第47話 慎重派とタライ派
暗闇の中で私のような
「ルーク?」
おそるおそる……、コッタから小さな声だけが
「んん~」
寝起きの声を装った私は、ソファをきしませて体を起こそうとしたのだが、そんな所で扉が閉じる音がした。
コッタは寝室へ帰ってしまったようだ。こちらに来る気配がない。
おしっこではなく〝私の所在〟が心配になったのだろうか……。
私はコッタを捨てたりしない。森で交わした誓いの
コッタが声を出していた方向には、ソファーが
私は起こしかけていた体を元に戻した。近くのロー・テーブルの上においていたサイドパックへと手を伸ばす。片手で
コッタに限らず幼女の中には早起きの者ものいる。けれども
私はもう
瞳を閉じたあと、どれくらい経過したのだろうか?
寝室の扉が再び開いた。カチャリと聞こえる。
「んん……」
私が存在感を示す声を上げた途端に扉は閉じた。バタンと。静かな部屋に良く響く。
コッタはちょっと騒々しいところあるから、もしかしたら待機状態の維持にしびれを切らしているのだろうか。だが、私が眠っているようだから遠慮している。だとしたら私は起きたほうがよいのだろうか。それともやはり夜の間に置き去りにされることを心配しているのだろうか。
私は
コッタにとっては慣れない生活かもしれないが、私が彼女と一緒に眠るわけにはいかないので、明日からはメイドに
私は幼少期から一人で眠っていた。ゆえにコッタにも当然のようにそうさせてしまった。なんなら私が隣の部屋にいるということも、彼女を安心させる材料としていくらか
私はまた横になった。
コッタによる扉の開閉運動は、5時くらいの時刻にも発生し、5時半にも聞こえた。私はそのたびにゆっくりと体を起こしたのだが、彼女は私が気配を出すとすぐに扉の向こうに隠れた。
6時のときには、流石の私もソファーから完全に身を起こした。
何かがおかしい。
私はコッタの寝室の扉の前にまで移動して、ノックをしてみた。
「コッタ、何かあったのか?」
「……」
「コッタ、入ってもいいだろうか?」
「ダメ」
声のぬしであるコッタは扉のすぐ向こうにいるような気がする。コッタにしては大きめの声だったと思う。
本来は心に
拾われてから
なにも恥ずかしいことじゃない。
数々の
だがここで『コッタ。オネショなんか気にする必要はないんだよ』と、ぶしつけに言って良いものなのだろうか?
確かな証拠がない。けれども私は
私は鼻から吸引する空気に感覚を
無能な
アレは夜の闇を怖がっていたのではなく、孤独を恐れていたわけでもなく、悪さをしてしまった、という感じだったのだろうか? 悪くなどチっとも無いのだが、それはさておき、多分、コッタはずっとオネショの
普通の大人ならばコッタの気配に寝息を立てたままだ。横を素通りしてお風呂に向かうことができる。なんなら〝このテーブル〟にあるお着替えだって入手することができたかもしれない。
だが
コッタにとって
丸いオネショの
クッッ……。メイドを呼ぶべきか。この
偽善という名のしたり顔でコッタのパンツを洗おうとしている私がいる。二人でタライを囲って洗うのだ。水をためてパジャマとパンツを浮かべてジャブジャブと。お洗濯のレッスンの始まりだ。
クソッ。きっと楽しいに違いない。私はいったいどうすれば……。
私は窓の向こうの
不意になにかが染み込んで来た。それは昨日の夜に得た
私が洗濯に着手すれば、私は狂ってしまう。ゆえにこの問題はメイドの助けが必須である。
もう一度繰り返そう。
この問題はメイドの助けが必須である。だがすぐに答えに飛びついてはならない。軽はずみな優しさはコッタを傷つける。
冷静になった私のもとには、あらゆる風景を見通す思考の機能も戻ってきていた。
コッタが遠ざけておきたい者は、なにも私に限った話ではないのかもしれない。今のコッタはすべての他人を遠ざけたいのではないだろうか? 女のメイドと言えど、オネショの
すべての目撃を避けることはできない。だが今の段階からでも
本当は全て助けてやりたいところだが――。
コッタは風呂の使い方は覚えているのだから、まず私は大人しく退室するべきだ。そうしてコッタのお着替えがスタートする。残ったシーツや汚れたパジャマとかは、朝食の準備のために到来するメイドに、私といっしょに『ごめんなさい』してキレイにしてもらう。
なにも頭から全部見てもらう必要はないはずだ。『こんなことがありまして……』という流れの中に身を置いたほうが、コッタが感じる羞恥心は減るだろう。
うむ。完璧なのでは? 築きあげたタクティクスに
私は最後にその精度を確かめておくことにした。
「コッタ、聞こえるだろうか!?」
聞こえるくらいの大きさで私は扉に声をぶつけた。
「うん!」
こういうところでしっかりした良い返事をするあたり、コッタはなかなか
いいじゃないか。頼もしい。
愚かな行動を避けたことで、私は心地のよい彼女の声を聞くことができていた。
「私はラウンジでコーヒーを飲んでこようと思う! コッタも来ないか!?」
「……」
行きたい気持ちはあるのだろう。だがそうそうと出てくるわけにもいかない。返事が沈黙になった理由は、そんなところだろうか? すぐに二者択一の結果に進まない。分かれ道の手前で悩んでいるなら見守りたくなるし、簡単に投げ出さない姿勢としても評価できる。自身の希望をすぐに
「では、またしばらくしたら戻ってくる! あとで一緒に行こう! それで良いだろうか?」
「
コッタの返事が高めのトーンで私に届いた。彼女の状況が改善に向かったかのようだ。やはり今の私は
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