第四話 大才の補佐

「身に余る光栄です」

典黙は言いながら曹操を起こした


才ある者に対して曹操は常に敬意を払っていた

劉備の三顧の礼は有名な話だが曹操も実の求賢令という求人を出していた、内容は才能さえあれば出自や人格を問わない。出自を大事にする時代では考えられなかった。


「先生、待ち伏せいつ頃にするべき?」

「主公の心中では既に答えはあるでは無いでしょうか?今夜にしましょう」


三万もの兵が動くとなると普通は敵哨兵に勘づかれるが呂布軍は今戦に勝ち油断している時またとないチャンスである


「さすが先生、そうと決まれば準備に取り掛かろう」


「あっもう一つ」

典黙は曹操を呼び止めて言う

「凱旋した時用に宴会の準備も主簿にお伝えください」

曹操は典黙の肩に手を置き

「善は急げ、これから準備に取り掛かる。先生の功は肝に銘じる、凱旋した際褒美を遣わそう!」

「恐れ入ります」と拱手する典黙


「今夜全軍出撃する際我が本陣は留守になってしまう、一部隊の精鋭を先生の護衛用に残しておこう」


「それには及びません」

典黙はまだモグモグしてる典韋を引っ張って言う「呂布は天下無敵と言われるが兄さんまだ無名だがも一騎当千の実力者ですぞ。近くにいれば何も問題ありません」


そう聞いた曹操は「子盛よ子寂の護衛はお前に任せた、弟君を守りたまえ!」


「主公!安心してくだせぇ…ヒック。コイツは俺が守る……ゲッ」

ゲップしながら喋る典韋と典黙を見て謎に和みを感じる曹操。そのまま出て行った後二人になって


「兄さん、今夜の戦いで形勢逆転になる事は十中八九。本当は主公と一緒に参加して武勲を上げたいのでは?」


「そんなのどうでもいい、父母が亡くなる前に言い残した事はお前の面倒を見れだ。離れないぞ」言った後残りの肉にも手を伸ばす典韋を見て


「もうすぐだ、名を上げる戦いはもうすぐ来る。今はまだ時じゃない」と小さく呟いた


軍機処に呼ばれた文官武将達に曹操が計画を伝えると皆が唖然としていて


「主公、今は既に亥時五刻過ぎここから東の要塞まで約四十里将兵達は皆疲れていて……日を改めてはいかがですか……?」


夏侯惇恐れ恐れに言い終わる前に曹操が一喝


「じゃ何か?もし奇襲をかけるのは我々ではなく呂布でお前は呂布に、今日疲れたから日を改めてよと同じ事を言うのか?」


怒られた全員が納得し命令を待ち受けると

「子孝、文則、文謙!各自一万の兵を率いて東の要塞に向かえ」


命令を受けた曹仁、于禁、楽進ら三人列から一歩前に出て拱手した


「残りの将は我と齊山で待ち伏せの準備を!」


夏侯惇、夏侯淵、曹洪、劉虔(りゅうけん)らも出て来て同じく拱手したのを見て


「今から炊事をし。明け方になる前に兵は銅銭を咥え(口を開けば銅銭が落ちるからこの状態では話す事が出来ない)馬は蹄を布で包み静かに東の要塞へ向かえ」


曹操も甲冑に袖を通し自ら先陣に立つ事にした。

はっきり言って曹操は武力こそ低いが先陣に立つ事で自軍の士気を高める事を誰よりも知っていた。


「主公も天才なり、これ程の計画を短時間に思いつくとは感服感服!」


程昱が感激しながら呟くが隣の荀彧はそれに応じず何かを思い詰めていた


「文若どうかしたか?」


そう聞かれて荀彧は口を開き「少し引っかかる事がある。主公は確か夕方に大才を見つけるまで守りを固めるだけと言ったはずだ」


それを聞いた程昱「主公は兵法を熟知しこれくらいの策を練り上げても何もおかしくは無いはず。」


「考え過ぎかな、主公は常に警戒心が強く。全軍総出の危ない橋を渡るのはなんと言うか…らしくない…」


程昱「言われてみれば確かに……」


二人とも曹操に付いてから長い時が経っているある程度曹操の性格がわかるようになっているこれまでにこれ程の危ない策を使ったことがなかった


荀彧「もしや…」

程昱「もしや?」

荀彧「もしや手紙を置いた人と合ったか…?」

程昱「あの噂の人か?」

荀彧「ふむ……主公のみぞ知る事。今は結果を待つしかない」


明け方日が昇る前大軍が静かに出動した

曹仁を主将に据え三千の騎兵と七千の歩兵

この時代では戦馬は兵士以上の価値を持っている。


東の要塞に着くと夜が空けようとしている薄明るい中で守衛の姿も見えなく、明らかに油断しきっている


「諸君!要塞の中に我らの敵が眠っている、昼間に殺された同胞たちの仇をうちとれ!」

と曹仁が全軍の士気を高め更に大きい声で

「かかれ!」と一喝


曹仁、于禁、楽進三人はまるでナイフの刃先のように要塞に差し込み。まだ寝ぼけている呂布軍の多くは上体しか起こしてない状態で喉を掻っ切られ血煙を撒き散らし死んで行った


守衛所の角笛が鳴り響いた時は既に遅く、奇襲は一方的な虐殺へと変わった。

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