第十六話 恐喝
徐州をすぐにでも落とせると思った曹操と曹仁の目に光が宿った、媚びる光ではなく希望の光が見えた。
「勘違いしてるな、これは良くない。いくら僕でも出来ない事もあるよ。」と思った典默は静かに言う
「今我が軍は既に大戦を立て続けに行った、連勝こそしたが疲労が溜まっています。加えて兵糧が少ないなら尚更徐州への遠征は難しい事になる、この状況では例え楽毅、管仲でも簡単に落とす事ができないでしょ……」
この答えを予知したかのように曹操は軽く笑顔を浮かべ
「我も簡単に落とせると思っていない、子寂が嬉しそうに言うから何か妙策あるのでは無いかと思っただけ。」
典默はお茶を飲み干し「主公、劉備たちを恐喝してみるのはいかがですか?」
曹操「恐喝?」
典默は立ち上がって地図の方へ向かう、そして兗州領内の徐州と隣り合わせの泰山郡を指さし
「劉備は兵力が少ない、呂布は連戦連敗。合流こそしたが二人とも主公に怯えているはず。ここに一万の精鋭を進軍し徐州を攻めると見せ掛ける、そして劉備へ手紙を一通送る。内容は呂布との戦いで兵糧と兵力を損耗させられたため彼を死地に追い込まなければ将兵たちに申し訳が立たない。この状況を見て劉備はどのように対応すると思いますか?」
曹操たちは話を聞いてハッとなった。
曹操「この一手…面白い!ハッハハ……実は今朝からこの情報を聞いて胸の中に何かがずっとのしかかった気持ちだったが、晴れた…晴れたわ!ガハハハハ!」
曹仁「えっ?どういう事ですか?」
曹操は曹仁を見て呆れたように首を振り
「子孝よ、君は一体ここ数日子寂の元で何を学んだ?」
曹仁「だっ……大富豪?」
曹操「いいか?今の我が軍兵糧が足りなくて戦争する事はできないが劉備たちは知らない。一万も大軍で圧力をかければ戦う事など考えずに和平を申し出るだろう。ここで手紙に兵糧と兵力の損耗と書く事で条件をさり気なくを与えるのだ。」
曹仁「なっ…なるほど!和平の申し出は基本的に名品や金銭、どちらも現段階不要な物!これで今必要な兵糧だけが手に入る!」
曹操「ふむ、この策が功を奏すれば一年以内に我が軍も立ち直るだろう。」
曹操は典默の所に行き手を引いて再び椅子にかけさせた。そして直々にお茶を注ぎ清々しい笑顔を浮かべ
「いや〜子寂はすごいね!戦を奇策で勝ち抜きだけでなく政治戦略に置いても右に出るものは居ないでしょ!子寂を得れば天下を得たのも同じ。」
典默がますます好きになっていくのが自分でもわかっていた。
典默「もったいないお言葉!」
グイッ「アッチッ」
二人は酒の代わりにお茶で乾杯し飲み干した、淹れたてのお茶が少し熱かった様だ。
曹操「明日から陳留に向かうのだろう?」
典默「はい、明日辰の時に出発する予定です」
曹操「ならゆっくり休みなさい。子孝もこれ以上先生の休みを邪魔するでない。先言われた事の準備に取り掛かりたまえ。」
曹仁「承りました!」
二人が出ていき暇になった典默は出発の準備に取り掛かった、でも臨時邸宅にそれ程の荷物も無くすぐに終わった。
翌日典韋兄弟が典字営を連れ南門から出て行くとそこには曹操が待ち構えていた。
二人は急いで馬から降りて拱手して
「主公!如何なさいましたか?」
曹操「見送りに参っただけだ」
恋人の別れじゃないしそこまで感傷的になるの気まずいなと典默は思ったが、さすがに口には出せないでいた。
曹操は手を叩いて護衛の一人が一匹の馬を連れて来た。身長高く筋繊維がくっきりと浮かび、黄色の毛髪全体が艶やかで輝いて見える。
曹操「子盛に絶影をあげたからな、子寂にはこの爪黄飛電をくれてやろう!絶体絶命の時は主を助けると言う言伝えもある。」
三国志では曹操の馬は主を助ける事が有名な話
典韋がただ一人で殿軍を勤め戦死した時に
絶影もまた一匹で曹操を乗せて逃げ出したが、曹操が後ろから矢で撃たれそうになった時に急に振り向き目を刺されて曹操を庇った。
名馬をあげるのは一つの保険である、万が一トラブルに遭遇して典韋も近くに居なかったら、せめて爪黄飛電で生き延びるが出来る。
典默「ありがとうございます!」
典韋「爪黄飛電!妙才将軍が何度もねだっても手に入らなかった馬だぞ!」
典韋の話を聞いて、典默は更に感動した。
乱世に置いて名馬と武器は身を守る大事な宝物、呂布も赤兎馬のため丁原を殺すし、関羽も赤兎馬をくれた曹操に恩義を感じていた。
曹操「たかが馬大した事ない!が、君たちは必ず無事で帰ってくる事を約束してもらうぞ!」
典默「兄さんも典字営も居ます問題ありません。主公は濮陽で僕達の帰りをお待ちください、陳留からの贈り物も楽しみにしててくださいね。」
曹操「そうだったな!ゆっくり待たせてもらおう!」
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