第八話 良い気分

「主公は皆を集めて宴会開くと言ったはずなのにどうしてまた炊事場に向かったのだ?」荀彧は理解出来ずに聞く


「さぁな知らない、誰も付いてくるなって言ったし皆待たされてる」曹仁はどうでも良さそうに言う。


軍機処が賑わっている、勝った喜びは人々に感染して行く。その中荀彧だけは不思議に思っていた、なんでこんな時に曹操は炊事場に向かったかを。


「主公!」


曹操が入って来て文官武将たちも左右一列に並び拱手し一礼をした。


「主公!今日遂に雪辱出来ました!あの野蛮人に戦の仕方を見せつけました!」


「文則の言う通り!今の呂布に残されたのはせいぜい三四千の騎兵、もうデカい面はできないはず。」


「もう待ちきれない、宴会が終わればそのまま濮陽へ責めいりましょう!」


「アッハハハ、それは良い考えだ!」


皆が負けた時の無言と違って饒舌になっている


この一瞬、曹操は失望している。全てを計画した典默は少しも油断せず次の戦いに向け準備をしているが目の前のヤツらは傲慢になり濮陽に攻城戦を仕掛けるとか吐かす始末。


「あぁ、暴言を吐きたい!」

曹操は強く混み上がる怒りを押し殺し心の中ではそう思った。恐らく典默に会いに行かなければ自分も同じく浮かれていたと思ったから。


「酒を抜きにして、美味いものたらふく食え」


たった一言で浮かれてた人達が静まり返った。


「えっ…何故ですか?宴会に酒抜きですか?」


曹操は曹仁を一回睨み続けて言う

「なら全員が酔い潰れて、呂布が奇襲しに来たら我が一人で戦場に赴こう」


「呂布が奇襲?」

全員が目を見開き固まる


「もしもの話だ、将たるもの可能性があるなら警戒して損は無い。昨日我々が勝ったのも敵軍が油断した隙を突いたからだし。」

曹操は典默の話をそのまま引用した。


「さすが我らの主公!呂布軍の騎兵は確か残り三四千程度だが歩兵は未だ数多く残ってる、油断ならねぇ!」

全員の尊敬の眼差しで曹操の内心は少し照れていた、がそれと同時に良い気分にもなっていた。


そして更に典默から受け継いた策略を公開すると全員が驚きのあまり口を大きく開けた。


「完璧な作戦ですな!」


「これ程の作戦を短時間に思いつくとは」


「呂布が敗亡するまで禁酒だ!」


褒められた曹操は自慢げに髭を弄り「気持ちがいい!!」と思っていた


トップ謀士の荀彧と程昱も賛称すると曹操は天にも登る気持ちでいた。


「子廉(しれん)、文謙の二人は郊外の林の中に三千の騎兵と共に潜み呂布軍が完全に通り過ぎてから後方を奇襲しろ」


「承りました!」

曹洪と楽進が前に出て拱手する。


「宴会を再開しろ!」

曹操は手を大きく振り席に入った。


「仲徳、何処へ行くのだ?」

宴会の終わりにササッと出口へ向かう程昱に荀彧が聞くと


程昱はびっくりして、声を低く

「文若か!炊事場に行ってみようと思う、昨晩主公は炊事場に行ってからすごい作戦を持ち出したからな。帰ってからも真っ先に炊事場に向かったし、行ったら行ったで宴会を酒抜きにすると言うし。」


荀彧「同じ考えだ、主公は炊事場に行く前まで"朝まで飲むぞ"って言ってたのにその後はまるで別人。あそこには何かがある…ちょっと前まで大才を見つけると張り切っていたのに今ではその話すら出てこないのもねぇ…」


同じ好奇心を持った二人は炊事場へと向かう


炊事場は三軒あるメインの炊事場一軒とサブの炊事場二軒、メインは全軍の兵糧造りでサブは宴会などで使う、典默はサブの炊事場に居る。


宴会も終わり暇になった典默は二人に挨拶をする「程様、荀様こんにちは!」


二人は周りを見渡し目の前の少年しかいないことを確認し聞いた「少年、先程主公がここに来て誰かと何かを話すの見たか?」


典默は陰で糸を引く黒幕になる興味はないが

この様子だと曹操から何も聞かされてないと分かって話を合わせることにした。


「ここは僕一人だけで主公は確かに来ましたが宴会の支度について指示を出したまでです。」


荀彧は前に出て声を低くして「ここだけの話、主公の策略は君が提案したのか?」


典默もシラを切り「冗談キツイっすよ、ただの炊事係ですよ?」と目をパチパチさせ珍しく少年らしい顔つきをした。


二人は外へ出て

程昱「子供な訳ないか……」

荀彧「かもね…でも彼が例の大才なら、この戦いが終われば主公は必ずここへ戻って来る。その時は外で見張り真相を探る」


荀彧は器の小さい人では無いがもし例の大才なら軍の謀士の序列が変わって、自分の一族の立場も変わってしまうかもしれない。そのためにも見極める必要はあった。

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