エピローグ
「……あ。墜ちたぁ」
エビはQユニットにより、アデュプスがクロノユキに地上に墜とされたことを知った。
「この場合、ゲームを続けるべきぃ?作り主の契約を思い出してみようぉ」
彼女はそう言い、頭の中であるときのことを思い出す。
それは、アデュプスが点Pの先導者と、エビやエツなどのユニットを借りる契約を結んだ時の話である。
「契約書も雰囲気作りで作ってたぁ。そのほとんどは意味のない文言だけどぉ…一つだけ絶対順守の項目があったぁ」
その九割が駄文であるそれの、最後の項目。そこに書いてあったのは。
「アデュプスがなんらかの理由でユニットの監督ができなった場合、ユニットの指示、所有権は作り主に戻る。これは貸出期間を満了していなくとも効力を発揮するぅ」
つまりは、ユニットの創造主である、点Pの先導者にすべての権利が返還されるのである。
「ならぁ。先導者の目的を実行すべきかなぁ。アデュプスは地上に墜ち、多分肉片になり果てたぁ。となればぁ、先導者が最初に与えた命令通り…」
Kユニットの中で復活したエツがエビの言葉をつなぐ。
「世界征服を始める」
…そう。ユニットとは、点Pの先導者が世界征服のため、製作した作品だったのである。そして、彼が巨大な点Pとともに移動していたのは、世界の測量と拠点を建造するため
の地ならし。既に準備は完了していた。
「邪魔者は既に排除している。唯一アデュプスのためだけにつくられた、かき回しユニットのジョーカーだけはこちらに絶対に協力するようには作られていないが…問題ない。今までの主を失ったジョーカーは想像主である先導者に従うしかない。あれは頼るものがなければ生きていられないようにできているのだから」
趣味人による反抗軍は、既に壊滅状態だ。イチョウの攻撃や、無限に復活し、疲労することもないユニットの猛攻に押し負けた結果である。
「ならば。ユニットが一定数回復次第…」
今度はエビがエツの言葉を繋ぐ。
「侵略行動を開始す…」
「糞がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
絶叫が響いた。
直後、直径一キロにも達する炎の球がエビ、エツのKユニットに向かって同時に放たれる。
『!?』
終盤の盛り上げ用にアデュプスに渡されていた、イチョウの完全体を開放するコード。それを打ち込まれ、実質的なパワーアップを果たしていたが故、暴れまわった彼の攻撃が今、両軍のK、Aユニットを焼き尽くす。
『なぜ…アデュプスは死んだ……は』
炎球がKユニットを飲み込み、業火で焼き、砕く。
呟きと共にエツが消える。
『生きていて、もぉ…なぜ明確にこちらを狙…』
Kユニット共に、エビも燃えてヒットポイントが尽き、砕け散る。
その様を遠目に見ながら、イチョウは悪態をついた。
「あのくそ野郎め。人質で脅迫とは卑怯な。僕様以外がそんなことをやっていいものか…!」
▽―▽
無事地上に降りた私でしたが、少しの時も待たずイチョウが無事に帰ってきました(……来なくていいのに)。
アデュプスを地上に墜とした私を、彼は殺すと言ってきました。それを防ぐため、私はアデュプスを使ったのです。
「いいのですか?私を攻撃すれば、あなたの大事な大事な自称神様はそこのシィムルグのおやつになってしまいますよ?準備はいつでもできていますかね?」
「な、なにぃぃぃぃ?」
私はいつになく悪い表情で言うことで、イチョウに本気であると思わせようとしました。
実際にやる気はありませんよ?諸悪の根源ですし、報いを受けてほしいとは思いますが、仮にもお友達を殺害するなんてもっての外です。理由があろうとも、誰かの命を一方的に奪う権利も、それを命令する権利も、私にはないのですから。
…なんにしろ、イチョウは私の言葉を信じ込みました。
「く、く………この野郎!次にあったら殺してやるからな!」
何故かはわかりませんが。彼はそんな捨て台詞を言ったのち、飛び立っていきました。
ストレス発散にでも行ったんですかね?
「ま、もうどうでもいいことですね」
アデュプスの衛星をイチョウ自身に墜とさせた時点で、私の彼に対するストレス発散は完了しています。
そのため、大嫌いな彼のことなんて考える必要もないし、考えたくもないです。忘れるのです。
「さぁて。アデュプスを趣味人の中に捨てたら、日常に戻りましょう!」
私はうっきうっきで歩きます。
邪魔者が消えた今、配達は安全にできます。
依頼を受け取る方法がないという問題さえ解決できれば、私は完全に日常に戻れるのです。
「ふっふっふっふ。今度こそ、完璧に、格好よくお仕事を遂行して見せます!」
私は晴れた空に指先をつきつけ、宣言するのでした。
…ちなみに、それから数ヶ月、数回あった依頼を完璧に遂行できたことは、一度してありませんでした。
▽―▽
―余談―
クロノユキに脅されたからこそ、イチョウは行き場のない衝動をエビたちにぶつけたのである。
「お前らが不甲斐ないからだ!」
などとでっちあげの理由も付けつつ。
最終的に彼の攻撃は目標物に命中し、見事跡形もなく破壊した。
「…少しはすっきりしたか」
呟きつつ、彼は残ったクロノユキへの怒りの衝動を、残存するユニットにぶつけるため、その場を離脱した。
ちなみに、Kユニットはただの要塞ではなく、ユニットの無限復活を担う機械を搭載した、生産施設でもある。また、点Pの先導者の指示を発する基地でもあり、世界征服を始めるにあたり、地ならしされた土地に基地を展開する機能を持った、特殊機械でもあった。
それが先程のイチョウの攻撃で破壊された。これがどういうことを意味するのかと言うと。
「……馬鹿な」
点Pの先導者の野望が、事実上食い止められたということである。揃えるべき兵も、基地も失ったに等しい状態にあるのだから。
残存のユニットも、数少ない無事な趣味人やイチョウに駆られている最中であり、全滅は時間の問題である。
「バカなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
こうして、誰も知らないところで、誰も知らない壮大な計画が、以後誰にも知られることなく潰されたのだった。
大迷惑戦記そそれそれれ 結芽月 @kkp37CcC
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