最終話

「ひらちゃああん!」

「わっ!え?古橋ちゃん!?」

 あの日の帰り道俺は古橋のことを完全に忘れて帰ろうとしていた。まずいな後で怒られるんじゃ?

「ホントに、ホントにごめんね!中学くおうの時ぃに私ぐああ、無視してなけれゔぁ」

「お、おい古橋。一回落ち着け」

 古橋は泣きながらひらに抱きつくので何言ってるのかはイマイチ分からない。

「だ、大丈夫だよ。私だって見て見ぬ振りしちゃったから」

「ねええ、ひらちゃん。もう一回友達にぃなってぇ!」

「だから落ち着けって」

「うん。古橋ちゃんも友達」

 ひらは古橋の手をギュッと握る。

「ありがどううう!」

 古橋が泣き喚いている時、後ろからひらの妹が歩いてきた。

「姉ちゃん」

「あっ、さら」

 ひらの弟はなんだか恥ずかしそうにひらに近づく。

「ごめんなさい!」

「……え?さら?」

 ひらの弟はこれ以上出ないくらいの大きな声を出しながら深く頭を下げる。

「俺、姉ちゃんがずっと楽してるのかと思ってた。でも分かったんだ。決して楽なんかしてないって」

「……さら」

 ひらは妹の頭を撫でる。

「ありがとさら。めっちゃ嬉しい!」

 さらは顔を赤くして逃げようとする。

「あ、そうださら。瑠希にちゃんと謝った?」

「は?何で?」

「何でってさら瑠希のことを悪く言ったりしてたでしょ?知ってるからね」

 弟は「まじかよ……」と言って俺に身体を向ける。

「はいはい、ごめんね〜」

「ちゃんと!」

 ひらは弟の頭をグリグリする。

「イタタタタ、分かったよ!」

 そして弟は正座をして地面に手を着く。

「本当にごめんなさい……」

「い、いや俺の方こそ強く殴っちゃったし、ていうか大丈夫?」

「大丈夫。後で慰謝料請求するから待ってろよ」

「マジか!」

 それを見たひらが「こら、さら!」と言う。

 俺は2人の中に入ってい「まあまあ、落ち着けって」と止める。

「じゃ私達そろそろ帰るね」

「ああ、ひらまた会おう」

「うん、瑠希も元気でね。また小学校ときみたく遊ぼ」

「おう」

 俺達は互いに手を振って別れた。



 あれからもう半年が過ぎてひらも忙しかったから会える機会は無かった。しかし、今日送られたメールにはこうあった。

『今日、あの公園に来て。渡したいものあるから。あ、来れなかったらそん時は連絡してね』

 俺は気付いた。そういえば今日、バレンタインだってことを。そしてひらが言っていた「渡したいもの」これはほぼ100%チョコ!?

 よっしゃあああ!

 いや待て落ち着け。ひらってめっちゃ天然だから今日バレンタインってことを知らずに呼び出したのかも。嫌だそんなバカじゃないかあいつ。いやでもどうしたら……。

「さっさと行けよ」

「お、さら」

「だから下の名前で呼ぶのやめろって」

「西出って呼んだらどっちかわかんなくなるじゃねえか」

 何故か最近さらとよく会う気がする。

「ほら、姉ちゃんもう公園で待ってるよ」

「なあ、ひらの渡したいものってなんだ?」

「俺も知らないよ」

「……はあ、そっか。仕方ないじゃ行ってくるよ」

 俺は自転車に乗って公園を目指す。

 あれから俺は友達が増えてまた小学校の時みたいな生活を送っていた。卓球もなんか上手くなって、成績もなんだか上がった。

 俺は公園に着いて自転車を停める。すると東屋の中にひらがいた。冬服の制服を着ていて可愛らしいデザイン。

「おまたせ」

 俺はひらに向かってそう言うとひらは慌てた様子で「うわ!うえ!……ちょ!」と言う。

 あれ?これってあの時と同じ?

「ごめん待った?」

「い、いや大丈夫だよ」

 そしてひらは後ろにあるバックをガサゴソして緑色の紙に包まれた箱を渡す。

「あのこれ。きょ、今日バレンタインでしょ?」

「ああ、チョコ?ありがとう」

 俺は笑ってチョコを受け取る。

「開けていい?」

「え!ああちょ、家に帰ってからならいいよ」

 ひらは緊張しながら言う。さては俺と同じことしたな。

「あ、そうだ。私瑠希と同じ大学に行きたい!」

「え?どうしたの急に」

 ひらは勢いよく立って俺の目を見る。

「私も先生になりたい!」

「……え!?マジで!?」

「うん!だからさ一緒になろうよ」

 俺は心の底から嬉しくなる。マジで?ひらが俺と同じものになりたい?

「あ、ヤバ。私塾だからさ帰るね」

「あうん」

 ひらは公園から出ようと歩きだす。

「あのさあ!」

 俺は大声を出してひらに伝える。

「ありがと!」

 ひらはクルッと回って歯を出しとびきりの笑顔で返す。

「じゃあね!また!」

 手を振りながらひらは自転車に乗り行ってしまった。

 そして俺は渡されたチョコを眺める。緑の紙を剥がしてチョコの箱を開ける。すると中には一切れの紙があった。


『大好きだよ!』


「……ひら」

 俺は思わず笑みが溢れる。

 ひら、例えその言葉が逆だったとしても俺も君が好きなんだ。

 沈む夕日の前でそう思った。

 

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