第十四話 典字営

着く前から鉄を打ってる音が鳴り響き、角を曲がってそこには大きな庭があり、門の前には番兵が二人立っている。

典默の事を見るや拱手し礼儀正しく聞く

「新しく考軍になられた方とお見受けします」


典默「典默です」

番兵「中へどうぞ!」

二人は片手を出し中へ案内した。


中へ入ると庭が思ったよりも広くて、部屋が六軒あり、壁には作ったばかりの撲刀(ぼくとう)や槍、弓弩が立て掛けられていた。


典默が入ってきたのを見て、上半身裸に前掛けをした大男がにこやかに歩いて来た。

欧鉄「典様!考軍処を任された親方の欧鉄です。よろしくお願いします」


典默「欧鉄?欧冶子(おうやし)の子孫かな?」

冗談のつもりで言った典默だが、これには欧鉄は過剰に反応した

欧鉄「典様物知りですね!俺は欧冶子の三十七代目子孫です!」


欧冶子とは春秋戦国時代で武器や兵器鍛造第一人者、様々な伝説を残した凄腕鍛治職人。

その子孫として誇りを持っていた欧鉄は続けに撲刀を手に取り

「見てください!この武器は俺が直に打った物です!鉄は安物でも鎧を切り裂く!」


典默「あ……はいっはいっ…」

興味を一切示さない典默

「それよりもこの先、受注の内容を聞かせてもらえるか?」


欧鉄はすぐには答えず、小さい椅子を持って来て典默に座ってもらってから答えた

「主公の命により、軍備拡大には鎧二万、撲刀一万、強弓五千、鋭矢二万!」

言い終わった欧鉄は小声で続けて言う

「実の所は予算が足りないですよ、今の予算だとせいぜい鎧三千の撲刀二千しか作れないし……でもあとで十二万銭追加してくれると言われたから今の所はできる所までやるつもりです。」


典默は足を組み、何も言わず内心では

「昨日は農業優先と伝えて理解してもらったのに結局軍拡優先に進めるもんな…考軍になっといて良かったかもね…」


典默「欧鉄よ、今の材料を武器に使ってくれ。十二万の追加予算が来たらもう武器は作らなくていいよ」


欧鉄「あ?考軍処が武器作らないで何するんですか?」


典默は袖の中から布の図面を取り出して欧鉄に渡した

「予算が来たら図面通りの物を三万ずつ作ってくれ、寸法や材料は既に明記してある」


欧鉄は図面を見て頭上に無数のハテナを並べる

欧鉄「なんだろうなコレ…見た事ないな…」

ふっと我に返ると

欧鉄「いやっ!ダメですよ!主公の命令に背くなど罪に問われたら…俺は…」

欧鉄は続きを言葉にしなかったが首を両手で締め舌を出して白目を剥いて見せた。


図面の物は何に使うかは知らなくとも兵器ではない事は見てわかった。


典默はゴッホンと咳払いして聞いた

「今日曹仁将軍が来て何かを言ったか?」


欧鉄「曹仁殿が言うには典様を見たら主公と同等に扱い、典様の言ったことは主公が言ったと思え、です」


なるほどね、自分の知らない所で結構顔を立ててくれてたんだねと思った典默

「それなら問題は無いでしょ?実はこれ主公が秘密裏に作って欲しいと頼んで来たもの、内緒だよ」


欧鉄「それならそうと、早速取り掛かります!何に使うか分からないが材料寸法が書いてあれば問題ありません!お任せください!」


典默が曹操の真似をして「ふむ!自分の看板に泥を塗らない事だ、後で見に来る!」


考軍処から出た典默は暇を持て余して典韋が居る軍営に向かった、理由は二つある。

一つは調練の様子を見に、もう一つは陳留に行く段取りをする事。


典韋の居る所に着くと

典默「あれっこれだけ?二千人ところか八百人も足りないじゃないか?!」


曹操は確かに二千と言ったよなと典默は不思議に思てる傍らに典韋が絶影から降りて近くまで来た

「よう!来たか、確かに二千の兵を貰ったがその中にやせ細って大した戦力にならない兵も数多かったからその中から精鋭だけを選抜をした。

聞けば陥陣営などの有名所は皆精鋭中の精鋭じゃないか、俺も見習おうと思って主公に伝えたら賛同してくれたよ。この七百六十人以外は元の部署に帰ってもらった!しかもコイツらと来たら騎戦もできるらしいからついでに戦馬も人数分貰ってきた!」


主公の気前がいいねと典默は思った、この乱世では戦馬の価値は兵士よりも数倍高いから。部隊の強さはだいたい騎兵の数で決まってくる。


典韋「弟よ!お前文才いいからカッコイイ名前付けてよ!」

典韋は宝物を見る目で自分の部隊を眺めて言った。


典默「そうだな…兄さんが直々に選び抜いた精鋭たちなので…典字営と名付けましょう!」


典韋「典字営…!いいね!それにしよう!」

あまり文才がない典韋にとって単純明快の名前が琴線に触れたようで喜んでいた。


典默「あっそうだ兄さん、あとで亡き父の弔いに典字営も連れてっていいと許可が出たよ」


典韋「弔いに典字営も連れて行く必要あるの?」

典默「いいから連れて行こ、他にも役立つ事あるからさ」


典默が連れて行くと言ったから典韋もそれ以上は聞こうとしなかった、常に数手先を読む弟に慣れたからだ。

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