とある少年の話
『お前なんか産まなきゃよかった!』
(そんな言葉を聞いたのは何度目だろう。)
『人喰い魔女のいる森に行ってとっとと死んじまえ。』
そんなわけで、嫌われ者の僕―――上元 系(うえもと けい)は人喰い魔女がいるという噂のある森、マヌルートを訪れている。追い出されたわけじゃない。ただ、このまま生きていても仕方がないと思っただけだ。
普段人が訪れない場所であるせいか辺りには草が無造作に生えている。やはり、人喰い魔女のことを皆恐れているのだろうか。
(でも、そんなのおとぎ話だろう。)
たとえ魔女がいなくても僕はこの森で死ぬつもりだ。帰る場所なんかないから。
(あれ?小屋がある…誰か住んでいるのか?もしかして、人喰い魔女かな。)
人喰い魔女ならとっとと殺してもらおう。僕はその小屋をノックした。
「すみませーん、誰かいませんかー?」
いるわけないよな、こんな人の気配がない森だし。
そんなことを考えていると、
「はーい!どうかしましたかー?」
そう言いながら一人の女性が出てきた。
まさか、こんなところに人がいるとは。
僕は驚きで何も言えなかった。
「どうしました?もしかして、迷子ですか?」
その様子を見た彼女は不思議そうに首を傾げながら尋ねてきた。
彼女が何者なのかという考えが頭を支配していた僕は、
「まさか、あなたが人喰い魔女…!?」
うっかりこう言ってしまった。
すると彼女は大層驚いたような顔をして、
「人喰い!?確かに私は魔女だけど人なんて食べないよ!?」
と、叫んだ。
反応を見る限りどうやら彼女には人を食べるという趣味はないらしい。
「人喰い魔女じゃない…?」
僕は恐る恐る尋ねる。
彼女は手を腰に当てて、
「初対面の人に向かって失礼だなー。なんでそんなことを言うのさ。」
と頬を膨らませて抗議する。
なんで、って言われてもなあ。
「僕がいた村の人がこの森には人喰い魔女がいるって言ってたし…」
「えー、私そんな奴だと思われてんの?ないわーマジないわー。」
彼女はわざとらしく肩をすくめた。
「えーと…」
反応軽すぎじゃない?と思ったが心の中に留めておこう。言ったらめんどくさそうだし。
反応に困る僕をよそに彼女は
「ん?それなら、君は何の用があってこの森に来たの?人喰い魔女の噂を知って森に入るなんてよほどの用事じゃなければしないでしょ。」
と質問してくる。
「いっいや、特に理由は、ない、です。」
変な汗が流れる。目的を知られたところで何の支障もないはずなのにどうして隠してしまうのだろう。
彼女は目を細めて僕を見つめる。
「ははは、魔女に嘘は通じないんだよなー。…ふーん、自殺しに来たのか。」
え?
「なっ、なんでわかるの。」
「魔法で心の中はお見通し!普段はあまり使わないけど、君があまりにも答えに詰まるから気になってついつい使っちゃった!」
じゃあ、殺し…
「嫌だよ。そんなつまらないこと。それよりさ私の助手になるってどうかな?」
はあ?
「助手?」
何をするんだ?
「そう!この子たちと一緒に薬草とか集めるの。」
と言うと彼女はウサギやニワトリなどの動物を呼び寄せた。
なるほど、確かに良い提案かもしれない…でも、
「僕にはどれが薬草とかわかりません。」
知識がないなら助手にはなれないだろう。
「それはこの子たちが教えてくれるから問題ないよ!」
<うん!僕たちに任せてよ!>
彼女の側にいたウサギが喋る。
「しゃっ喋った!?」
ウサギが話すことに驚く僕には気にも留めず彼女は話を続けた。
「帰る場所があるなら帰っても良いんじゃない?ここでの自殺は気分が悪いから魔法を使ってでも止めるけど。」
帰る場所がないこと知ってて言ってるだろこの人。それなら答えは一つしかない。
「…助手にさせてください。」
「オッケーオッケー!契約成立!じゃあ、君の名前を教えてくれたまえ!」
と彼女はふざけた口調で名前を聞いてくる。
それくらい心読みなよと思いつつこれも礼儀かと僕は姿勢を正して、
「上元 系と言います。」
と名乗った。
「了解!ケイ!これからよろしく!」
手をひらひらと動かして彼女は挨拶をする。え?そっちの名前は?
「えーと、貴女の名前は?」
「教えなーい。」
<彼女はセナって言うよ!>
ふざける彼女に代わりウサギが答える。
「こらー!なんで言うの!」
<だって僕たちはセナを呼ぶときはセナって言うからどうせわかるし。>
何かのキャラみたいにわざとらしく怒る彼女に対してウサギは冷静に対応する。このウサギの対応は見習った方が良い気がしてきた。
それはともかく、
「よろしく、セナ。」
「まあ、良いか。うん、改めてよろしくね、ケイ。」
他称:人喰い魔女の日常 お茶漬けサラサラ @ochazukesarasara
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