ、水平切り、切り下げ、突き、ガードなどを組み合わせ。これには呂布も苦労した典韋の数少ない決め技である。

許褚もまた感覚的に二人同時を相手してる気分になっていた。


典韋の水平切りを躱してから鞍に両足で飛び乗り更に飛び上がり体重を利用して大きく縦に切りつけた。


観戦していた典黙も許褚の馬術に感心して目を見開き「スゲー…!」と言葉をこぼした。


この一撃を食らって双戟でガードこそしたが典韋は馬術の不利が仇になって絶影から転がり落ちた。


許褚「フハハハハ!どうよ!」

典韋を落として喜んでる許褚はまるで大きい子供のように嬉しそうに笑う。


典韋「お前な!…キレたぜ!」

そう言いながら腰の鳳翼金戟を両手で二本抜き取り許褚に向けて飛ばした。


典黙「兄さん!待って!」

叫び声も一歩遅れ、鳳翼金戟が稲妻の如く閃光を帯び真っ直ぐ飛んで行った。

突然過ぎる一手、許褚もこれを予想出来ず火雲刀で円を描き一本を落としたが直後に耳元から風きり音が聞こえて振り替えて見れば二本目の投戟が背後の大木に深く突き刺さっていた。


許褚「殺るつもりなら俺はもう死んでいたな」


手を止めた二人を呆然と見る典黙

風が通り過ぎ許褚がニコッと笑い「兄弟、いい腕だな!だけど不意を突かれただけだ、次はそう上手くいかねぇぞ!」


典韋「旦那も凄まじい力量だ!俺は馬術が下手で歩戦ならコイツを使うまでもねぇぜ!」


典黙「はいはいっ、二人とも一流の使い手、手合わせも充分だろ?これ以上やってどっちかが怪我でもしたら大変だ」

二人の間に割って入り、レフリーの様に試合を止めた典黙。二人共腕っ節だけでなく口も減らない、ここで口喧嘩を止めなかったらいつまた戦い始めるかも知らない。


許褚「弟君は心配せんでいい!殺し合いでもあるまい!直接会って手がうずいただけさ!兄弟よ、酒は行けんのか?家に来て一杯やろうぜ!?」


典韋は双戟をしまい絶影の手網を手にして

「ふん!望む所だ!」


典黙もホッとして、やれやれモノノフは皆こうなのかなと思いながら付いって行った。


二人は招かれて部屋に入り、少しの間で酒席の用意も出来た


許褚「さぁ!この一杯はお二人に!久々の上客だ!ハハハ!」


「さぁ!」

典韋も遠慮せずに並々の酒を一口で飲み干す


いいねいいね!飲め飲め!酔い潰して仲間に引き入れるチャンスを逃すわけが無いと典黙は悪い顔して思っていた。

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