Last order
@kelpia
第0話 物種
「少年よ、最後のお願いをしていいかい?」
お姉さんはそう言い、俺の顔を覗き込んだ。
その目は俺へ向ける敬意と悲しみの色をしていた。
「何をして欲しいんですか?」
「文化祭でやるはずだった劇を見せてくれよ、君が主役だったんだろう。」
「そうだけど、なんで見たいんですか?」
お姉さんは直ぐには答えず、廃ビルの間を抜ける風の音がよく聞こえる。
風が止んだとき、笑顔でこういった。
「少年の輝きを最期に焼き付けたいからかな…」
言葉を行っている最中にお姉さんは僕の前にある瓦礫の山に腰を下ろした。
俺は無言でちょうど日の光が当たるところに移動し、自分の役の一番の見せ場である舞を舞い始めた。
体から汗が吹き出している。そんなことは気にしない。
大切な人のために一心不乱に舞い続ける。
優しい眼差しがときより視界に入る。
その眼差しが見ているのは俺だけではない気がした。
「ふっ…カッコいいじゃん」
正直褒められて嬉しい。
嬉しくなっていることが分かったのかお姉さんは
「喜んでも何も出てこないぞ。」
「いや、期待は元々してませんよ。でも…」
少し遠慮がちに言おうとしたけど、
「初めてのお願いでしょ。なんでも叶えてあげるよ。」
と言われてしまったので、勇気を出してこういった。
「花火が見てみたいです!」
「ほう、花火か…」
お姉さんは少し考えたあと
「少年がここからでて、10分後にたくさん打ち上げてやるよ。だから、精一杯見やすいとこまで走るんだな。」
俺は気付いた…
これでお別れだと。
そう思うと涙腺が緩くなった。
「気づいたか?でも、泣いてない少年のほうがカッコいいぞ。」
と言いながら、一つのケースを俺に差し出した。
「これを私のかわりだと思って持っとけ。成長できたなと思ったら開けてみろ。これが最後の課題かな。」
お姉さんは笑いながらこういった。
俺は涙を拭いて、ケースをカバンの中にしまった。
そしてお姉さんの方を向いて
「今までお世話になりました。行ってきます。」
とだけいい、山の方へ駆け出した。
「死ぬなよ、少年…」
少年は私に感謝しているみたいだが、こっちだって感謝したい。
少年が居なかったら今私は生きていないだろう。
この世界に失望したからだ。
皇帝の魔物きらいが暴走して、今までともに暮らしていた魔物と戦わないといけなくなった。
私は魔物と人間が共に通う学校の外部講師だったので、魔物を殺したくなかった。
だから、魔物を守っていた。
でも、少年を除き皆いなくなってしまった。
一人だとしても守りきりたい。
それが達成されたとき、私の生きた意味が成立する。
たったそれだけのことだと思うだろう。
私にとってはそれしか生きがいがなかった。
それだけだ。
少年が出てから5分くらいたった。
一区画前を中心として風が私にまとわりついた。
「ちっ…ウランか…匂いが嫌だな…」
この区画の存在を消すつもりか。
少年には加護を掛けたから平気だが、一般人には十分致死量だ。
「さて、少年よ、文化祭の後夜祭が始まるぞ。」
私は大通りの真ん中で仁王立ちになり、帝国軍を待つ。
自分がどんな顔をしているか分からないが、笑っていることは確かだ。
帝国軍の戦闘部隊が私を見つけた。
「貴様は何者だ!」
「分からない。」
「なら、住民カードを見せてくれ。」
「無くした。」
「覚えてることは?」
「一つだけ。私は世界の反抗者だ。」
呆れ気味で私に質問した一人の兵士。
次の瞬間、空を舞い、爆散した。
後ろに控えていた兵士たちから弾幕が飛んできた。
「遅いよ」
私が手をかざすと、弾幕は物理法則を無視して、その場に落ちた。
兵士たちが困惑しているので、容赦なく最初の兵士と同じ道を辿らせた。
私が使っているのは、化変動粒子弾tp2=5.1という古代兵器だ。
こいつは、所有者の寿命を減らすことで起動する。
属性で言うと風属性で、帝国兵とは相性が悪いが、私の魔力の色は赤。
よって、プラマイゼロだ。
「まだ、負担という負担はないね。」
久しぶりに使ったが、寿命が減る感覚はない。
前は、衰えをよく感じたけど。
そう気楽に考えているのも束の間だ。
「あの旗は…第1部隊…面倒だな。」
何故か知らないが、帝国軍の最高戦力が目の前の山に列をなしていた。
「外道だが早く終わらせてやる。」
2=5.1を使い空を駆ける。
「多すぎないかな…」
あまりの兵数で苦笑いが出てしまった。
でも、時間を稼ぐ、それだけでいい。
「壊してやるよ皇帝、いや父さん。あんたの忠犬たちを!」
叫んだせいで、狙撃兵に位置バレしたが、既に2=5.1は敵を捉えていた。
「爆ぜろ!」
華麗な花火が炸裂する。
だが、お構いなしに弾幕が私を襲う。
流石は第1部隊である。
「居すぎでしょ、流石に。」
何分経ったのだろう。
空気が黒く染まり始めているが関係なく弾幕は張られている。
これくらいなら余裕だと思った瞬間に眼の前に斬撃が飛んできた。
「これを避けるとは…」
「あんたも宙を受けるんだ、隊長。」
「貴方様をこの世から抹消するためには手段を選びませんよ。それにそろそろ精神的体力が限界を迎えるんじゃないのですか。」
確かにおかしくなってきている。
でも、こいつだけは殺す。
「シカトですか。なら、貴方様の剣に聞きますね。」
そう言い隊長は切りかかってきた。
「ゲホ…ハアハア」
体が思うように動かない。
それは私だけではない。
隊長も浮いてるだけで辛そうだ。
下に居た10師団のうち8師団は壊滅している。
「貴殿に問う。なぜここまでして我らを止める…」
「少年を守りたい、それだけだ。」
「ふっ…少年を思う気持ちか…私の負けだ。煮るなり焼くなり好きにしろ。皇帝には完敗したと伝えておくように言っておく。」
「なら、今生きてる兵を最大限助け…」
言いかけの状態で私は物陰に隠れていた魔物の子供が、射撃手から狙われているのを見てしまった。
そして、気づいたら2=5.1の出力を最大にし、子供に覆いかぶさるような体勢になった。
銃弾の鈍い音が体内で響いた。
2=5.1は作動しておらず、心の臓の中心で止まったおかげで、子供に流れて…ない。
意識…もう…として…た。
こ…がぶ…でよか…た。
……、あい…名……んと…よば…たな。
さい……らを…ふり……り……ひと…いう。
「少年…元気でな…」
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