第十三話 二つの贈り物

典默は臨時の邸宅から離れてすぐ曹操と曹仁が見えたから拱手をして

「主公、どこへ行くのですか?」


曹操は軍礼はいらないと言わんばかりに手をかざして言った

「君たちの様子を見に来た、なんだ出かけるのか?」

オフの時の曹操はまるで近所に住むおっちゃんの様に砕けている。


「はい、考軍処に行って顔合わせと近日の日程を確認しておこうと思いまして。」


曹操は満足そうに

「いいね!昨日考軍に任命したばかりなのに仕事熱心だね!途中まで一緒に行こ」

曹操が先頭を歩いて続けて言う

「昔我が校尉になった時は朝廷から全軍通達もあったが何せ今は乱世、その辺盛大にできなくてすまないが子孝に伝令を命じたから何も問題は起きないはず。」


曹仁「そうです先生!朝のうちに伝令をしました、子盛の兄貴に至ってはもっと心配ありません。あの双戟で呂布と渡り合えた事もあって我が軍どころかこの天下でも不服な輩は居ないでしょう。」


呂布と戦って引き分けに終えた典韋は一躍有名人になっていた。


「子孝将軍お手数お掛けしました、何せ僕達兄弟はまだ至らない所も多いので何卒よろしくお願いします」


典默が礼儀正しく言うと曹仁はガハハハハと笑い出す。

「先生、他の人は知らないが俺の前では隠さなくても良いですよ。」

曹仁は周りをチラッチラッと見渡し、平民しか居ないとわかって続けて言う

「先生の麒麟手腕で出した策が無ければ我が軍は危うい所でした。」


曹操も笑いながら手を典默の肩にポンッと乗せて言う

「子寂よ、我も常々君の近くにいる訳じゃないし、子盛も校尉となって戦場に出かける事も増える。万に一つ何かのトラブルに巻き込まれたら子孝に伝えれば上手く対処してもらえる。」


曹仁は曹操が旗揚げの時に陳留から連れて来た古参の一人で、曹操から信頼を得ている。

そんな重要人物を自分の護衛に付けるとか

いくらなんでも典默もびっくりしているが平然を装っていた。


典默「主公、呂布軍が逃げたが兗州に残された各郡をどうするおつもりで?」


曹仁「それでしたら主公の命令で午後一俺が三千の歩兵で各郡を見廻りして占領する事になった」


典默「ふーん、フフフッそれなら今日はやめて二三日待った方がいいんじゃないですか?」


先頭を歩く曹操は足を止め何かを一瞬考えて典默の方に振り返り

「アッハハハハ!なるほどね!子寂の言う通りにしよう!子孝、この意味わかるか?」


曹仁は未だ理解出来ずに「どうしてですか…?」


曹操は軽く溜息をつき「呂布は逃げたが周り各郡には未だ中立の軍勢が居る、我々が勝ったことも知らずに今行けば戦う事になる。二三日経ち呂布軍の敗北情報が出回る、さすれば戦う必要もなく我が軍の旗印を見れば各郡は無血開城となるだろう!」


曹仁「先生はやはり大才!俺はてっきり戦わねばと思い先程精鋭をかき集めて行く準備を怠らず整えていた。特に任城と東平の両郡にはかつて陳宮の友も居ると聞いたから!情報が回れば奴らも尻尾巻いて逃げて行く事になるだろう!」


曹仁は嬉しさを顕に出す、それもそのはず。

典默の策で自分は一兵卒も失わずに武勲だけを挙げることができるからだ。


典默「主公!もう一つお願いがあります」


曹操「どうした?遠慮なく言ってくれ」

曹操は何を言われても断わらない勢いで言った


典默「あと二十日で亡き父の命日で、少しの間兄さんと一緒に陳留に帰らせてもらえないでしょうか?」


親孝行が第一の時代典默の相談を断る理由もないが曹操の眉間にシワが寄せられていた。


典默「何か不都合でも?」


曹操は首を横に振り「行くのは良いが、子盛に自分の部隊を連れて行けと伝えなさい。兗州に呂布を迎え入れた張邈は元々陳留の太守だった、陳留で未だに影響力も無くはない。ある程度兵力連れて行けば我も安心できる……」


正直典默は少し感動していた、曹操は自分が離れるのでは無く自分の安否を懸念していたから。

さらに、兵力を割いて自分に渡すのは疑心深い曹操が自分を信頼している証拠。


典默はニヤリと笑い

「ありがとうございます!そして僕達が帰ってくる頃には主公へ贈り物を二つほど用意して置きます。そのどちらも必ず主公を喜ばせるでしょう!」


曹操は目を細め「お?君は呂布を敗退させる策を出した時ですら笑わなったのに、今ではワクワクしてるように見える。これは期待しなくてはならないね!」


曹仁「先生!俺も付いて行っても良いですか?」

曹仁の直感が教えてくれた、典默達について行けば何らかの収穫が得られると。


曹操「ふざけんな!子寂たちは亡き父の弔いに戻るのだろ、お前の苗字も典か!?」


曹仁「違いますよ大兄、先生の護衛になるかと思いまして……」


曹仁の下心を見透かし典默は笑いながら

「子孝将軍安心してください!遠くない将来主公の覇道には将軍の力は欠かせない物です、時が来れば拾いきれない程の武勲が将軍の所に舞い降りますぞ!」


曹仁「マジッスか?これは先生の約束と受け取っても良いですか?」

曹仁は喜びを隠せない様子だった。

目の前に居る少年、その肩書きはただの考軍だが既に首席の軍師と言っても過言ではない。


典默「まぁねー」

曹仁「ありがとうございます!軍し……先生」


冗談混じりのやり取りをしているうちに考軍処の近くまで着いた。


曹操「目の前が考軍処だ、この後我は子孝と城外の収穫量の予想を立てるから中までは一緒には行かないよ。またあとで」


曹操達と分かれ典默は胸を張って自分の最初の縄張りに入って行った。

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