その拾肆 ~三種の神器~
『サリー! お前にプレゼントだ! 今度はちゃんと受け取れよ』
男の声が聴こえた瞬間、ラプラスさまの首元には赤い首飾りが付けられていた。
ラプラスさまは不思議そうにペンダントトップを手にすると、まじまじと見つめて声を漏らす。
「これは……六芒星が中に収められた
『それは、元はお前が持っていた三種の神器の一つ、
「こらぁー! 勝手に三種の神器を改造するんじゃない! どうしてそなたはいつも勝手なことを」
ラプラスさまが手をぶんぶん振り回して声を荒げる。
一体どういう関係なのだろう?
会話の感じからして親しい間柄だということは感じるけど。
「おい、バルトサールよ! お主からはこっちの状況が見えているのだろう? いちゃついておらんで、とっととアドバイスをよこせ」
『やや、キレネーちゃんは相変わらず清々しいほどのドSだねぇ。オーケイオーケイ、なら一つ』
「なんじゃ?」
『そいつ、カグツチは何重にもバフがかかっている状態だ。お前ら、大事なことが一つ抜けてるぜ』
「「あ!」」
ラプラスさまとキレネーさんが同時に何かに気がついたようだ。
「そっか、助かったよ。ありがとう、バル!」
『いいってことよ。あ、そうだ。さっきの首飾りの装具アビリティ。サリーなら解放できると思うぜ。それならカグツチのバフもきっと何とかなるんじゃねーの』
「バルってば普段はダラダラしてるくせに、たまーに役立つんだよね」
『おいおい、感謝してんなら、素直にそう言えっつーの。てことで、今度はデートの誘いを断らないでくれよな』
「あぁ、考えとくよ」
『マジ? やったぜ! 絶対だかんな! お、そろそろ通信魔法が途切れそうだ。お前ら、無事に戻ってこいよ。
サリー、デートの約束忘れんじゃねーぞ。
キレネーちゃん、お前がいれば安心だ。あとは任せた。
んで、べっぴんの茨木ちゃん。もうひと頑張りだぞ。スサノ……ギルをよろしく頼む。
んじゃなー』【プツッ】
そして声は消えた。
まるで突然やってきた嵐のようだった。
最後にあたしの名を呼んで、スサノオ? と、もう一人知らぬ名を言っていたけど、ギル……って誰だろう。
「あのぉ、今のは……?」
「ごめん茨木、説明はあとでね。キレネー! MPをこっちにくれるかい!?」
さっきまであんなに疲れていたラプラスさまに、みるみる生気が戻っていた。
バルトサールと言う人は何者なのか、他にも色々聞きたかったけど、確かにそれは後回しだ。
あたしたちには先にやらなきゃいけないことが残っている。
「お主はバカみたいにMPを消費してしまうからな。渡せる魔力はこれで最後じゃぞ。ったく、2発分でいいのじゃな?」
「あぁ、それで十分」
コクリと頷いたキレネーさんが「MPパサー」と口にして杖を振ると膨大な魔力が杖の先からラプラスさまに送られる。
あまりの魔力にラプラスさまの髪が宙に浮いて逆立っていた。
その時。
「マジックシールド!」【ガキィン】
突然キレネーさんが防御魔法を展開した。
地上にいるカグツチからの攻撃をはじき返したのだ。
「おいゴラ。いくらあがいても無駄だぜえ。俺に殺されるか、この国を見捨てて逃げるか、どっちか選べや」
地上のカグツチは絡みついた封印を完全に振りほどいていた。
身体にまとった炎の大きさはこれまで見た中で最大級。
「行け、ラプラス! お主なら三種の神器を使いこなせるじゃろ。今度こそ決めるのじゃ!」
「我にまっかせなさーい!」と気合の籠った声を上げると、地上のカグツチに向かって詠唱を開始。
首飾りから眩い光が溢れ、ラプラスさまと共鳴し合って魔力がさらに増大していく。
その姿は、まさに闇夜に輝く星天の如く。
「掛けまくも
首飾りから紅色の魔力が放出されると、カグツチへ向かって流れ星のように魔法が降り注いでいく。
カグツチはその魔法を軽々と手で弾くと、勝ち誇ったように高らかに吼えた。
「こんのクソバカどもがよぉ! オリャーよ、
「バカはそなただよ。これは完全に別ものだ! こっちは三種の神器の装具アビリティ。そなたがこれまでに受けたことのない、初めての魔法だろうさッ」
カグツチに降り注ぐ魔力は、その数をどんどん増して行く。
一つ直撃する度に一つの効果が失われていく。
それはカグツチを絶望の底に叩き落すには十分すぎる効力を持っていたのだ。
「な……ウソだろ……これまで千年以上かけて重ねてきたバフが、こんなことで解除されるなんて……あああ、あっちゃならねぇ……や、やめ、やめろ……やめてくれよおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
流星群のような完全解除魔法をその身体に浴び続けたカグツチはこれまでに超耐性によって得たバフ効果を全て失うと、まるで子供のような小さな姿へと形を変えていた。
身に纏った炎もとても小さく、溢れんばかりの自信に満ち満ちていたカグツチの姿はもはやどこにもない。
「まさに生まれたてに戻ったって訳だね。随分と苦労させてくれたけど、これでやっと終わる」
「ままままま待て! オレは命令されてただけなんだよ! 本当はオレだってこんなことやりたくなかった――」
しかし、ラプラスさまはもちろん聞く耳を一切持たない。
反撃手段を持たないカグツチには、すでにあたしの憧術さえも必要としなかったのだ。
「森羅万象、幾億の生命、邪悪なる魂の連鎖を断つ。我に其の力を与えよ。彼の者に永遠の
本日二度目となる封印の詠唱。
ラプラスさまの残った全魔力が込められた鈍色の巨大な球体は、結びの言葉がトリガーとなって放たれる。
「〈
その手から放たれた巨大な魔力の塊は逃げ場のないカグツチにまとわりつくように直撃。
ズズズ……と音を立てて、その存在をひと飲みにすると、ゆっくりと地の奥底に向かって引きずり込んで行く。
「あ、アマテラスぅ……お、おぼ、覚えていろ……未来永劫、子々孫々……この屈辱は決して忘れんからな……何千……何万年かかろうとも、この恨み……決して晴らさでおくべきか……必ずや貴様を呪い殺して……かはっ」
カグツチの呪詛が消えて地鳴りが止むと、あたしたちの目の前には巨大な穴がぽっかりと開いていた。
一人魔力を残しているキレネーさんが土属性魔法で山を削って大量の土砂を大きな穴に埋めていく。
とんでもないことをあっさりとこなしてしまう。
今回の陰の立役者はこの人なのかもしれない。
「ありがとね、キレネー。あぁ、やーっと終わったかぁ」
「うむ、久しぶりに興が乗るイベントだったのじゃ」
「あの……お二人とも、この度は何とお礼を言ったらいいのか」
ほうきの上に大の字に寝転んで、安堵の表情を浮かべる二人に、あたしは恐縮気味に話しかける。
「なーに言ってんのさ。これは我らの使命でもあったんだ。茨木とスサノオに押し付けるような形になってしまって、こっちこそ申し訳なかったね」
風になびいて白銀色の髪が揺れていた。
そうか、アマテラスさまは……ラプラスさまはこうなることを見越して、八十神たちの反対を押し切ってまで人間への転生なんていうとんでもないことを実行に移したのだ。
「それにね、実は謝らなきゃいけないのは我らの方なんだ」
「え?」
「ごめん茨木。そなたはもう二度とスサノオには会えないんだ」
その言葉を聞いた途端、風が鳴り止んだような気がした。
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