エピローグ

 少女の生きる世界は狭い。

 これと言って状況は大きな変化を見せなかった。

 大義的な意味においては。

 少女の体感としては大きな変化が起きていた。

 件の二人が手のひらを返したように、あからさまに少女に対していい顔をし始めたのだ。とは言っても一定の距離を置かれながらではあるのだが。

 表面上、邪険にされずに済んだことは少女としては大きかった。

 だがそれでも彼女の心の奥には二人の残酷な言葉が突き刺さったままだ。

 と言っても、二人が心を入れ替えたとでも言わんばかりの改心ぶりを見せているのは悪くない気分だった。

 反省してくれたならそれでいい。

 そんな気持ちがどこかにあったのも嘘ではないのだ。

 昔のように戻ろうだなんてもう思えないと言うところもあり、波風立たずそれなりに平和が保てていると言うのは彼女にとっては大きな変化かつ、僥倖なことだった。

 彼女は新しい世界に向けて足を踏み出している。

 今まで関わりを持たなかった別の人間と関係性を構築しようと今必死なのだ。


『強く生きよ、折れずにな』


 あの店主の言葉は効き目抜群だった。

 自分自身を変えるきっかけとなった、子供のような姿をした決して子供ではないあの店主とは二度と顔を合わすことはないだろう。

 それでも少女は、少女ではなくなってもずっとあの店主の言葉を胸に、そして感謝の念を胸に、生きていくのだ。

 相変わらず生きづらいこの世界で。

 己の罪と、己の不足を確かに感じながら。

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『呪い屋』と億劫なる乙女 つぐい みこと @tsugui_micoto

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