第1話 邂逅

あれから4年経った。

僕が逃げてからすぐに戦争は落ち着いたらしいが、まだ各地で小競り合いが続いてるらしい。

お姉さんとは会うことが出来ていない。

でも、生きているはずだ。

お姉さんは強いから。

「おい、θ。さっきから上の空だが大丈夫か?」

そう呼びかける声で僕は現実に戻された。

「大丈夫ですよ、響夜さん」

今の僕は貧困地域に支援物資を届ける仕事をやっている。

逃げていた僕を拾ってくれた響夜さんが誘ってくれたのだ。

「ならいいが、無理はするなよ。」

車の運転を響夜さんがやって荷物が倒れないように支えながら、後方の確認をするのが僕の仕事だ。

荷物の中には割れ物や刺激を与えると爆散するものがあるので、この仕事は思っているより重要らしい。

ゲリラ化した住民たちが襲ってくる可能性があるので後方も見ている。

実際に襲われたことはないけど…

荒野を走る一台の車を照らし尽くす太陽。

日の光が窓から入ってきても関係ない。

僕らは届けなければならない。

同じ境遇の子どもたちを居なくするために。



「今日はここにするぞ。θ、荷下ろしするぞ。」

「もうしてるよ。響夜さんは少し休んでていいよ。」

「おっ、ではお言葉に甘えて。10分経ったら起こしてくれ。」

今日の配給場所は僕の生まれ育った街、K貧困特区だった。

もう一度訪れたいとは思っていたが、このタイミングで訪れるとは予想していなかった。

ここの地区は帝国の中でも捨て子が多い地域で大人たちが毛嫌いしている。

でも、僕にとってはたった一つの故郷に帰ってこれたという事実だ。

周りがどうこうという問題ではない、自分がどう思うかだ。

荷下ろしをしていると、建物の隙間から、子供達がこちらを覗いていることに気がついた。

「響夜さん、15分経ちましたよ。あと、子どもたちが見てますよ。」

子供の対応にはまだ慣れていないので、ぐっすり寝ていた響夜さんを起こす。

「おっと、寝すぎたか。サンキュー、θ」

慣れた手付きで車の上の空洞から顔をのぞかせ、ほくそ笑んだ。

「僕が居なくて今までよく出来てましたね。」

「殺気には人一倍敏感なのよ。そんなことより配給するぞ。」

この人にはついていけないや。

でも、一緒に居て楽しいと思える。


今日配給した弁当は、チキン南蛮弁当だ。

偶々手に入ったらしい。

それにしても子供の数が多い。

昔居た時の軽く3倍は超えている。

それは響夜さんも感じていたようで、

「なあ、θ。」

「なんですか。」

「流石に多すぎないか。」

「はい、僕が居たときより断然多いです。でも、環境下は良くなってる気がします。」

「確かにな。この人数が居て、この綺麗さを保てているのはなんか変だな。

ちょっと聞いてみるか。」

流石は「beast of action」と帝国軍に呼ばれているだけはある。

なぜ帝国軍にそう呼ばれているかは知らないけど、深掘りはしないほうがいい気がした。

「θ、なんとなく分かったぞ!」

響夜さんが自信アリげに僕を呼んだ。

響夜さんには不安しかないが、聞いていた綺麗な服の子はなんだかちゃんとしてそうだ。

これは少し期待ができそうだ。

そう思い近づいていき少年の顔を覗き込んだ。

きれいな青い目だ。

見とれていると少年が急に、

「そのピアスどこで手に入れた?」

と威圧的に聞いてきた。

威圧的にと言っても可愛く思えてしまったが…

だから、平常心で

「僕の大切な人から貰ったんだよ。」

「そいつは今どこにいる。」

口が悪いのでぶん殴りたくなったが、ここは大人な対応をして

「4年前にあってから1度もあってないよ。なんで君はそんな事を聞くの?」

純粋に気になったので聞いてみた。

「それは旧体制時のアーティファクトだからだ。」

「…それで?」

確かにお姉さんもアーティファクトらしきものを使っていたけど、詳しいことは聞いたことがない。

「それをよこせ。俺は帝王の18番目の子供で早く武勇を作りたいんだ。お前のような馬鹿が持ってても何にもならないから、この俺g…」

「黙れやこのクソガキ!」

クソガキがうるさすぎて炎で焼き尽くそうかと考えていたが、それより先に響夜さんが少年を吹き飛ばしていた。

今まで響夜さんが子供に対してこんな事をしたことは無い。

正直衝撃波でちびりそうだった。

「ずっと黙って聞いてたけどよ、何だその態度!調子に乗んな。王族やら不倫して生まれた子供だか知らんが、物事を頼むには礼儀が必要やろ!そんなん無しで人に頼むのはありえんで!」

「ちょ、流石にやりすぎじゃないですか。」

「別にいいと思うぞ。それにほら、某警察官みたいにピンピンしてるだろ。」

響夜さんが指差す方には壁に刺さったクソガキが足をバタつかせていた。

「リザ系の能力か…」

「殴りがいがあるな。」

「でも、相当痛いですよ。リザ系だとしても直前の痛みは残りますよ。」

「じゃあ、断末魔の聴き放題は…」

「出来ないし、やんないでください。」

くだらない話で盛り上がっていると、ついに壁からお尻が出てきた。ズボンが少し下がっていたので、上げようとしたら可愛いくまさんパンツが目に飛び込んできた。

「くまさん…」

「おい、それ以上言うな!」

ガキが叫ぶが、俺は一眼レフカメラでしっかり捉えた。

意外とうまく取れたので響夜さんに見せたら、腹を抱えてその場に崩れ落ちた。



「おい、お前らについていかせろ。」

急にこう言い出したガキ。

「理由はなに?」

「くまさんパンツを見られたから。」

理由を聞こうとしたら、響夜さんが爆弾を投下した。

言うまでも無いが、笑ってしまった。

「お前の大切な人にあってみて、なぜアーティファクトを持ってるか聞きたいからだ。あと、強くなりたいから…」

最初の方は声を大きく言っていたが、最後の方は黒い飛翔体のカサカサ音より小さかった。

でも、響夜さんには聞こえたらしく。

「面白い。ただし、大変だぞ。」

「こいつでも行けるんだから、俺でも行けるさ。」

なんかディスられた気がしたが気にしない。

「そういえば、名前は?」

「ダレン・ダルトワ。」

「皇帝の性が無いじゃねえか?」

「やっぱり隠し子だね。」

「あ、確かに。」


昼の明るさは闇に飲まれ一輪の光る花が咲く。

照らされし宝具は美しさを保ち、持ち主は髪をなびかせ風上に立つ。

そして一言

「起動、九連蓬莱。」

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