第九話 呂布の圧力
怒りを発散するには様々な方法がある、規律正しい軍の中でもお酒飲む事や賭博くらいはできる。しかし今の呂布を筆頭に怒り狂った軍の怒りを鎮めるのに敵の鮮血しかない。
濮陽城下に大軍が結集している、主旗には大きく"呂"と書いてある、その主公は天下無敵の猛者。普通の軍隊と違って兵たちの軍服は皆統一されていない。
その理由は、元々兗州に入った当時は丁原の并州軍と董卓の西涼軍の集まりで、その後張邈と陳宮の部隊も合わさった物だから。
軍服は違えと今の彼らの信仰は同じだった。
曹操軍陣営の前に三万の混合部隊は三つの方陣を造り一番先頭に馬に乗り槍を持った男が大声で叫んだ「我は温侯が配下張遼、張文遠也!我との一騎打ち受けられるか!?」
言い終わり背後から三万の掛け声が轟いた
「必勝!必勝!必勝!」
「またアイツだよ、張文遠!」
曹操は髭をいじり眼光からは殺意ではなく欲しい気持ちが溢れ出す。
「主公!張遼ごときが調子に乗り、その首を持ち帰りますので俺に行かせてください!」
「妙才将軍が出るまでもない、この于禁が行って来ます!」
「いやっ我が行こう!」
「拙者だ!」
「俺がやる……!」
一騎打ちの相手が呂布じゃないと見て、全員が名乗り出した。
こっそり着いてきた典韋も前に出ようとしたが典默に引き止められた。
「まだだ!兄さんの相手は呂布だよ」
「あぁ、そっか!」
張遼の武力も悪くないが典韋に比べれば足元にも及ばない、それでも呂布前の前に体力を温存させておきたい。
後に曹操の許しの元夏侯淵が槍を持って向かった。接触の瞬間夏侯淵は青梅槍で乱れ突きを暴風雨の如きに浴びせ、正面から見れば無数の弓矢の様だった。
張遼は落ち着いて手中の鉄鎌鈎槍を振り夏侯淵の突きを撃ち落とし。ハイスピードの撃ち合いが五六十手合いを過ぎ両者とも互角に戦った。
「あの落ち着き、あの武力、あの統率力。やはり我が軍門に下って欲しい」
前回の待ち伏せでもそうだったが曹操は今の戦いを見て更に強くそう思った。
今は典韋の実力を知る前で許褚とも出会っていない、夏侯淵は曹操軍では随一の強さを誇る。
更に五手、十手、三十手が過ぎ未だに白黒がつかない。
これが曹操の欲しい結果、両者が時間をかけ両軍の将兵たちが一騎打ちに釘付けのこの結果。
「文遠!遅いぞ!」
低くて思い声が鳴り響き呂布軍の方陣が真ん中から割れ一本の道ができ、奥から馬に乗った男がゆっくりと前に出て来て。
三股紫金冠を被り、獣面呑頭鎧を身につけ、方天画戟を手にし、西川百花大紅袍を風になびかせてパタパタと音を立てて、血のように赤く他の馬よりも頭一つ大きい赤兎馬に跨り。方天画戟を下向きに下げて頭を高く揚げ。
「呂布、呂奉先参る!」
まるで暗雲の様な圧迫感が訪れて、掛け声と太鼓の音も止み曹操軍に緊張感が走る。
夏侯淵は青梅槍を固く握りしめて呼吸も速まり瞬きすらも慎重にした。ゴクリと固唾を呑んで呂布を睨みつける。
先まで我先と名乗り出ていた武将たちも嘘のように静まり返った。
「弓弩手用意!妙才の援護を準備しろ!」
いつも落ち着いてる曹操も危機一髪と感じた。援護と言ったが明らかに助けろという意味だった。
「これが呂布か…凄まじい覇気だ!」
三国一の猛将、その圧力を感じた典默も思わず呟いた。そして振り向き典韋の方を見て「兄さんの相手だ天下一の猛将。」
「天下一?それは俺と戦って見ないとまだ分からない!」
今この時点曹操軍で唯一恐れていないのは彼一人、むしろ早く戦って見たい気持ちが勝っている。
涼しい風が通り過ぎ、呂布が先に動いた。
方天画戟を引き攣り凄まじい速さでダッシュし文字通り瞬きの間に夏侯淵の前に現れ虫を払うように引き攣った方天画戟を振り上げた。
夏侯淵は辛うじて初撃をかわしたがすぐに振り上げられたそれが今度は振り下ろされた。
間に合わないと思った夏侯淵は槍を両手で横に持ちなんとかガードした。
カキーン!
耳を覆いたくなる音の後夏侯淵が乗ってる馬の下から土煙が巻き上がった。呂布はそのまま片手だけで方天画戟を押し付けると涼しい顔で「ふんっ虫けらが」と吐き捨てる。一方なんとか両手で槍を高く揚げガードする夏侯淵は歯を食いしばりギリギリ耐えている。
「ほう〜」
半笑いの呂布は左手も添えて押し下げると
夏侯淵は苦しいからか白目剥いて息を大きく吐き吸い、充血した顔も赤くなっている。
「アヘ顔かっ」典默は思わずツッコミ
「アヘ顔?」典韋は初めて聞く言葉に興味を示すと典默は誤魔化した「あぁ体力的にも精神的にも耐えることが出来なくなる…あの顔だ…」
夏侯淵は青梅槍を斜めにして力を逃がすと同時に呂布の顔目掛け突きを繰り出した、すると驚くべき出来事が起きた。
夏侯淵先手の突きよりも後手の呂布がより速く方天画戟を振り上げ半月を描いて夏侯淵の兜を撃ち落とした!
「…っぶねぇ!!」
観戦してる夏侯惇思わずそれを口に出した
「呂布の化け物め!金を鳴らせ!夏侯淵戻れ!」
曹操が賢明な判断をした、もう少し遅かったら夏侯淵は多分金の音も聞けなかっただろう。
「必勝!必勝!必勝!うおおおおぉ!」
呂布軍の士気が更に高まり今でも突撃しそうな勢い、一人一人が命令を待ち侘びている。
呂布は追撃せず方天画戟を地面に重突き刺し両手を胸前に組み何も言わずに居る。呂布は単純だが一騎打ちでは専門分野。もう一度戦って勝てば相手の士気は下がりきると踏んだ。
実際に判断
一騎打ちの一回で決めるのは珍しいくらい相手の士気を見極める事がより少ない損失で勝つ事に繋がる。
しかし今回に限って誤算だった。
典默は典韋を連れ曹操の元へ向かった
典默が来たのを見て猛将が現れる事を悟った。
「主公!時は満ちた!家兄典韋呂布と渡り合える!」
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