第十五話 カモられた曹仁と曹洪

典字営は典韋が統率する事になったが曹操の直轄で親衛隊の役割も兼ねていた。

普通なら曹操の元を離れる事はできないが許可があれば何も問題は無い。


典韋「いつ出発するんだ?」

典默「んー七日後かな。」


典韋は頷いて特に何も言う事も無かった。

典默も軍営の中はつまらないと思って帰って寝ることにした。


濮陽に滞在する数日とてもつまらないと感じた典默が自分のファンである曹仁と曹洪を誘いトランプゲームの大富豪を始めた。

難しいゲームじゃないから二人はすぐできるようになった。


典默「階段かーらーのーペアの二、残り一枚」

曹仁「出せない……」

曹洪「パス……」

典默「上がり!さぁ賭け金の精算だ!うんっ子孝将軍はまずまずですね!一千銭頂戴します。」

そして曹洪に向かって媚びた笑顔で続けて言う

「子廉将軍の方はッと……初めの日から今に至って六千五百銭頂戴します、月末までにお願いしますね。主公に知られたくないでしょ?」


曹洪「そんなに多いの?!」

典默から帳簿を取り上げじっくり見ながらブツブツ何かを言っていた。


曹仁は潔く懐から金の装飾品を取り出し典默に渡した

「ほらよ、もうしばらくはやめておく。今度やったら家を売らないと足りないかも……」


典默は貰った装飾品を懐にしまいながら曹洪の方へ聞く「どうですか?子廉将軍、確かめましたか?」


曹洪「あの……これを」

曹洪は諦めついたか懐から土地の所有書を取り出し残念そうに言う「今持ち合わせがないから、城外から西へ五里に山を持っている。これでどうかな?」


山一つに六千五百銭の価値などあるはずも無いが典默はしょうがなく了承した。

相手が曹洪だからだ、この曹洪三国志ではある理由で曹丕に恨まれて仕舞いには財産全部没収され牢獄にぶち込まれていた。その理由もまたケチだから。

古参の上に武勲をたくさん挙げて仕舞いにはケチが理由で投獄される人に何も期待などできない。


曹仁「子廉よ、それはいくらなんでも酷いよ!その山は確か毒塩山だろ?先生にあげても何もならないよ!」


曹仁が不平に思い止めようとしたが

曹洪は開き直った「毒塩山がどうした?毒塩山も山だろ?」


曹洪「先生よ!もう他に金目の物は無いですよ?それが嫌なら出世払いにしますか?」


「毒塩山!?」

典默は声に出しそうになったが我慢した。そして宝物のように所有書を受け取った。


この時代で塩は基本的に海から作り保存や輸送などの問題で中原では高価な物になっていた。

普通の家庭ではまずお目にかかれないから、料理には一般的に調味料を染み込ませた布、塩布や酢布などが使われていた。


そして毒塩山とは中原にある塩田だが重金属が多く含まれていて、処理しないで食事に使うと中毒症状になる。

その上作物も育てられないから忌み嫌われる。


この時代ではまだ塩と重金属を分離できる事を誰も知られていないだけで、実はとてもシンプルで、転生した典默からしたら朝飯前の事。


これはもはや金の山を貰っちゃたようなもの

悟られないように軽く首を横に振り残念そうに言う

「仕方ないですね、子廉将軍は軍の古株で曹家の一族だしこの毒塩山で精算しましょう!」


急いで手形を押した後、曹洪はムスッとして帰った。


曹仁「嫌ならやるなよな、こんな事なら妙才たち誘えばよかった。先生、主公に言って仲裁してもらいましょうよ。」


典默はせっかく貰った塩田を手放したくないので気にしない事を伝える

「子孝将軍、大丈夫ですよ、損しても悪い事ばかりじゃないですよ」


「一体誰が子寂に損をさせたんだい?」


外から重厚感のある声が響いて二人は急いで立ち上がり拱手した。


典默と曹仁「主公!」

曹操「まぁ座りたまえ」


曹操は掌を下に下げ二人を座らせてから一枚の手紙を取り出し、静かだが強く言葉を発した

「子寂の読み通り呂布たちが北の冀州ではなく東の徐州へ向かって劉備軍に加わった。」


曹仁「劉備め!たかが数千人程度で徐州に居座り、今や呂布を拾うなどとことん主公の邪魔しやがる!今我が軍の士気が高いうちに徐州ごと奪い取りましょう!」


曹操「ええい、感情的になるな。前回徐州へ攻めた時は既に兗州の貯蓄をだいぶ使った。その後呂布たちが占拠して民から三割の税を巻き上げた。今我らが居る兗州は兵を動かせるだけの兵糧はどこにもない。」


曹操が典默の所に来たのはもちろん徐州を攻める相談ではなく、ただ顔を出すついでに最新の情報を共有するつもりでいた


典默はお茶を啜り曹操の方へ見ると

「子孝将軍だけでなく主公もイラついていますね。二人とも劉備が憎いのでしょ?なら少し血を抜いてやろうじゃないか、お仕置ですね。」


曹仁と曹操がお互い目を合わせてから典默の方へ見る

曹操「子寂、徐州を破る策でもあるのか?」

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