第五話 完勝

齊山は孤山ではなく多くの山が繋がる山脈。

一本の横幅三丈(約9.09メートル)の主要道路が黄河と齊山の間に通ってある、山がすぐ近くにあため待ち伏せには最適。


曹仁と楽進たちが要塞に突入した時に曹操が残りの二万の兵を連れて山に登り準備をしていた。計算上では準備に使えるのは二時間しかない。時間に余裕はないが人手は足りてる、曹操も一緒になって巨木や大岩運びを手伝う。


準備を整い曹操は近くの石に腰掛けて持っている剣を杖みたいにつき目を閉じている。内心では誰よりも緊張している、もし呂布軍が東の要塞を捨て曹操軍の本陣に攻め入れれば今度こそ全てを失う事になる。


日が昇り始め、早朝の爽やかな風が曹操の髭を撫で。隣の曹洪、夏侯淵、夏侯惇、劉虔、李典等も真剣な顔をして呂布の到来を待ち侘びている。


「二時間経とうとしている、そろそろ来てもいい頃だ…来い早く!」

曹操は目をつぶり、時間が経つに連れ緊張感が高まり心中は穏やかでは無かった。


「来た!来ました!主公!」

斥候が走って来て

「前方道の入口に騎兵部隊を発見しました」


来た!

曹操はスーッと息を吐き内心では

「子寂、神機妙算!呂布の敗北は約束されたも同然」


何も言わずに曹洪へ目線で伝え、理解した曹洪も拱手し山を降りた。


空が明るくなり呂布の西涼騎兵部隊が洪水のように流れている


「八千もの騎兵精鋭部隊、これさえ無くなればいくら呂布でも牙を無くした虎になる。」


そう思った曹操は片手で剣を高く上げてそして重く振り下ろした。


「殺れ!!」


弓弩手は既に弓を引いて待機していた

号令直後無数の矢が飛び交い、足止めされた呂布軍へ目掛けて巨木や大岩も次々と落とされ始め


呂布軍では射抜かれて馬から落ち仲間に踏まれて死ぬ兵、落石に潰される兵。悲鳴が鳴り響く中

「敵襲!敵襲!」

後の五将軍の一人張遼が冷静に大きい声で叫んでいた。


後続の魏続(魏続)、郝萌(かくぼう)より速く正確に対処した曹操は隣の人に「この人は?」と聞いて

夏侯淵「呂布軍の張遼です。武力謀略ともに持つ武将です」


前の戦いで夏侯淵は張遼に待ち伏せされた事があったから印象は強い。


「猛将なり、手にしたい…」

呂布軍を打ち破って傘下に入れると決めた曹操


弓矢と落下物で混乱してる所に曹操軍の歩兵が横から突っ込み。広い夜戦なら騎兵は歩兵に強いが狭い所にゼロ距離では逆に歩兵の方が有利になる。


掛け声、悲鳴、戦馬の嘶き、呻き声。

地面が赤い血で染まり、腕や足、臓物など散らばり空気中に鉄の匂いが充満している。


その中

頭に"紫金冠"、身に"呑頭獣面鎧"、肩に"西川百花大紅袍"手に"方天画戟"八尺あまりの偉丈夫がいた。天下無敵の呂布である。

方天画戟の届く所血煙を巻き上げ。三尺以内に近づける人はいなかった。


残念ながら圧倒的な局面では一人の強さは危機的状況を解決するまでは至らなかった。

そこへ張遼は駆けつけて「温侯!一旦引きましよ!このままだと全滅ですよ」


「曹操め!捕まえたら頭を割ってやる」

呂布は強く吐き捨て

「撤退だ!」


逃げ惑う呂布軍を見て曹操は喜び開いた口が塞がらない

野戦の中歩兵で騎兵に勝った事もそうだが

談笑中に呂布を死地に追いやった典黙の補佐を得た事が一番大きい。


「きっとこの勝利は子寂がくれた投名状だろう!漢王は張良の補佐で四百年の繁栄を得た、典黙よ君が我の張良だ」


「アハハハハッ兄者、呂布軍が逃げていきますぜ!」嬉しいあまり夏侯淵は主公と呼ぶのも忘れ、陳留以来これ程の完勝はほぼ経験できなかったから。


「あぁ!追撃を止め戦場を整理しろ、武器戦馬捕虜を本陣に連れて行け」


窮鼠猫を噛むの道理は曹操も明白だから。

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