第48話 新・慎重派
このままラウンジに降りてもいいものか?
歩み出すことを嫌った両足の命令に従い、私は
肩の力を抜いて扉に背中をあずけると、すぐに
彼女が
『コッタは風呂の使用を覚えた』。昨日の時点でメイドから仕入れることができた情報だ。彼女は正しく
けれどもここに来て生じた
室内に戻るべきなのか……。いやいや……。ここで戻ったら室外まで出てきた意味がない。
だが本当にそう言いきれるのだろうか……。風呂の設備が幼女の理解能力を超えている可能性……。無いとは言い切れない痛ましい状況……。
この宿屋の設備で
蛇口を捻る順序は逆でもいい。いいと言えばいい。だがそういった慎重な操作が求められる場面に混入しているルーズな手順が気に入らなかった。
技術的に発展している
紳士的な退出を決めこんだ私は、
だが熱湯が当ったくらいでコッタは
いたとしても彼女には非常に尋ねにくいことではあるのだが……。捨て子である彼女に、苦痛についての質問はできそうもなく……。
コッタからの救援要請を聞き逃す可能性があるのではないだろうか? 私はすぐにでもメイドを呼びに行くべきなのか?
移り変わる
もしコッタが順調に作業を進めているなら『どうしてメイドを呼んだのだ』ということになる。特徴的な彼女の口調がこんなセリフをそのまま作ることはないのだが、私はそのような視線を
その音は私に安らぎを与えた。『待て』の命令が絶対的なものに変化する。メイドを呼び出しに行く必要性もただちに
コッタは実はしっかり者だ。
年齢のわりに……という
あのおぼろげな半分目蓋は見た者に浮遊感をもたらすのだが、そういった気持ちをコッタの
ベストな処理手順だ。オネショの
ここは彼女を信頼を寄せるところだ。気の回しようが湯の調節に失敗するような浅い不注意から遠くかけ離れている。
ただし私は、この場所から立ち去りロビーに降りようとも思わなかった。試練の中にいるコッタに向けて、ここからエールを送りたい。付かず離れず、これくらいの支援体制なら許されるはずだ。
けれども――だなぁ……。
こればかりは除外できないという種類の空想が、私の心の中で生まれようとしている。
それは活動時期に入った幼女に避けがたい形で定着している〝
私の想像の中へと侵入を
私は清潔な応援ばかりに時間を費やすことができず、これから元気をなくしそうなコッタを思うと、今度は心が窮屈な感じで奇妙な痛みをともなう。言ってしまえば
たとえお
洋服は
そうだろう? コッタ?
あとでメイドに『ごめんなさい』するにしても、その前に私からコッタになにか言葉をかける必要があるかもしれない。
この先にある〝
『大丈夫だよ。オネショなんて小さな頃には誰にでもあることだ』
こんな感じだろうか?
『おねしょくらい可愛いものなのだよ』
ダメだ。上昇気流に乗せると気色悪くなる。ロリコン精神は
『明日から注意しよう』
この発言は悪しき
……。なにも……言わないのが……
例えばメイドを先行させて、
それくらいのことはすぐばれる。特に今の幼女コッタの実像は――
だが大人の
ただ……。善意はどこにあるのだろうか……?
コッタの
今のコッタは〝
今はこのように想定すべきときかもしれない。
不幸を連想するしかない状況は、大人にとってもつらい状況だ。しつこい
そろそろ誰か救いの手を差し伸べたほうがいい。時間をかけたせいで深みに落ちていく不安というものはある。深き森で、
誰かがそばにいたほうがいい。そんな時はあるものだ。
私はノックの位置について扉を軽く
コッタからの返事はない。
まだ風呂に入っているのか? それとも
時間は
私はそう考えたし、そうとしか考えられなくなっていた。
共鳴のときは避けようがないのだよ……。
私は再び扉をノックしてみた。
返事はない。ノックしておいてなんだが、私はしつこい
扉の向こう全体は、いわば幼女の
――コンコンコン――
私は扉をノックした。
返事はない。
――コンコンコン――
私はもう一度扉をノックした。
そしてさらに私がノックを重ねようかというところで、
「ディートリッヒ様。おはようございます。いかがなさいましたか?」
「……」
私は言葉を失っていた。
黒髪のメイドのそばには金髪のメイドも控えていた。廊下を歩いてきた二人分の大気のゆらぎは、数秒前から確かにそこらに
ぜんぶ見られていたのだろうか……。
5回も連続でノックするなど、トチ
外面だけは整っていたはずだ。悪い意味で真面目にノックしていたはず……。
冷静な――ともすれば
「多分、コッタが
新月のような静けさで黒髪のメイドが真偽の確認をしてきた。
「粗相……。オネショということでしょうか?」
「隠そうとしていたから、素知らぬフリをして出てきたんだ。実際のところは何も見てない分からない。だけどなんとなくそんな気がして、ともかく手を焼いている。少し様子を見に行ってくれないだろうか?」
「かしこまりました」
事なきを得たように感じられる。私は異常者の烙印からは逃れられたようだ。
メイドの二人は頼ってしかるべきロリコン・ストッパーでもある。この私があらかじめ
黒髪のメイドがドアノブに手をかけたところで、私は思い出した。
「扉の
私の言葉を受けてから少々相談した二人は、
メイドたちからしたら『鍵も持たずに出てきたのか』という非難が内々にあっただろう。けれども二人は不快感を少しも表に出さずに段取りをつけた。
メイドを職業にしようと選んだ者であっても、オネショの後片付けは
だが喜んで対処を
「すまない」
「心地良くお休み頂けたのなら、大変よろこばしいことです」
なんとも言えない返答に、視線を落とす。
……。が……。……?
そこには
私は自分の
だが
「これは……?」
理解のための知力を総動員して働かせても、私はその水に実益のある解釈を付加することができなかった。
ゆえに私はその水が良くないものだと断定した。なにせありえないことだ。床と扉の間から水が染み出てくることなど
水は良くないもの――結論はそれだけで
動き出すための理由が満たされた私は、非常事態への
ゾーン――体感時間の
私は世界のスピードを最大限に支配して、実時間による世界進行よりも有利な
そのせいで私は
ロリがロリコンに
それが時間の延長という献身的なサポートを受けて荒れ狂い始めた。彼女のためにという
どこかで
オネショの処理に困ったコッタが見たいという欲望が、もはやそれゆえ何かを勘違いした純血種のようなキラメキをもって、私の心の中で
〝ガラスの
その瓶は邪悪なものだ。
理解に苦しむ速度で空想の世界に登場したそのラベルつきの
――我は聖水を求めるロリコンである――
――我は聖なるロリコンである――
前者の声が圧倒的にデカい。そして
だが私とてゆるぎない精神強者だ。ここまで全てを認知できている。ゆえに清らかな心にだけ染まろうと、空想世界にあるビンを
コッタのもとへと
――聖水の
そして壁を〝
――封入までに要する聖水の蒸発を
あらゆる
けれども私は、扉を小さく壊すという発想に行き着いた。
意思決定に尋常ではない速度を費やした私は、最小の破壊行為――つまり
「破るぞ」
メイドの返答を待たずして、私はみずからの右手を
その風属性の魔法で生成したものは、手刀の先に連結する
私は
必要以上は壊さない。特に
すべての意図を精密に再現することができる
ギャッ――。金属に走る
手ごたえありだ。
そして私はロリへの
戦うために覚えた魔法。戦うために身に付けた動作。そういったものが――つまりはかつてモンスターを散らすために習得した技術たちが――もっとも強引に私を正常な精神状態へと引き戻していた。
【幼女育成】 ギルドランキングを駆け上がるとつぶやいた彼女とかつて1位の冒険者 くもきりかはる @HarukaSirakaze
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